全国各地の卓球施設がコロナ禍での営業および活動を再開している。
特に学校においては、授業がオンラインや分散登校などの対応に迫られる中、「課外活動」と位置づけられる部活の再開時期や対策には、大きな差が生まれた。
今回は、伝統ある卓球名門校(大学、高校)における活動再開状況と対策の現場に迫った。
>>卓球の再開を考える(1)「コロナ禍の卓球界 一時活動中断と再開の実態」はコチラ
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素早いスタートダッシュを見せた國學院大學卓球部
全国で緊急事態宣言が解除されたのは5月25日。その1週間後の6月1日から國學院大學卓球部は活動を再開させた。これは全国的に見てかなり早い卓球再開の事例だ。
國學院大學が自粛期間から活動再開へと素早く切り替えられたのはどうしてだろうか。
國學院大學卓球部4年で当時の男子キャプテンだった洞毛勇人さんによれば、大学の施設が利用中止になったのが3月27日だった。
当初は3月末までの活動休止予定だったが、緊急事態宣言の発令もあり、実際に活動を再開したのは6月3日だった。この6月3日から卓球部を含めた、いくつかの部会が試験的に活動を再開した。大学からは体調チェック(朝夕の検温、味覚障害がないか等)やアルコール消毒や換気などの基本的なコロナ対策の実施に加え、指導者(監督・コーチ)の帯同と各部活動における練習計画書の提出を義務付けられる中での活動再開となったが、約2ヶ月ぶりの練習再開に、卓球をプレーできる喜びを部員同士で噛み締めたという。
卓球部としては、毎日の検温と卓球場の入り口へのアルコール設置し、休憩時間に換気と手洗いうがいを徹底するなどの対策に加え、練習場への入場制限(卓球台7台に対し14人まで)も設けていた。
そしてその後、状況に合わせて段階的に対策を緩和してきた。7月からは帯同者が不要となり、現在は日本卓球協会のガイドラインに則る形で、概ね通常通りの練習が出来ているという。
地方組の帰省とステイホーム中のトレーニング
一見順調に活動を再開しているかに見える國學院大卓球部もすぐに元に戻れたわけではない。
全体練習を再開した6月時点では、部員の半数以上が地方の実家に帰省しており、東京で感染者が増えていたため、各部員の家庭から当然心配の声も挙がった。そのため「6月の1カ月間は帰ってくるタイミングを部員に任せた」(洞毛主将/当時)という。
また、練習メニューや練習量については意外にもコロナ休暇以前と基本的には変わらなかったというから驚きだ。
「再開初日から1日4時間の練習をできました。キャプテンの僕自身が一昨年頃から個人的にウエイトトレーニングや自重トレーニングを行なっていたんですね。その影響もあって、コロナ以前から卓球場で部員みんながトレーニングをするようになっていた。そして自粛期間中も『できる時にランニングをしよう』と呼びかけたり、自分がトレーニングしている様子を部員に見せて『こういうことをやろう』と投げかけたりもしていたんです。なのでうちのチームはフィジカル面での衰えは無く、練習が再開できました」(國學院大學卓球部4年洞毛主将/当時)。
写真:4年生の引退試合を終えた國學院大學卓球部/提供:國學院大學卓球部
とはいえ、今シーズンは関東学生リーグ戦やインカレ等の主要大会が中止となってしまったため、全日本大学総合選手権大会(個人の部)の関東地区予選が予定されていた8月末に部内リーグを設け、4年生にとってはそこが引退試合となった。
「このような状況でも、どの部員もモチベーションが下がらなかった。『今できることをやろう』という意識を常に持って練習できていたチームメイトが誇らしかったです」と洞毛さんは清々しい表情で語ってくれた。
「コロナに負けるな」チームワーク見せた國學院大卓球部のyoutube動画はコチラ
國學院大學卓球部
現役部員全員参加https://t.co/liSJgTPvTw#おうち時間#うちで過ごそう— 國學院大學体育連合会卓球部 (@sRjnsgIppEoCHe9) May 17, 2020
先駆けてロードマップを作成した慶応義塾大学卓球部
卓球の現場における新型コロナウィルス対策のあり方が不透明だった緊急事態宣言下において、独自に活動のロードマップを作成した大学チームがある。慶應義塾大学卓球部だ。
世の中のウィルスの感染状況のレベルに応じて、卓球部はどう活動すべきなのかを定めた約20ページのスライド資料にまとめられた独自指針は、5月22日に国際卓球連盟(ITTF)が発表したロードマップを基に、5月中に作成されていたという。これは6月9日に日本卓球協会が公式サイトで国内の卓球関係者向けにガイドラインを発表する前のタイミングである。
感染リスクを下げ、練習をスムーズに行うために動き出した彼らはどんなロードマップを作成したのだろうか。
国際卓球連盟(ITTF)は、ウィルス感染状況と卓球活動への規制レベルについて、行政によるロックダウンをPhase1~2、ロックダウン解除後をPhase3~5と5段階に分けて判断していた。(図1の通り)
図:慶應義塾体育会卓球部ロードマップ資料 ITTFが定めた5段階の基準(図1)/提供:慶應義塾体育会卓球部
慶應義塾大学卓球部は、このITTFの基準に準ずる形で日本の緊急事態宣言が解除された直後の状態をPhase3とみなして活動計画を立てたという。その後段階的に規制を緩めるために、期間①(Phase3〜4相当)と期間②(Phase5相当)に分けて感染対策を検討し、7月7日より練習を再開した。
図:慶應義塾体育会卓球部ロードマップ資料 (図2)/提供:慶應義塾体育会卓球部
現在でも練習場所における人数制限や、ボールを共用しないルールの徹底に加え、練習するメンバーを毎日同じにすることで接触人数を最低限にするなどあらゆる工夫をし、ロードマップを実行に移している。
慶応義塾大学卓球部が作成した活動ロードマップ(9月末現在)
練習再開できぬまま4年生が無念の引退、大正大学卓球部
日本ペイントマレッツの三原孝博監督ほか卓球界に多くの人材を輩出してきた名門・大正大学卓球部は、コロナ感染拡大が見込まれた3月の1週目から活動停止となった。大学からは、どの部活動も「9月25日までオンラインを除く対面活動を禁止」という指示が出され、卓球部も練習を中止。学生を預かる大学にとって安全性の観点からその対応スタンスは様々であり、部活動の再開時期に差が出てしまうことは仕方のないことだ。
大正大学では、部活動に対して試合の1週間前から活動を認める方針もあり「全日本大学総合選手権・個人の部(全日学)」の予選が8月末に予定通り行われていれば、その前から活動再開が出来ていた可能性もあった。ところが、大会中止に伴い、卓球部としての活動再開は叶わなくなってしまった。早めに地方に帰った部員や、まだ大学付近に引っ越していない1年生たちは地元の高校や地域の卓球施設で練習するなどの措置を取った。
もちろん緊急事態宣言の解除など、いくつかのタイミングで再開の可能性があったため、活動再開後のコロナ対策は考えてあったそうだ。
「人数制限や換気の仕方などをいろんなことを考えてガイドラインを作成し、それに沿って練習しようとしていたが何もできなかった」と無念そうに語るのは大正大学卓球部4年で前キャプテンの根木和貴さんだ。「かなり早い段階から4年生はもう引退だね、となっていた。次のチーム目標も代が替わるまでは立てる見通しはない。初めは自粛期間中でもみんなでトレーニングなどをやれればと思っていたが、ここまで長期化すると部員に対して卓球のためにトレーニング頑張ろうとも言いづらい。特に地域によっては卓球ができていない部員もいるからかわいそうかな」とキャプテンとしての苦悩を打ち明けた。
その後、大正大学では9月28日から練習を再開できた。空手部と1日ごとに体育館を交代で使うなど、引き続き慎重な対応が続いている。
“分散登校”に“人数制限” 部員80名の明大中野はどう3密を回避した?
中高一貫校である明治大学付属中野高等学校は、卓球部の部員数が高校生だけで42名。中学生38名を合わせると総勢80名となる大所帯だ。小沼俊哉監督によれば、3密を避ける対策を迫られる中、卓球部は6月1日に活動を再開させたという。
まず大学と高校とでは学校生活自体の様相が異なる。授業が完全にオンライン化された大学に対し、明大中野高校では6月1日から7月4日の間、分散登校を行っていた。クラスメイトは出席番号によって2つのグループに分かれ、午前と午後の異なる時間に登校するのだ。午前組と午後組は1週間ごとに入れ替わり、午前組は午後に行われる部活動に参加することができない。つまり1週間部活に参加したら、次の週は練習が出来ないということだ。
卓球部にとって今夏は「2020 Tokyo Thanks Match」(東京都インターハイ予選の代替大会)を8月中旬に控える中で、分散登校により1週間連続で練習できない状況が続いた。選手、特に引退試合を控える高校3年生にとってはもどかしい時間となった。
それでも少しでも練習ができればと、部活動再開のために超えるべきハードルを一つずつ乗り越えた。
まず学校からは毎日の親の承諾書の提出が義務付けられた。そして体力の消耗がなるべく無い形での活動が求められた。そのため3時間以上の活動を控え、体の免疫が低下すると考えられる長時間の練習を避ける形で対応した。
また、換気、検温、マスク、消毒の4項目について以下の通り徹底した。
・換気:練習前、休憩中、練習後に実施
・検温:練習開始前に非接触型体温計で検温。37度以上熱がある生徒は帰宅
・マスク:練習中は熱中症対策のため着用させない。休憩中は必ず着用。声は発しないよう指導。
・消毒:手指のアルコール消毒と手洗いの定期実施。練習終了後に卓球台・サポート・ボールの消毒
従来は卓球台12台を使って練習していたが、換気が行いにくい場所に設置された4台の利用を禁止し、8台のみを使用。42名いる高校生部員に対し、1台につき2名という基準を厳守するため16名しか練習できず、部全体で元通りに活動するのは難しくなってしまった。
特に引退試合を控えた高校3年生を優先的に練習することを決めたため、大会に出場できない選手の中には夏期休暇中に合わせて5日程度しか練習できなかった生徒もいた。
その分、練習ができるメンバーは、チームメイトの思いを背負い、コロナ前とは違った緊張感で練習ができたという。
写真:2020 Tokyo Thanks Matchに参加する明大中野高の選手(写真奥)/提供:明治大学付属中野高等学校卓球部
小沼監督は、「引退試合が開催されたことに3年生も喜んでいました。8月に入って感染者が300人を超える日もあり、大会が開催できるのかどうかわからない時期もありましたが、コロナの感染者が出るリスクがある中で、(大会を開催していただいた)東京都高体連の先生方に感謝しています」とコメント。高校生も、大会が開催される直前まで「本当に試合が予定通り行われるのか?」と不安な気持ちを抱きながら練習していたとのことだ。
改めて、新型コロナウィルスの感染拡大が、全国の部活動、特に大学4年、高校3年など各カテゴリの最終学年の生徒に与えた影響は非常に大きかったと言わざるを得ない。
次回の第3回「コロナに立ち向かう卓球場は今」では、地域の卓球場ではどのように運営を再開しているのか、具体例に基づいて解説する。
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取材協力:慶応義塾大学、國學院大學、大正大学、明治大学付属中野高校の各卓球部