写真:混合団体ワールドカップを戦った早田ひな(日本生命)と戸上隼輔(井村屋グループ)/提供:ITTF
卓球プレーヤー向け 男子の競争激化と女子の実力格差 ロス五輪新種目・混合団体は“卓球界の未来”にどう影響するのか
2025.12.11
戦型:右シェーク裏粒
12月7日、卓球の混合団体ワールドカップが閉幕した。
既に3年目を迎えた本大会だが、過去2大会はその存在は大きく話題となっていたわけではない。なぜなら、過去2大会の日本代表はいずれも“ベストメンバー”と呼べる人選ではなかったからだ。
しかしながら、今大会の日本代表には世界ランキングで日本勢トップの張本智和(トヨタ自動車)と張本美和(木下グループ)をはじめ、早田ひな(日本生命)や戸上隼輔(井村屋グループ)ら、現時点でのベストメンバーが名を連ねていた。
これは言うまでもなく、今年の4月に混合団体が2028年ロサンゼルス五輪の正式種目への採用が発表された影響であろう。そのため、今大会では日本以外の各国も可能な限りのベストメンバーを揃えてきた。
写真:張本智和(トヨタ自動車)/提供:ITTF
そして、図らずも今大会は過去2大会に比べると何倍、いや何十倍も注目され、そのなかで日本代表は過去最高の成績である銀メダル獲得を成し遂げた。
(政治的な要素も絡み、褒められた注目のされ方ではなかったが)
注目もされ、一定の結果も残した今年の混合団体ワールドカップ。ロス五輪に向けた試金石としての役割も果たし、一見すると何の問題もないように思われるかもしれない。
しかし、敢えて私はこのタイミングで提起したい。
混合団体が描く“卓球界の未来”とは何なのかを。
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男女別団体にあった“ワクワク”
私が混合団体に一石を投じているのは、一言で言えば「男女別の団体で感じていたワクワク感が失われたから」からだ。
近年の団体戦、特に男子団体は大いにワクワクするものであった。
男子は日本と中国以外にも、ヨーロッパ各国やブラジル、アメリカ、ナイジェリアなど、世界各国に実力のある選手がいる。そのため、どの国の試合も見ていてワクワクする試合、すなわち勝ち負けが予想しづらい試合になりやすかった。
そして、それは「団体戦で中国を倒せるかも」と思わせてくれる国が、日本以外にも存在していたということでもあった。
男子では各国のハイレベル化進む
数年前まで、男子卓球界は中国の一強状態であった。
写真:馬龍(マロン)/提供:WTT
張継科(チャンジーカ)、馬龍(マロン)、許昕(シュシン)、樊振東(ファンジェンドン)ら、五輪代表に選ばれるのは世界ランキング1位を経験した選手ばかり。それ故に、五輪以外の国際大会でも中国勢が優勝を独占しており、その他の国の選手は「ワンチャンス」を狙うしかできなかった。
選手としての最盛期を迎えていたリオ五輪の水谷隼でさえ、中国の3番手の許昕にフルゲームでようやく勝てたぐらいだ。
しかし、現在はその様相は大きく様変わりしている。
東京五輪金の馬龍、パリ五輪金の樊振東が国際大会から退いて以降、明らかに中国男子の勢いに陰りが見えているのだ。
写真:トルルス・モーレゴード(スウェーデン)/提供:WTT
例えば、今年の8月に開催されたWTTスウェーデンスマッシュでは、地元スウェーデンのトルルス・モーレゴードが優勝を飾った。WTTスマッシュは国際大会のなかでも最もランクの高く、これまでは中国選手が優勝を獲り続けていた。
もちろん、当時世界ランキング1位の王楚欽(ワンチューチン)が欠場していたことは大きかったが、世界ランキング2位の林詩棟(リンシドン)は決勝まで勝ち残り、モーレゴードに敗れているのだ。
数年前の国際大会であれば、あり得なかった光景だ。
写真:ウーゴ・カルデラノ(ブラジル)/提供:ITTF
他にも、今年のワールドカップ(個人戦)準決勝で王楚欽、決勝で林詩棟を下したウーゴ・カルデラノ(ブラジル)や、今年のWTTチャイナスマッシュで林詩棟を下したフェリックス・ルブラン(フランス)、WTTチャンピオンズ横浜で王楚欽を下した我らが張本智和ら、中国選手と対等にやり合えるレベルの選手が各国に増えてきている。
もちろん、これは中国男子のタレント不足という点も要因としては考えられるだろう。件の林詩棟も世界ランキング2位とはいえ、まだ20歳の選手。粗がないほうがおかしい。さらに、現在の中国男子の3番手とされている梁靖崑(リャンジンクン)は既に29歳。選手としてのピークを迎えていた20代前半では、馬龍や樊振東の陰に隠れて五輪代表には届かなかった。
写真:林昀儒(リンユンジュ・チャイニーズタイペイ)/提供:WTT
そういった中国男子の厳しい台所事情もあるが、それ以上に各国の選手のレベルは上がってきているのもまた事実だ。前述のモーレゴードやカルデラノ、F・ルブラン、張本以外にも、林昀儒(リンユンジュ・チャイニーズタイペイ)や張禹珍(ジャンウジン・韓国)、ダルコ・ヨルジッチ(スロベニア)ら、中国選手と戦える選手は各国に存在しているのだ。
女子は中国と日本の実質2強
一方の女子は、どうなのか。
結論から言えば、中国一強。それになんとか食らいついているのが日本、という状況だ。つまり、日本と中国とそれ以外の国では、大きな戦力差が存在しているのだ。
この状況は2012年のロンドン五輪で日本が銀メダルを獲得して以降、今も大きく変わっていない。唯一、リオ五輪ではドイツ代表が団体で銀メダルを獲得したものの、それ以外の五輪ではずべて中国と日本が金メダル争いをしている。
写真:孫頴莎(スンイーシャ・中国)/提供:ITTF
中国女子は男子と違い、今も世界トップレベルの選手が多数代表に名を連ねている。現世界ランキング1位でパリ五輪銀の孫頴莎(スンイーシャ)や、過去には世界ランキング1位になった経験もある同2位の王曼昱(ワンマンユ)、同3位の陳幸同(チェンシントン)に同5位の王藝迪(ワンイーディ)。さらには21歳ながら同4位に入っている蒯曼(クアイマン)ら、中堅から若手までタレントは揃っている。
写真:張本美和(木下グループ)/提供:ITTF
日本も、パリ五輪銅の早田ひな(日本生命)を筆頭に、世界ランキング6位の張本美和(木下グループ)、東京五輪混合ダブルス金の伊藤美誠(スターツ)、今年に入って初めて世界ランキングトップ10入りを果たした大藤沙月(ミキハウス)ら、中国と渡り合う実力を備えた選手は何人もいる。
では、それ以外の国はどうなのか。
写真:申裕斌(シンユビン・韓国)/提供:ITTF
例えば、パリ五輪で早田との銅メダル決定戦で死闘を演じた申裕斌(シンユビン・韓国)は、数少ない国際大会で安定した成績を残している選手だ。同じ韓国の朱芊曦(チュチョンヒ)も同列に並べられるだろう。
しかし、残念ながらそれ以外の国の選手では、中国と日本についていける選手は少ない。
それは現在の女子世界ランキングの16位までが日本と中国の選手と申裕斌で埋まっていることからも明らかだ(7位のジュユリンも元中国代表選手)。
データで見る男女格差
と、ここまでは半分私の主観も交えた意見を述べてきたが、「実際に男女でどのくらい格差があるのか」をデータで見てみたい。
今回は、WTTが正式に始まった2021年のWTTスターコンテンダードーハから2025年のWTTスターコンテンダーマスカットまで、ベスト4に入った選手の国籍の割合を男女ごとで比較してみる。その結果が以下の通りだ。
画像:国際大会でベスト4に入った選手の国籍内訳(男子選手)/制作:ラリーズ編集部
画像:国際大会でベスト4に入った選手の国籍内訳(女子選手)/制作:ラリーズ編集部
※集計対象はユース以外のWTT、五輪、世界選手権に限定。なお、中国トップ選手がほとんど参加しないWTTコンテンダーとWTTフィーダーは対象から外している。
男子は約43%が中国で、次に多いのは日本で約9%。この2か国で半分を占めているが、残りの約50%はドイツやフランス、ブラジルなどでバラツキがある。
一方の女子は、中国が約61%で日本が約22%。実に8割以上を中国と日本で占めているのだ。
もちろん、そもそも中国人選手が一人も出場していない国際大会もあるため、この数字が厳密に正確な数字とは言えない。しかしながら、明らかに女子は中国と日本に偏りが見られる。
卓球は五輪がピークの種目
サッカーであればW杯、野球であればWBCが最も注目度の高い大会だが、多くのスポーツと同様に卓球も五輪が盛り上がりのピークの大会である。
写真:東京五輪混合ダブルスで金メダルを獲得した水谷隼/伊藤美誠ペア/提供:ロイター/アフロ
そのため、五輪で中国を倒すことができれば、そのニュースは卓球界を超えて広く知れ渡る。現に、東京五輪の混合ダブルスで水谷隼/伊藤美誠ペアが決勝で中国ペアに勝利して金メダルを獲得したときは、大きな話題となった。
だが、残念ながら五輪では男女別の団体が廃止され、混合団体が導入された。
これが男女別の団体を残して混合団体を新設していれば、何の文句もなかっただろう。しかし、現実には男女別の団体はなくなり、新たな混合団体では男女の総合力が群を抜いて高い中国に勝てる国は、ほぼいなくなった。
もちろん、今回の混合団体ワールドカップの試合方式(男女シングルスと男女ダブルス、混合ダブルスが1試合ずつ行われる)が本番のロス五輪でも実施されるとは限らない。そのため、今回の混合ワールドカップの結果だけを見て「混合団体は厳しい」と判断するのは、勇み足な部分もあるだろう。
しかしながら、少なくとも男女の総合力で戦うという点においては、混合ワールドカップもロス五輪の混合団体も変わらない。
そうなったときに、やはり各国の男女間での実力格差は浮き彫りになってしまう。
混合ワールドカップそのものは盛り上がったが
長々と書いてきたが、結論私は男子団体を五輪で観たいだけなのだ。
長い卓球界の歴史を振り返っても、これほどまでに中国に肉薄している国が複数出てきているタイミングは見たことがない。つまり、絶対王者・中国が五輪で敗れるシーンを見られるかもしれないというわけだ。
しかしながら、私は何も中国に負けてほしいわけではない。単純に、中国が負けるかもしれない緊張感のある試合がもっと増えて、卓球がもっともっと盛り上がってほしいだけだ。
そして、卓球の五輪での注目度は他大会と比べても計り知れないものがある。だからこそ、ド輪で男子団体を観たいのだ。
写真:4位入賞を果たしたドイツは男女ともに奮闘した/提供:ITTF
今回の混合ワールドカップも、日本と中国以外の国同士の試合は接戦も多く、ある程度のワクワクは感じられたかもしれない。しかし、それらの国々は肝心の中国には歯が立たなかった。
もちろんスウェーデンにはモーレゴードがいなかったし、ブラジルにはカルデラノがいなかった。「彼らがいれば、結果は変わっていた」という意見もあるだろう。
それでも、私は「中国の無敗優勝」という結果は変わっていなかったと思う。なぜならそれほどまでに、混合団体では男女間の戦力差を減らすことが求められるからだ。そして、女子のスウェーデンとブラジル代表は、残念ながら女子の中国代表には遠く及ばない。
唯一、中国に対抗できそうな日本も予選では善戦したが、肝心の決勝では1-8と力の差を見せつけられている。
写真:卓球界は再び“中国一強”の時代に突入することになるのか/提供:ITTF
もしこれが、男子団体ならどうなっていただろうか。
ルブラン兄弟を擁するフランスは、ステージ2を突破してメダルを取っていたかもしれない。日本も、中国に勝って金メダルを獲っていたかもしれない(実際に、予選の中国戦では松島輝空が梁靖崑に2-1、戸上隼輔/篠塚大登ペアは王楚欽/林詩棟ペアに2-1で勝っている)。
もちろん、これから各国の女子選手が強くなり、混合団体で接戦を観られるようになる可能性も否定はできない。しかし、果たしてそんな簡単に絶対王者・中国のレベルに近づけるものなのだろうか。
中国男子にこれほどまで各国が肉薄している状況で、男子団体が五輪から消えてしまったことの意味は非常に大きい。








