中学校の卓球部の今後、卓球の普及、指導者兼親として子供への接し方…卓球場経営者5名と座談会してみた | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:座談会の様子/撮影:ラリーズ編集部

卓球×インタビュー 中学校の卓球部の今後、卓球の普及、指導者兼親として子供への接し方…卓球場経営者5名と座談会してみた

2025.01.14

この記事を書いた人
学生時代は出雲北陵高校→明治大学と強豪校でプレー。現在はフリーランスのクリエイターとして映像やデザインの制作活動をしながら、卓球メディアRallysの中国地方の物販営業を担当している。

昨今、中学校の部活動について多方面で議論が展開されている。

これまでは学校の教員が顧問として部活動を支えてきたが、教員の働き方改革の一環として、外部の指導員を雇用して担当をするという流れができつつある。

しかしながら、すべての学校が外部指導員を雇って部活動を継続することは容易ではない。なかには、部活動そのものを廃止する学校も出てくるだろうし、「部活動の制度そのものを廃止して、地域のスポーツクラブに機能を移管させるべきだ」という意見も出ている。

そしてこの変革は、中学校の卓球部員が競技人口の3分の1を占めると言われている卓球において、無視できない話でもある。

10月19、20日にこぞのえスポーツ本店で行われた合同合宿に営業に伺った際、卓球業界の行く末を左右するとも言えるこの問題に関して議論すべく、クラブチーム代表者による対談の場が設けられた。

卓球場・卓球ショップ・クラブチームを運営する、小園江慶一郎さん(こぞのえスポーツ)、飯村敏文さん(ヒロタクスポーツ)、松下智子さん(城山ひのくにJr.)、竹谷陽子さん(初喜TTC)、小路雅則さん(コスモスポーツ)の5名に、部活動とクラブチームの今後について、卓球の普及について、指導者兼親として子供への接し方についてなどお話を伺った。

中体連の今後はどうなる?

――最近どこの卓球ショップさんでも、中学校の部活動の存続に関する話をよく伺います。

今回はクラブチームの代表の皆さん、今後の展望を議論できればなと思っています。

松下智子さん:小学生の卓球人口は、協会登録人数の全体の3%しかいないらしいんですよ。

じゃあどの層が1番多いかって言ったら中学生なんです。その中学生のボリュームゾーンが減ったら卓球界にとってはマイナスですよね。


写真:小園江慶一郎さん(手前)、松下智子さん(中央)、竹谷陽子さん/撮影:ラリーズ編集部

小園江慶一郎さん:僕らショップも売り上げの半分近くはやっぱり中学生なんですよね。

中学生が卓球を始める4〜6月に売り上げがドンと増えます。そこで年間の半分程度を稼ぐこともあります。

――年間の半分の売上がなくなるのは怖いですし、死活問題ですよね…。
小園江さん:おっしゃる通りです。今までは先生がボランティアで部活を見ていて、親もタダだからやらせていたという背景はあるんですよね。

それが「先生の働き方改革でできなくなります」→「外部コーチに委託します」→「外部コーチはタダで働けないからお金が発生します」となると、かなり事情は変わってくると思います。

飯村敏文さん:外部コーチの委託料は学校が払うものなんですか?それとも生徒の保護者が払うものなんですかね?
小路雅則さん:予算がその学校によってあると思うんですけど、それで全部賄えるほどの金額は出ないと思います。

なので、生徒の保護者からいくらか徴収する形にしなければ、受けてくれる外部コーチの人も「この金額じゃできません」となって、外部コーチをやる人がいなくなる可能性は高いですよね。

小園江さん:部活動ではもうできないので、「地域の卓球場が頑張って盛り上げてください」と言われることもありますが、結構困りますよね。
――親としては「卓球は怪我も少ないし、比較的始めやすいから安心」という気持ちはあると思うんですよね。

五輪効果もあって人気のスポーツなのに「中体連がなくなったらみんなどうするんだろう?」とは思います。

小園江さん:クラブチームでやっている子たちをずっと見ていると「これが当たり前」と思っちゃいますけど、実は全然当たり前じゃない。

数で言えば、部活動でプレーしている子のほうが多いんですよね。

竹谷陽子さん:部活動が支えてきた面は大きいですよね。中学から卓球部がなくなったとしても卓球ができる環境は作ってあげたい、残してあげたいなとは思っています。

卓球人口減少への対策

――総人口の減少に比例して、卓球人口もこれから減っていくと予想されています。

それに対して何か取り組んでいることとかあれば、教えていただきたいです。


写真:飯村敏文さん(手前)と小路雅則さん/撮影:ラリーズ編集部

飯村さん:うちはチラシを配ったりして広告、集客に力を入れています。チラシは5,000枚作って、割引券をつけて地域に配布しました。

結果的に、認知が広がって初心者の小学校低学年の子どもやママさんが生徒として増えたので、効果はあったと思います。

竹谷さん:私は実際に幼稚園に行って幼稚園児に卓球を体験をしてもらう取り組みをしています。

クラブの卒部生にも手伝ってもらいながら園児たちのために活動してます。

まずは卓球の楽しさを知ってもらうことが大事だと思うので、クラブに来てくれるのを待つだけではなく我々から卓球の素晴らしさを伝える活動をしています。

――素晴らしい取り組みですね。
小路さん:うちは一時期ゴールドジムの中で卓球場をやっていました。そのときの事務さんが、無料体験会や入会金無料キャンペーンをやったり、広告宣伝費を使って地元の情報誌に掲載してもらっていたりしていましたね。

普及に関しては、もちろん何かやらないといけないけども、結局自分たちの仕事や身の回りのことでいっぱいいっぱいで…。

従業員を雇っているわけでもないし、県や市の卓球協会の仕事もあるしで、普及活動に使える時間はほとんどないですね。

松下さん:うちも特に何も…。皆さん偉いなぁと思って聞いていました(笑)。
――小路さんの悩みに共感できる卓球場経営者は多いと思います。

普及はしたいけれども、商売もちゃんとして強化もしていかないと普及にもつながらない。本当に大変だと思います。

小園江さん:普及で言えば、Rallysさんには一番頑張ってもらいたいですよね(笑)。
――はい、頑張ります!

指導者として、親として 子どもへの接し方

――話は変わるのですが、お子さんに対してみなさんどのような教育や卓球の指導をされていましたか?
飯村さん:うちは特殊だと思っていて、卓球に関して子どもに怒ったことはないです。

怒ってもしょうがないと思っているので、どうやってやる気にさせるかだけをいつも考えていました。


写真:明治大学で活躍している息子の飯村悠太/撮影:ラリーズ編集部

飯村さん:なのでそのせいか、今でも練習の動画を撮って送ってきて電話でアドバイスを求めてくるんです。卓球が好きなんですよ。

親子というより、卓球仲間みたいな感じで僕としては嬉しいですね。

でも、家では卓球の話を禁止にしていました。ずっと卓球場にいて卓球のことを考えていて、家でも卓球の話をしたら家族の時間がなくなるじゃないですか。嫁は料理しながら卓球の話をしていましたが、僕は抑止していましたね(笑)。

竹谷さん:竹谷家は一歩家を出たらコーチと選手という関係でいられるようメリハリをつけるように習慣づけていました。

小学生の時は、家の玄関を出たら敬語を使うようにしてました。とにかく礼節を重んじて、感謝の気持ちを忘れないように育って欲しいと思ってました。

そうしないと周りのクラブ生にも示しがつかなくなるのと、私もそっちの方がやりやすかったですね。


写真:娘の竹谷美涼(香ヶ丘リベルテ高)はインターハイシングルスを制した/撮影:ラリーズ編集部

竹谷さん:今はもう、親子というより友達みたいな感覚でなんでも話しますね。

これからも、目標を達成できるように親として、私生活もそうですが海外でもっとチャレンジできるようできる限りのサポートを続けて行きます。

松下さん:うちは主人が厳しかったので私はフォローに回っていました。

うちの三男が野田学園に行ったときにお父さんって怖いものだと思っていたので、他の選手のフレンドリーなお父さんを見てびっくりしていました(笑)。

家で卓球の話どころか普通の会話も怖くてできなかったと思います。今はそんなことありませんけどね(笑)。

小路さん:うちも父が厳格な人で、怖くて言うことができませんでした。

なので、反面教師ではないですが、卓球以外のところでは優しく接するようにしています。

うちも家ではなるべく卓球の話をしないようにしていますね。

小園江さん:うちも父親が厳しくて、私も子どもに対しては厳しく教育していました。

でもそれには、自分の子どもに対して厳しくすることで周りの子どもたちにも緊張感を与えるという意図があったんです。ある意味見せしめですけど、子どもたちにはそれを伝えたうえで厳しく接していました。

僕からみなさんに聞いてみたいんですが、自分の子どもに一番怒ったことってどんなことですか?

松下さん:なんだろう? でも1番手が掛かったのは次男ですかね。

5時から練習なのに、5時になったら自転車で逃げるんですよ(笑)。それを車で追いかけて練習に連れて行っていました。


写真:今では実業団やTリーグで立派に活躍している松下家次男・松下大星(クローバー歯科カスピッズ)/撮影:ラリーズ編集部

飯村さん:うちの次男もそんな感じです(笑)。

うちはさっきも言ったんですが、子どもに対して怒ったことはないです。

小路さん:いっぱいありすぎて…(笑)。よく飯村さんに「怒るな」って言われるんですけど、改めて「なんで怒るんだろう?」って考えてみたんです。

僕は中学生で卓球を始めたんですが、親から英才教育を受けてきたわけではない。

一方で、子どもは小学生から卓球を始めて英才教育を受けさせている。

つまり、子どもに期待しているからこそ、子どもができなかったときに「なんでできないんだ?」って怒りの感情が出てくるんじゃないかなと思いました。

――みなさんお子さんに対してすごく愛があるなと感じました。

普及活動については、Rallysとしても今後取り組んでいかないといけないと改めて感じました!本日はありがとうございました!

卓球の普及について何ができるか

日本代表選手の五輪や世界選手権での華々しい活躍が取り上げられ、卓球の人気やイメージはここ10年で大きく変わった。

学校の現場で話を聞くと、卓球部の入部希望者が多く、台が足りないという嬉しい悲鳴も聞こえてくる。

強化を発端とした普及が上手くいっているとも言える。

しかし一方で、それは「中学校に卓球部がある」という身近に卓球を始められる環境があったからこそ成立してきた部分もあるだろう。

今後はその前提条件が成り立たなくなる。

どうすれば卓球を始めてもらえるのか、続けてもらえるのか、再開してもらえるのか。普及面について卓球界全体で真剣に考えなければならないときが来ている。

今回、卓球を普及する現場の最前線に立たれている5名のお話を伺って、メディアとしてメーカーとして、卓球界全体を巻き込んで何ができるのか改めて考えていきたいと感じた。