卓球インタビュー 「緑の技術者集団」ラボライブの1日に密着
2017.10.11
写真・文:川嶋弘文(ラリーズ編集部)
スマートフォン全盛となりインターネットで卓球を楽しむのが当たり前となった現代。卓球ファンが常に欲している卓球関連のコンテンツがある。それは卓球の試合動画だ。サッカーや野球、ゴルフなどと比べてテレビ放映の少ない卓球の試合はYoutubeを中心としたネット動画で楽しむ文化が醸成されつつある。
ただ、欲を言えばスポーツの試合はリアルタイムで見たいものだ。試合展開がどうなるか分からない生中継の方がドキドキするのは卓球に限ったことではない。
この卓球の試合をネット生中継で配信するために作られた会社がLabolive(ラボライブ)だ。全日本選手権や東京選手権などの国内大会に中継カメラと通信サーバーを引っさげて、「生で卓球の試合が見たい」と願う卓球ファンのために奔走するラボライブの1日に密着した。
選手よりも早くラボライブの戦いは始まる
今回ラリーズが密着取材させていただいた大会は所沢市民体育館で行われた秋季関東学生卓球リーグ。全国の強豪高校を卒業した選手が関東の大学に集結しており、国内最高峰の学生リーグであることから、全国の卓球ファンや会場に応援に来られない各大学のOBや選手の関係者などが、中継を楽しみにしている。
この日のラボライブのスタッフは8名。8時30分に会場入りするとカメラや三脚、サーバー、PC、配線類などの機材を体育館に運びこむ。卓球台やコートが設営される前の静かな会場でラボライブの一日がはじまった。
この日の生中継は15時スタートの1部リーグの試合。とはいえ、2部リーグがはじまる10時までに全ての撮影機材と配信準備を終えなければならないので準備は慌ただしい。コート全体を映すために170cmの高さから撮影が出来る長い三脚の上に、1台20万円以上する高性能なビデオカメラをセット。
その後、特注品の100mの通信ケーブルをコート脇の通路に敷いていく。「これ以上長いケーブルだとノイズが入るんですよね」と語るのは代表の雪本氏。岡山の名門、関西高校から龍谷大でもプレーした経歴のある元選手で、現在は電気通信大学で教鞭も執る卓球界きってのIT技術者で経営者でもある。「このケーブルは巻くのに熟練の技がいるんですよ。ちゃんと八の字巻きにしないと出すときにこじれてしまう。一束30秒以内に巻けるようになれば一人前ですね」
「上り20.55メガ、今日の会場は速度早くていいねぇ」と話す雪本氏。地下にある試合会場などでは通信速度が出ないケースがあり、調整が必要になるという。
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IT技術とサービス精神の両立
カメラ位置についても「右利きが多いので右後ろから撮る」「審判のスコアボードの向きをラボライブのカメラから得点が見やすいように事務局と調整する」「試合前の校歌斉唱も流して欲しいというニーズがあったので今回大会から流すようにした」など視聴者のために細かい調整を怠らない。
ラリーズ読者にはIT関係者も多いため、技術的なことも雪本氏に語っていただいた。「自前で台ごとのアクセス状況を把握できるシステム開発をしました。開発言語はバックエンドはpythonとgoでフロントはJavascriptを使ってますね。」と専門用語が続く。「サーバーはオリジン(エンコード)が2台、配信用を2台の計4台で今日は臨みます」
試合開始までテスト配信を行い、LaboLiveのWEBサイト上で中継動画が流れるよう調整が続く。
中継開始の瞬間は意外にもあっさりしていた。PCに向かう静かな技術者集団が自然体で中継を開始していた。
中継開始から30分が経過した15時30分。「250名が観てますね。やっぱり各校のオーダーが1番にエースを置いてるから注目度高いみたいですね」とアクセス動向や負荷を見ながらも、楽しそうに語る。人気選手の登場に合わせて再生回数が増えるのが分かるという。
試合が始まるとTwitterでの試合速報も流していく。「中継されている試合の戦況が分かった方が見てて面白いでしょ」
全てはインターネットの向こう側の卓球ファンのために。行動指針が徹底されている。
「見たよ」が原動力
19時過ぎまで熱戦が繰り広げられたこの日の関東学生リーグ。ラボライブのスタッフが会場を撤収したのは20時過ぎ。
「所沢遠いなぁ」と談笑しながら会場を跡にした緑の技術者集団。
試合会場で彼らを見かけたら一言「ラボライブ見たよ」と声をかけてあげて欲しい。
「見たよ、の一言が大会中継を行う一番のモチベーションになりますね」と雪本氏は語る。
今後も卓球の試合を楽しみにするファンのためにラボライブの挑戦は続く。