ボディハイドサーブが無くなったのはいつから?


文:座間辰弘(ラリーズ編集部)

卓球にはサーブを身体で隠して相手を騙していた時代があった。

卓球の試合がテレビで放送されている時、サーブの瞬間に注目して欲しい。サーブを出す瞬間にボールを身体で隠している選手は、ほとんどいないだろう。

しかし、かつてはラケットを握っている反対の手で、あからさまににサーブを隠している選手が大半だった。「相手のサーブが全く見えない」のが当たり前だった時代があった。


劉国梁のサーブ後の構え。左手をあからさまに前に出しているのが分かる。(出典:YouTube)

サーブのインパクトの際にどんな動きをしているのかは、試合中とても重要だ。よく野球のピッチャーが、グローブでボールを投げる直前まで隠してどんな球種が来るか分かりにくくしているが、それに近いことを以前は卓球でもやっていたのである。

しかし、手や身体でサーブのインパクトの瞬間を隠してしまうと、卓球の場合、レシーブする側にとって致命的になる。レシーバーはサーブのモーションやラケットの向きなどを見て、どんな球種のサーブが来ているかを予測するからだ。それが分からなくなると、当てずっぽうに返すしかないのでサーブを出している側が圧倒的に有利になってしまうのだ。

ボディハイドサーブで世界の頂点に上り詰めた劉国梁

実はこの「手で隠す(ボディハイド)サーブ」を武器に世界の頂点まで上り詰めた選手がいる。中国の劉国梁(読み:リュウグオリャン)だ。現役時代は世界選手権と五輪の全種目で金メダルを獲得し、引退後は長らく中国卓球の監督を務めたレジェンドだ。

リオ五輪の際も選手のベンチアドバイザーとして入っていた。日本の水谷隼選手が中国の馬龍選手と戦った際も、テレビで中継されていたので、印象に残っている人もいるかも知れない。

実際にインターネット上でも、その風貌がかなり話題になった。
(「食堂のオヤジ」「爆買いしそう」・・・卓球元世界王者の中国人コーチ、日本のネット民にイジられる=リオ五輪)

中国選手との試合でよく見かけるこの「おじさん」は、世界的なサーブの名手だったのだ。

現役時代は多彩なテクニックを見せてくれるとともに、一球ごとに闘志を燃やして戦う選手で、卓球ファンをわくわくさせる名選手だった。

劉国梁のサーブはラケットがボールに接触している時間が短い。しかも身体でインパクトの瞬間を隠すため、サーブの回転、長短、コースが非常に分かり辛い。

分かり辛いサーブから相手が甘く返球してきたボールを先に攻めて行く「三球目攻撃」が劉国梁のプレースタイルの特徴だった。

彼がサーブを武器にタイトルを総なめにしたせいで「ボディハイドサーブは禁止」となり、彼の使っていたラバーが禁止されたという話があるくらいだ。

ここに劉国梁が監督として選手にサーブを指導している動画があるが、切れ味が尋常でないことが分かる。


監督が出すサーブは選手が出しているラケットとネットの間をくぐりぬける程低い
(出典:Youtube)

劉国梁がどんな方法でサーブを出しているのかは専門誌でよく特集されていたが、最近のものではWRMの動画特集が分かり易い。ボディハイドが出来なくなった今でも、優れたサーブであることが分かる。

劉国梁の実力がピークだったのは、1999年の世界選手権で優勝した頃である。決勝戦で馬琳選手と対戦した際の試合は、一進一退の攻防が繰り広げられ、球史に残る決勝戦と称される。

劉国梁は、今では絶滅危惧種となったペンホルダー表ソフト前陣速攻選手としては、最後の世界選手権優勝者となっている。

劉国梁が1999年の世界卓球選手権で優勝した1年後の2000年に卓球のボールが38mmから40mmとなり、その2年後の2002年にボディハイドサーブは禁止となった。こうしたルール改正は、劉国梁にとっては厳しいものだった。

何故なら、彼は巧みなサーブから表ソフトによる初速の速いスマッシュを駆使して勝ち進んできた選手だったわけだが、球の大きさが大きくなれば、その分スマッシュの初速も遅くなる。球を弾く「スマッシュ」は、台から下がれば速度が落ちるため、球の威力も落ち、返球がし易くなってしまったのだ。

かつて、劉国梁と同じペンラケットに表ソフトを貼り、スマッシュで先手をとるプレースタイルの選手が沢山いたが、ボールの大きさが変わってからは、ここ15年で激減してしまった。

また、2000年にそれまで劉国梁が長年愛用していた「スピンピップス」(メーカーはヤマト卓球)という表ソフトラバーも禁止になり、ほどなくして、劉国梁は引退することになった。

ITTFの統計データによれば、劉国梁は2001年以降は準々決勝で敗れることがほとんどだったようだ。ITTFの試合の出場記録は2002年までとなっている。


手前が劉国梁。左手を大きく離して、インパクトが見えるようにしている。
(出典:Youtube)

ボディハイドサーブが禁止されたのは何故か?

何故ボディハイドが無くなったのだろうか?

これは「卓球を、もっとラリーが続き、メディア受けする面白いスポーツにするためである」と言われている。

卓球のサーブの回転は映像メディアでは伝わりにくい。一般の方が見た時に、何故ミスをしたのか、分からないケースが多々ある。しかし、「回転」は競技の大きな駆け引きの要素だ。野球で言うストレート、シンカー、フォーク、カーブのようなものだ。

ボディハイドが許されていた頃は、相手のサーブが全く分からない場合もあった。以前はサーブが5ポイントで交代だったが、サーブだけで5点連取してしまう選手がいるほどだった。

素人目には何をやっているのか分からないまま、あっという間に試合だけが進んでいく。それでは、一般の人に広く人気のあるスポーツとしてなかなか認められないかもしれない。

その為に、ボディハイドをしてはいけないというルールになったのだ。

ボディハイドが無くなった今でも、日本代表の吉村真晴選手、水谷隼選手のように優れたサーブを繰り出す選手は多い。

しかし、現在の卓球は、サーブだけで何点も得点するような場面は無くなった。サーブで得点出来ない為、3球目以降のラリー戦が重要になる。最近の試合では、各ポイントごとに見ても、6~7球目以降まで続くことが多い。

ボディハイドの禁止は、ルールを1つ変えることで、競技が進化するという卓球の1つの側面を教えてくれる。
今後、卓球を進化させるため、どのようなルール改正が行われていくのか、目が離せない。

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