2020シーズン、女子大学卓球界をリードしていくのは、間違いなくこの選手になるだろう。
中央大学の3年・山本笙子だ。
彼女は、2017年の関東学生新人選手権、2018年の関東学生選手権と女子シングルスで優勝。昨年には全日本大学総合卓球選手権(以下、全日学)で、同じ中大の4年・森田彩音に惜敗するも、準優勝と結果を残した。
さらにTリーグの2ndシーズンではトップおとめピンポンズ名古屋(以下、トップ)に所属し、Tリーガーとしても活躍の場を広げている。
4月からは最終学年となって、中大女子卓球部を引っ張っていく存在となる山本。今回は、そんな躍進中の彼女の卓球人生に迫る。
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試行錯誤の末に掴んだ「関東学生シングルス」の栄冠
写真:山本笙子/撮影:佐藤主祥
山本は、福井県で生まれ、福原愛さんの試合をテレビで観たことをきっかけに小学1年時から卓球にのめり込んでいった。2年後の小学3年時からスポーツ少年団に入り、本格的に練習をスタートした。
その後はクラブチームを経て、高校はインターハイ団体戦出場25回以上を誇る県内屈指の強豪校・福井商業に進学した。
「公立なので勉強があっての部活でした。テスト期間だと部活をやっちゃいけなかったし、点数取らなくちゃ部活にも行けない」という文武両道の厳しい環境で山本は腕を磨いた。
2015年のインターハイ団体戦、翌年のインターハイ女子シングルスでベスト8、同年の全日本選手権ジュニアの部でもベスト8入りを果たすなど、常に全国の上位に食い込む活躍を見せていった。
高校卒業後は、福井商の監督が中大OBで、加えて1学年上の大澤京香も在学していたこともあり、中央大への進学を決める。
写真:山本笙子(写真は全日学時)/撮影:ラリーズ編集部
大学1年時には、「高校の頃の貯金がまだあったので(笑)」と謙遜しながらも2017年関東学生新人選手権女子シングルスを制覇し、ルーキーとして華々しいデビューを飾った。
しかし、そこから結果を残せない日々が続き、打開策を見つけようともがき苦しんだ。
「大学生になって、常にレベルの高い人たちに囲まれているのに、選手として成長できない自分がいて…。『何でなんだろう』って悩みました。だから先輩方に話を聞きに行ったり、上手い人の動画を見て研究したりして、なんとか現状を打破しようと試行錯誤を繰り返したんです」。
その甲斐あってか、2018年の関東学生選手権女子シングルスで見事優勝を果たした山本。「だいぶ自信になりました」と手応えを掴み、チームの中心選手として大きく成長を遂げた。
Tリーグを通して変わった卓球への意識
写真:山本笙子/撮影:佐藤主祥
大学に入って3年目を迎えた昨年の7月、先輩の森田と共にトップへの加入が決まった山本。それまで「別世界だったので…」と Tリーグ入りを果たすことは夢にも思っていなかったという。
主に前半戦でチームに帯同し、9月にはシングルスで2試合に出場した。いずれも勝利を収めることは叶わなかったが、彼女にとって、この舞台での経験は大きな財産となったようだ。
「トップレベルの選手の質の高いプレーを間近で見れたことはもちろん、社会人やプロとして活躍している選手と一緒に練習をさせていただけて、すごく刺激を受けました」。
写真:トップ名古屋で参戦した山本笙子/撮影:ラリーズ編集部
その中でも、Tリーグで戦う選手たちのプロ意識の高さに驚かされたと語る。
「この世界の人たちは、私たち学生と違って卓球でお金を稼いでいる分、勝負に対するこだわりが人一倍強い。試合を通じて、一球にかける想いの強さを感じたんです」。
経験が少ないルーキーであっても関係ない。勝ってチームに貢献するためならば、容赦なくラケットを振り抜いてくる。実際に世界ランク16位(2020年3月時点)の田志希(チョンジヒ・日本生命レッドエルフ)と試合をした際にも「私なんかにもこんなに声を出してくるんだ」と迫力に圧倒された。
だが、山本はひるむことなく前を向く。「甘い考えじゃダメだ。1本にこだわっていかないと」。
強い想いを持って挑んでくる選手と対面したことで、山本にも新たな意識が芽生え始めた。この卓球に対する意識の変化は、すぐさま結果として現れた。
全日学決勝“中大対決”で敗れるも、先輩の想い受け継ぎ来季へ
写真:山本笙子(写真は全日学時)/撮影:ラリーズ編集部
2019年10月、京都で行われた全日学女子シングルス。順調に勝ち上がった山本は、準々決勝で同じ中大の1学年後輩・梅村優香を4-2で破り、準決勝では早稲田大の鎌田那美をストレートで下して決勝進出を決めた。
「決勝まで行く予定は全然なかったんですけど(笑)、目の前の試合に集中して、一試合一試合を全力で臨んだ結果、最後まで進むことができました。高校では全国大会でベスト8止まりだったので、本当に嬉しかったです」。
写真:山本笙子/撮影:佐藤主祥
だが、対戦相手は奇しくも先輩の森田だった。試合は山本が序盤、ゲームカウント2-1でリードしていたが、その後、3ゲームを連取されて2-4と逆転負け。それでも「いつも練習している相手で、本当に尊敬する先輩。だから最後に彩音さんと試合することができてよかった」と感慨深げに語った。
試合後には、森田の母から「一生懸命戦ってくれてありがとう」と感謝の気持ちを伝えられ、「感極まって泣いちゃいました」と照れ笑いを浮かべながら振り返った。
写真:山本笙子(中央大学)/撮影:ラリーズ編集部
森田ら4年生は、3月には卒業を迎える。4月からは先輩の想いを受け継ぎ、チームを牽引する中心選手として期待される山本は、「気づいたらもう最後の年。悔いを残さないよう、関東学生リーグ戦の春季・秋季、そして全日学と、団体戦では3回チャンスがあるので、どれかで必ず優勝したい」と個人以上にチームとしてのタイトル獲得を目指していた。
それも、次期エースとしての覚悟の表れだろう。4年生が抜け、山本を筆頭にどのようなチームへと生まれ変わるのか。来季の中大女子卓球部のさらなる進化に期待したい。