写真:インタビューに応じてくれたマリーナさん(左)とヒューグさん(右)/提供:Takaohead
卓球プレーヤー向け クラブ担当者に突撃 ベルギーの卓球クラブにだけバーがある理由とは
2023.03.26
アマチュアにも充実した卓球環境を提供し、プロチームも活躍するブリュッセルの卓球クラブ「Logis Auderghem」(ロジ・オーデルゲム)。
そんなクラブの運営はどうなっているのか、クラブの担当者マリーナさん(Marina Claes)、ヒューグさん(Hugues Hertay)に、直撃インタビューしました。
30人弱のボランティアで成り立っている
――クラブの運営はどうなっているんですか?
「クラブには会員が今380人弱、卓球専用の施設を完備したベルギーで最大規模のクラブです。ですが、フルタイムで運営に携わっているのは私を入れて3人だけ。あとはパートタイムのコーチなどもいますが、設備管理や事務作業など運営のほとんどは30人弱のボランティアで成り立っています。そのメンバーで運営理事会を設置して、毎年意思決定しています」
――ボランティアの運営とはすごいですね。気になる収入はどうなっているんですか。
「会員の年会費、卓球連盟や行政からパブリックファンディング、そしてスポンサーなどで成り立っています。」
――どのようにしてスポンサーを獲得しているのですか?
「卓球はどうしてもマイナーですから大企業はとても無理。とにかく地元の酒屋さんやスポーツ用品店などにスポンサーを毎年お願いしています。ですが、コロナ規制やロシアによるウクライナ侵攻で社会が大きな影響を受けて、エネルギー危機やインフレでヨーロッパ中が苦しんでいます。誰もが金銭的に厳しいです。だからスポンサーを獲得し、維持することが大きな課題となっています。」
写真:クラブのユニフォームにはスポンサーや自治体のロゴがプリントされている/提供:Takaohead
――クラブ運営で大変なことはなんですか。
「スポンサーの獲得も大変ですが、昔と比べて、クラブ運営を支えてくれるボランティアの確保が年々厳しくなっています。また地域とのつながりを維持し続けることですね。」
家族のような雰囲気・環境が特徴
――子供の会員も多くいますね。
「実は会員の大半が子どもたちなんですよ。子どもの育成を大事にしています。そしてエリート教育はしていません。アットホームな雰囲気で、子どもたちの育成に貢献しています。クラブのコーチたちも、実はかつては子どもの頃にこのクラブで育った子たちなのです。こうした家族のような雰囲気・環境が大きな特徴であり、とても大事にしています。うちの1部チーム監督は、うちのクラブで育ち、かつてはベルギー代表選手だったんですよ。」
写真:子供の育成に力を入れている/提供:Logis Auderghem
――子どもたちが多く集まった背景はなんですか?
「もちろん、歴史的なクラブという知名度もありますが、日中は近所の小中学校が授業としてクラブの施設を利用しており、そうした機会にクラブのことをしっかりとアピールしています。そして誰もがそれぞれのレベルで楽しめる、努力できる環境を提供していることも、たくさんの子どもたちが来てくれる背景だと思います。」
写真:クラブ会長を務めるヒューグさん/提供:Takaohead
――クラブのウェブサイトはとても整備・洗練されていて、重要な宣伝ツールになっていますね。
「ITに秀でた運営ボランティアのおかげです。」
――卓球連盟のサイトも発達していますよね。試合登録や自分のランクがアプリなどで簡単にできます。
「特に発達しているとは思いません(笑)。卓球連盟がというより、全体的に社会のIT化が進んだだけだと思います。むしろデジタルデバイドによって、そうしたツールを使いこなせない世代への手当てを怠らないことも重要です。」
写真:クラブに併設されたバー/提供:Takaohead
――子供に負けじと、私のような30代、40代、社会的には仕事や子育てで忙しい世代もいつもたくさんクラブに来ていますね。
「クラブにお酒や軽食が取れるバーがありますよね?実はこれベルギーだけなんです(笑)。フランスもドイツもないそうです。スポーツ施設に社交の場が併設されている、ビール大国であるベルギーならではかもしれませんが、スポーツを楽しんでソーシャライズすることが重要視されているんです。そういった社交の場、リラックスする場として機能しているからこそ、大人の人たちもそれを目当てに、たくさん集まってくるんだと思います。真剣な試合が終わって、みんなで飲むのも大事なパートなんです。
写真:フルタイムのコーディネーターとして働くマリーナさん/提供:Takaohead
――最後に、ヨーロッパ全体として、地域のクラブ単位でスポーツが発達しているのはなぜなんでしょうか。
「歴史的にベルギーも含めて、学校にスポーツを教えられる施設やインフラが乏しいことが背景にあると思います。また、ベルギーではポテトや肉料理など肥満が社会的に問題となり、スポーツを社会として重視する風潮があり、地域でスポーツクラブが発達したんだと思います。大人も子どもも健康を保つために、スポーツは不可欠なものと社会で認知されているからだと思います。」
ベルギーで感じた地域社会とプロスポーツチームの繋がり
いかがでしたでしょうか。
3回にわたって、ベルギー・ブリュッセルの卓球クラブ「Logis Auderghem」について紹介させていただきました。
日本とは全く異なる環境で、言葉の面でも苦労しましたが、卓球という共通のスポーツを通じて、充実した日々を送ることができました。
地域社会とスポーツのつながりや、社会におけるスポーツの重要性がとっても重視されていると感じました。
私が見聞きして体験したことが、日本の卓球愛好家の皆様に少しでもお伝えできたなら、大きな喜びです!
(終わり)