文:ラリーズ編集部
新型コロナウイルスによる自粛ムードが完全に開けた2023年は、国内外で多くの大会が開催された。日本代表が出場した試合だけでも、世界選手権、アジア選手権、アジア競技大会、混合W杯と、その数はコロナ前とほぼ同程度と言えるだろう。
そして、そんな数々の大会が開催される中で、卓球史に残る名試合も数多く生まれた。
そこで今回は、2023年で最も印象に残った試合をRallysのメンバー7名が1つずつピックアップ。選出ポイントと併せて紹介する。
このページの目次
- 1 世界選手権2023アジア大陸予選 男子シングルスベスト16決定戦 吉村真晴 vs 馬龍
- 2 2023全農CUP大阪大会 女子シングルス決勝 張本美和 vs 早田ひな
- 3 アジア選手権2023 男子シングルス2回戦 田中佑汰 vs 王楚欽
- 4 全日本大学総合卓球選手権大会・団体の部(インカレ)2023 男子団体準決勝 伊藤礼博 vs 横谷晟
- 5 世界選手権2023 女子シングルス準々決勝 早田ひな vs 王藝迪
- 6 特別国民体育大会卓球競技 男子団体決勝 村松雄斗 vs 髙見真己
- 7 WTTコンテンダーザグレブ2023 女子シングルス決勝 平野美宇 vs 孫穎莎
- 8 読者の皆さんからも募集中です(~12/22まで)
- 9 【日本一を獲り続けてきた男の素顔】田中佑汰の試合前日に1日密着してみた
- 10 【Rallys Store】ユニフォーム好評発売中
世界選手権2023アジア大陸予選 男子シングルスベスト16決定戦 吉村真晴 vs 馬龍
写真:吉村真晴(TEAM MAHARU)/提供:新華社/アフロ
選者:川嶋弘文(株式会社ラリーズ代表取締役)
選出コメント
長く日本代表を引っ張って来た水谷隼が引退し、丹羽孝希、松平健太らが国際大会から退く中、吉村真晴が日本男子のリーダー格として改めて存在感を示した一戦。世界最強の一角を維持する中国の馬龍を倒し、29歳にして自身初となる世界選手権シングルス代表の座を掴んだ。
試合結果
馬龍(マロン・中国)3-4 吉村真晴(TEAM MAHARU)〇
11-8/8-11/12-10/9-11/11-9/5-11/3-11
2023全農CUP大阪大会 女子シングルス決勝 張本美和 vs 早田ひな
写真:張本美和(木下アカデミー)/提供:アフロスポーツ
選者:中川正博(株式会社ラリーズ取締役)
選出コメント
2023年に入って本格的にシニアの大会で勝利を積み重ねてきた張本が、遂に壁を破った。
23歳にして全日本選手権で2度の優勝、パリ五輪選考会では最多3度の優勝を誇る“王者”に対して、張本は序盤から互角に打ち合う。競り合いながらもポイントを重ね、最後はゲームカウント4-2で勝利。最後のパリ五輪選考会で初の優勝を飾り、女子卓球新時代の到来を感じさせた。
兄の智和は、当時日本代表の絶対エースとして君臨していた水谷隼を撃破して、14歳で全日本選手権初優勝を飾っている。現在15歳の美和が9度目の挑戦で早田から初勝利を掴み取ったこの試合は、これから始まる「張本美和の物語」の1ページ目に刻まれることになるだろう。
試合結果
〇張本美和(木下アカデミー)4-2 早田ひな(日本生命)
7-11/11-8/11-7/10-12/12-10/11-9
アジア選手権2023 男子シングルス2回戦 田中佑汰 vs 王楚欽
写真:田中佑汰(個人)/提供:千葉 格/アフロ
選者:槌谷昭人(Rallys編集長)
選出コメント
田中佑汰の卓球が中国トップ選手にも通じることを、大舞台で証明した一戦。ラリー戦でも世界ランキング2位の王楚欽に負けず、相手の焦りとミスを誘う巧みな展開で、その成長と強さを見せた。
愛知工業大学を卒業し、名実ともにプロ卓球選手一年目の今年。パリ五輪代表選考レースを戦いながら、Tリーグ・金沢ポートにもほぼフル参戦と、心身ともにハードな一年だったはずだが、自身初出場のアジア選手権でその意地を見せた。
田中本人は「中国選手にはまだまだ。唯一のチャンスをものにできただけ」と淡々と振り返るが、日本男子卓球も中国トップ選手を破る可能性を持っていることを改めて示し、私たち日本の卓球ファンを鼓舞してくれた。
試合結果
〇田中佑汰(個人)3-2 王楚欽(ワンチューチン・中国)
6-11/14-12/3-11/11-5/11-7
全日本大学総合卓球選手権大会・団体の部(インカレ)2023 男子団体準決勝 伊藤礼博 vs 横谷晟
写真:伊藤礼博(日本大)/撮影:ラリーズ編集部
選者:山下大志(Rallys副編集長)
選出コメント
2022年世界選手権代表の横谷晟や現役日本代表の篠塚大登、インターハイ3冠王の鈴木颯と谷垣佑真を擁する“スター軍団”愛知工業大学に、関東1位の日本大学が挑んだ一戦。愛工大が鈴木、篠塚、谷垣と、愛工大名電高OBを揃え、日大も小林広夢、吉山僚一、加山裕の愛工大名電高OBの3人がオーダーに名を連ねる中、安田学園高出身の伊藤礼博は唯一の非・愛工大名電高出身者としてメンバー入りを果たした。
試合は前半1本ずつを取り合い、3番ダブルスで吉山/加山ペア(日大)がゲームカウント2-0リードでマッチポイントを握ったものの、そこから篠塚/谷垣ペア(愛工大)が大逆転勝利を収め、団体戦の流れは一気に愛工大へ傾いた。
しかし、4番で登場した伊藤は、その悪い流れの中でも気迫を前面に押し出して、得意のバックハンドを軸に横谷と大激戦を演じる。そして、ゲームカウント1-2のビハインドから、ゲームカウント3-2で横谷に逆転勝利。日大に勢いを取り戻した。
最後は5番が惜しくも敗れ、日大はあと一歩のところで勝利を逃したものの、スター軍団相手に一際輝きを見せた伊藤の戦いは、多くの学生選手に勇気を与える一戦となった。
試合結果
〇伊藤礼博(日本大)3-2 横谷晟(愛知工業大)
11-6/8-11/9-11/11-2/11-7
世界選手権2023 女子シングルス準々決勝 早田ひな vs 王藝迪
写真:早田ひな(日本生命)/提供:WTT
選者:竹下友也(株式会社ラリーズ新規事業部部長)
選出コメント
国内の大会で無類の強さを見せる早田が、世界選手権個人戦では松平健太以来の中国超えを果たした試合。
序盤は王藝迪の強烈なフォアハンドが炸裂するも、早田も冷静にバックハンドで得点を重ね、互いに一歩も譲らない展開に。両者満身創痍の中、最終ゲームは20-19(早田リード)までもつれた末、最後は早田の執念のバックドライブで勝負が決まった。
卓球史に残る「死闘」であり、世界に勇気と感動を与えた。
試合結果
〇早田ひな(日本生命)4-3 王藝迪(ワンイーディ・中国)
4-11/11-3/11-9/6-11/11-9/8-11/21-19
特別国民体育大会卓球競技 男子団体決勝 村松雄斗 vs 髙見真己
写真:村松雄斗(鹿児島県スポーツ協会)※写真は2023年全日本選手権時/撮影:ラリーズ編集部
選者:橘川広太郎(Rallys編集部)
選出コメント
森薗政崇、町飛鳥、村松雄斗を擁する鹿児島県が、地元開催の国体で初優勝を飾った一戦。
準決勝で田中佑汰らを擁する佐賀県に勝利した鹿児島県は、決勝では実業団の名門・日鉄物流ブレイザーズの3選手が名を連ねる和歌山県と激突。マッチカウント1-2と追い込まれた鹿児島県だったが、定松祐輔とのフルゲームを森薗が制して、望みを繋ぐ。
そして、5番に出場した村松は、切れ味鋭いカットとパワフルな攻撃で躍動。髙見真己を退け、地元の大声援を背に劇的な優勝を決めた。
ジュニア時代は将来を嘱望され、世界選手権代表にも選出された経験を持つ村松。近年は膝の怪我に苦しめられて思うような結果を残せなかったが、昨年のブンデスリーガ参戦を契機に復活を遂げた。
そんな村松は、本大会では徳田幹太、田添響ら実力者を下し、6戦全勝で鹿児島県の初優勝に大きく貢献。プレーの高速化が進む現代卓球界においても、カットマンとして活躍を続ける村松雄斗の真価が発揮された一戦であった。
試合結果
〇村松雄斗(鹿児島県スポーツ協会・鹿児島県)3-1 髙見真己(日鉄物流ブレイザーズ・和歌山県)
11-7/11-5/7-11/11-8
WTTコンテンダーザグレブ2023 女子シングルス決勝 平野美宇 vs 孫穎莎
写真:平野美宇(木下グループ)/提供:WTT
選者:和田遥樹(Rallys編集部)
選出コメント
世界ランキング1位の孫穎莎(スンイーシャ・中国)から、平野美宇が歴史的勝利を収めた一戦。
この当時の孫穎莎は、2023年世界選手権で女子シングルス金メダルを獲得し、2023年のWTT(ワールドツアー)では既に3度の優勝を飾るなど、名実ともに“世界No.1プレーヤー”と言える状態だった。加えて、孫穎莎は外国人選手に4年間負けなし。下馬評では、圧倒的に孫穎莎が優勢だった。
そんな“絶対王者”に対して、平野は序盤から激しい打ち合いを挑み、孫穎莎と互角に渡り合う。ゲームカウント2-3で迎えた第6ゲームでは、平野が先にゲームポイントを握るも、孫穎莎の驚異の追い上げによって逆転。10-11とマッチポイントを握られた。試合を見ていた私も「やっぱ、中国選手には勝てないのか…」と、ほぼ諦めモードに入っていた。
だが、画面の中で戦っている平野は、まったく諦めていなかった。
バック対バックのラリーを制して11-11に追いつくと、続くラリーでは孫頴莎のツッツキミスで12-11に。
「お!? これはもしや…!?」
直後に孫穎莎のロングサービスでエースを取られ、「まぁまぁまぁ、そんな簡単には勝たせてくれんよね」と思ったのもつかの間、その後の2本を平野が制して、14-12でゲームを奪取した。
「キタ!これはアツイ!!」
以前、「メディア人たるもの、試合は中立的な目線で見なければいけない」と、先輩から頂戴したありがたいお言葉は、このとき既に脳内から消え失せていた。
「頼む! 勝ってくれ!!」
試合を見ながら記事を書いていた私は、脳汁ドバドバ状態(これが、卓球ライターの醍醐味だと思っている)。もはや、どちらが優勢なのかすらわからないぐらい(一人で)熱狂の渦にいると、気が付けば10-6で平野がマッチポイントを握っていた。
「おおお!!?こ、これは…まさかっ…!!」
その数秒後、平野が満面の笑みでガッツポーズを取った。
「イヨッシャァァァァ!!!キタァァァァァァァァァァァ!!!!」
思えば、「ハリケーン」とも称される前陣速攻で世界の舞台を席巻した平野も、中国選手に3連勝して優勝した2017年のアジア選手権以降は、国際大会で表彰台に上ることも少なくなっていった。東京五輪では女子団体で銀メダル獲得に貢献するも、「ハリケーン」の爆発力は見られなかった。
しかし、2022年のWTTフィーダーオトーチェッツ優勝以降、徐々に勝ち星が増えていき、2022年のWTTコンテンダーザグレブでは準優勝。そして、2023年の同大会で見事優勝を飾り、改めて世界にその名を轟かせた。
「ハリケーン平野、ここにあり」
この試合を私は、生涯忘れることがないだろう。
試合結果
〇平野美宇(木下グループ)4-3 孫穎莎(スンイーシャ・中国)
4-11/11-9/6-11/11-7/7-11/14-12/11-6
読者の皆さんからも募集中です(~12/22まで)
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