文:ラリーズ編集部
新型コロナウイルスによる自粛ムードが完全に明けた2024年は、国内外で多くの大会が開催された。日本代表が出場した試合だけでも世界選手権、パリ五輪、アジア選手権、混合W杯と、その数はコロナ前とほぼ同程度と言えるだろう。
そして、そんな数々の大会が開催される中で、卓球史に残る名試合も数多く生まれた。
そこで今回は、2024年で最も印象に残った試合をRallysのメンバー5名が1つずつピックアップ。選出ポイントと併せて紹介する。
このページの目次
アジア卓球選手権 女子団体決勝 中国 vs 日本
写真:女子団体表彰式/撮影:ラリーズ編集部
選者:中川正博(株式会社ラリーズ取締役)
選出コメント
日本が中国の壁を遂に越えた。
1番で張本美和(木下グループ)が王藝迪(ワンイーディ)を下し、2番では伊藤美誠(スターツ)が孫頴莎(スンイーシャ)に敗れるも、3番で平野美宇(木下グループ)が陳幸同(チェンシントン)を撃破。そして、運命の4番では張本が過去全敗だった孫頴莎に劇的勝利を収めて、マッチカウント3-1で勝利。女子日本代表が中国代表を撃破して、50年ぶりの快挙を達成した。
同年の世界選手権でも女子日本代表は中国代表を追い詰めていたこともあり、中国越えの期待感は高まっていたが、エースの早田ひな(日本生命)が怪我で出場できなかったこともあり、下馬評としては依然「中国優勢」かと思われていた。
そんななかで16歳の張本が2勝をあげて勝利を収めたのだから、「この試合をスルーしろ」と言われても無理な話ではある。
私は「2023年の最も印象に残った試合」でも張本美和の試合(全農CUP大阪大会決勝の早田との試合)を選び、「これから始まる『張本美和の物語』の1ページ目に刻まれることになるだろう。」と綴った。その言葉に続けるのであれば、この試合は「張本美和の物語」の2ページ目に記されるべき試合である。
試合結果
〇張本美和(木下グループ)3-2 王藝迪(ワンイーディ)
7-11/11-7/11-6/8-11/11-9
伊藤美誠(スターツ)0-3 孫頴莎(スンイーシャ)〇
10-12/6-11/5-11
〇平野美宇(木下グループ)3-1 陳幸同(チェンシントン)
11-9/10-12/12-10/11-4
〇張本美和(木下グループ)3-2 孫頴莎(スンイーシャ)
9-11/6-11/11-8/11-7/11-6
ノジマTリーグ2024-2025シーズン(12月1日)金沢ポート vs 木下マイスター東京 五十嵐史弥 vs リンユンジュ
写真:五十嵐史弥(金沢ポート)/撮影:ラリーズ編集部
選者:槌谷昭人(株式会社ラリーズメディア事業本部長)
選出コメント
会場全体が「まさか」の後に歓喜する展開だった。
五十嵐史弥(金沢ポート)と、木下マイスター東京のエース・リンユンジュの対戦。ゲームカウント1−2、点数は5-10で、リンがマッチポイントを握る。そこから、五十嵐が覚醒した。
5-10から6連続得点で第4マッチを取ると、6−6から始まる最終第5ゲームは10-6まで、実に五十嵐の10連続得点である。リンに勝利した五十嵐は、ビクトリーマッチで大島祐哉にも勝利し、金沢ポートのホームマッチ会場は熱狂の渦に包まれた。
試合後、いつまでも余韻の冷めない様子のお客さんと会場で接しながら、この日観に来てくれたお客さんの多くは、きっと卓球のファンになってくれたという感触を得た試合だった。
試合結果
〇五十嵐史弥 3-2 リンユンジュ
6-11/11-10/3-11/11-10/11-9
全日本大学総合卓球選手権大会・個人の部(全日学)2024 男子シングルス5回戦〜決勝 徳田幹太
写真:徳田幹太(早稲田大)/撮影:ラリーズ編集部
選者:山下大志(Rallys編集長)
選出コメント
小学2年で日本一になるも、以降は全国大会のシングルス優勝からは遠のいていた徳田幹太(早稲田大)。早稲田大学進学後、1年生の全日学ではダブルス優勝もシングルスはベスト32で終わっており、リベンジを期して挑んだ今年の全日学で一気に頂点へと駆け上がった。
特に、5回戦から決勝までの4試合は全ゲーム4-3勝ちと、1日で実に28ゲームを戦い抜いての優勝だったこともあり、大きな話題となった。
そして、この全日学優勝がキッカケでTリーグ・金沢ポートとの契約も勝ち取り、Tリーグデビュー戦では日本代表の松島輝空(木下グループ)に勝利。その勝負強さはとどまることを知らない。
まさに、今年最も飛躍を遂げた選手と言っても過言ではないだろう。
試合結果
【5回戦】
鈴木颯(愛知工業大学)3–4 徳田幹太(早稲田大学)〇
【準々決勝】
〇徳田幹太(早稲田大学)4-3 三浦裕大(筑波大学)
【準決勝】
伊藤礼博(日本大学)3–4 徳田幹太(早稲田大学)〇
【決勝】
〇徳田幹太(早稲田大学)4-3 岡野俊介(朝日大学)
11-4/4-11/13-11/12-14/11-13/11-9/15-13
パリ五輪 男子シングルス決勝 トルルス・モーレゴード vs 樊振東
写真:トルルス・モーレゴード(スウェーデン)/提供:ITTFWorld
選者:竹下友也(株式会社ラリーズ新規事業部部長)
選出コメント
五輪シングルス決勝という大舞台で、中国とスウェーデンの試合を再び観れるとは誰が予想できただろうか。
破壊力溢れる両ハンドで攻める樊振東(ファンジェンドン)と、多彩な変化攻撃とフォアハンドの連打見せたトルルス・モーレゴードの試合は、まさにガチンコの殴り合いであった。
結果的には、樊振東が“卓球帝国”中国代表のエースとしての意地を見せた形となったが、モーレゴードは得点以上に樊振東を追い詰めたことは間違いない。
これからもモーレゴードには、奇想天外なプレーで中国の厚き壁を越えていくことを期待したい。
試合結果
〇樊振東(ファンジェンドン・中国)4-1 トルルス・モーレゴード(スウェーデン)
7-11/11-9/11-9/11-8/11-8
パリ五輪 混合ダブルス1回戦 張本智和/早田ひな vs 李正植/金琴英
写真:李正植(リジョンシク)/金琴英(キムクムヨン・北朝鮮)/提供:ITTFWorld
選者:和田遥樹(Rallys編集部)
選出コメント
「衝撃」
この試合を表すのに最も相応しい言葉であろう。
張本智和(智和企画)/早田ひな(日本生命)ペアはパリ五輪直前まで国際大会に出場し、本大会のシード順を決める世界ランキングを死に物狂いで上げていた。そして、やっとの思いで世界ランキング2位を獲得し、1位の中国ペアとは決勝まで当たらない位置に入ることができた。
そんな背景もあり「メダル獲得は固い」というのが大方の見方であったが、結果的に1回戦に登場した李正植(リジョンシク)/金琴英(キムクムヨン・北朝鮮)ペアに敗北。バック面に粒高ラバーを貼る金琴英の変化攻撃と、李正植のフィジカルを活かした強烈なフォアハンドに終始苦しめられた。
もちろん、北朝鮮代表選手はこれまでも国際大会で数多くの番狂わせを起こしてきていた。それゆえ、この結果が予想できなかったわけではなかったが、パリ五輪までの張本/早田ペアの戦いぶりを見ていただけに、「あそこまで仕上がっていた張本/早田ペアを、こうもあっさりと崩すのか」と、驚きを隠せなかった。
「粒高ラバーを使っている選手が活躍して嬉しい」というのが、同じ粒高ラバーを使用する卓球ファンとしての私の本音ではあった。しかし、日本の卓球メディアで記事を書く者としては手放しで喜べず、その夜はなんとも複雑な気持ちで記事を書いたことを今でも思い出す。
試合結果
張本智和(智和企画)/早田ひな(日本生命)1-4 李正植(リジョンシク)/金琴英(キムクムヨン・北朝鮮)〇
5-11/11-7/4-11/13-15/10-12