卓球×エンタメ 「ピンポン✕オーケストラ」の競演。「音としての卓球」の可能性
2017.12.10
取材・文:武田鼎(ラリーズ編集部)
取材・文:武田鼎(ラリーズ編集部)
12月6日(水)東京都千代田区の紀尾井ホールで「Christmas Premium Concert 2017」が開催された。なぜ卓球専門メディアであるラリーズが卓球とは無縁とも思える音楽イベントを取材するのか。実は今回のコンサートの目玉のひとつが「オーケストラと卓球の融合」なのだ。
19時の開場を目前に控え、700人の観客を収容できる紀尾井ホールには600人以上の耳の肥えたオーケストラファンが詰めかけた。訪れた観客に話を聞くとオーケストラを楽しみに訪れた観衆が多いようだ。今回のコンサートはオーケストラのほか、成城学園初等学校合唱部や、声優・野沢直子さん(アニメ・ドラゴンボール「孫悟空」役の声優と言えば分かる読者は多いだろう)の朗読や世界的な二胡奏者であるジャー・パンファンさんによる演奏など、見どころ山盛りの2時間のプログラムなのである。
冒頭の合唱から幕を開けたコンサートは野沢さんの「日本の匠」を紹介する朗読、オーケストラの楽器紹介など、「オケ初心者」でも十分に楽しめる内容だった。
プログラムも一時間半を終え、休憩を挟んだ後、最後のトリを飾るのが「卓球とオーケストラ」の融合である。休憩時間に観客に話を聞くと「卓球とオーケストラってなんなんですかね…?」とのコメント。異色のコラボレーションは観客の目にどう映るのか。
プログラムが始まると、まず観客の目に飛び込んできたのは舞台の中央に置かれた真っ青な卓球台。その背後にはシンフォニックオーケストラをバックに従え坂本竜介さんと後藤奈津美さんが登場した。坂本さんはかつて「怪童」と称され、思い切りのいいバックハンドドライブを武器に世界選手権にも出場した経験を持つベテランだ。また後藤さんは東京富士大大学・女子卓球部コーチを務め「豪快な投げ上げバックサーブからのぶつ切りカット」で注目を集める女性卓球プレーヤーだ。2人の足元は今回のイベント協賛企業のバタフライのシューズ。そして2人の手元には金色の蝶の装飾がキラリと光る。
前代未聞のコラボレーションの口火を切ったのは、スポットライトを浴びたバイオリンの緊張感のあるソロだ。ソロが終わると始まりを告げるようにオーケストラのフルメンバーが大音量で曲を奏でる。すると2人の卓球選手は600人の前でラリーを始めた。「カコン、カコン」というリズムとオーケストラのメロディーが絡みあっていく。
改めて卓球を“音”として聞いてみると不思議だ。楽器で言えばカスタネットに近いのかもしれない。だが、カスタネットほど甲高くなく、4cmのプラスチックのボールからはどこか“乾いた”音がする。卓球が「テーブルテニス」という名称と共に“ピンポン”として親しまれているのも頷ける。
そうして耳を澄ましていると、音質が変わる。二人が卓球ラケットからタンバリンに持ち替えてピンポンを始めたのだ。坂本さんのロビングを後藤さんがタンバリンで豪快に太鼓に向かって打ち込んでいく。先程の軽やかな音からは一転、豪快な重低音がホールにこだまする。
一般的にオーケストラは指揮者のタクトによって一定のリズムに則って導かれる。これに不規則な打球音が絡み合っていくのだ。さしずめフリージャズとオーケストラのコラボレーションといったところだろう。初めて目にするパフォーマンスに観衆はグイグイ引き込まれていく。オーケストラもやがて絶頂へと上り詰めていく。
見せ場はラリーだけではなく、オーケストラにも次々と訪れる。ハープのソロに原始的な打楽器の爆発音、ホルンとトロンボーンによる豊かなハーモニー。それに負けないように再びラケットに持ち替えた二人の速射砲のようなラリーが始まる。かと思えばスマッシュを銅鑼に打ち込み、豪快に炸裂させる。終盤には観客席へと卓球球を次々と打ち込んでいく嬉しいパフォーマンスも行われた。
卓球ファンのみならず音楽ファンもとりこにした30分の「新しい体験」は観衆の割れんばかりの拍手で幕を閉じた。
舞台終了後の二人に話を聞いた。坂本さん「緊張しなかったね!」後藤さん「え、坂本さんちょっと緊張してましたよ(笑)!私は失敗してないかなって思ってました〜!」と仲良さそうに語った。
卓球を「音」として捉えるという前衛的なイベント。クラシックファンも大満足だったようだ。