【なぜ日本生命レッドエルフだけ勝てるのか/前編】村上恭和の監督論「チーム一丸の実際の作りかた」 | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:4連覇を果たした日本生命レッドエルフ/撮影:ラリーズ編集部

卓球インタビュー 【なぜ日本生命レッドエルフだけ勝てるのか/前編】村上恭和の監督論「チーム一丸の実際の作りかた」

2022.04.07

この記事を書いた人
1979年生まれ。2020年からRallys/2024年7月から執行役員メディア事業本部長
2023年-金沢ポート取締役兼任/軽い小咄から深堀りインタビューまで、劇場体験のようなコンテンツを。
戦型:右シェーク裏裏

なぜ、日本生命レッドエルフだけが勝てるのか。
4thシーズンを終えた卓球・Tリーグにおいて、男女合わせて唯一の4連覇を果たした。
昨季の3連覇さえ、既に男女唯一だった。

選手層の厚さ、恵まれた環境と指導体制の充実、とは昨年のインタビューで聞いたことだが、でもやはり、総監督・村上恭和の「監督論」にも秘密があるのではないか。
その一端が垣間見えるインタビューとなった。

全員使いたい、レギュラーシーズンも優勝したい

――登録選手12人のうち10人が出場しています。4連覇を目指しながらも、できる限り多くの選手を起用したのはなぜですか。
村上総監督:出場した選手は一番うちが多いかもしれませんね。

はっきり言うと、名前だけ書いて“お前Tリーガーだぞ”っていうのは僕は嫌だったんです。

日本生命レッドエルフの中にジュニア部門も作って、同じ体育館で時々は一緒に練習をしているわけですから。

全員使おうと思ってましたが、レギュラーシーズンも絶対優勝したい。本当に悩みましたけど、できる限り使えるときに使ったという感じです。

――それで4連覇を達成したのは手腕だと思います。
――うちのジュニア部門は、本当にみんな一緒に寮で生活する共同体なんですよね。

親の顔が浮かぶわけですよ。中学生から高校3年生まで残って、その後レッドエルフを目指せるのか、違う道を進むのか。

普段の練習も、レッドエルフにエントリーしていないジュニア選手も協力している。
使って強くするのは当然だと思います。


写真:ジュニアアシストアカデミーの練習風景/撮影:ハヤシマコ

――今季は、ベストメンバーが揃った後半戦の強さはもちろんなんですが、平野美宇選手や早田ひな選手が抜けがちだった前半戦でも7勝4敗と勝ち越してるんですね。なぜ日本生命は勝てるのでしょうか。
村上総監督:まず、今季はダブルスで一番いろんなペアリングを作ったんですね。森・麻生、赤江・上澤、笹尾・麻生、長﨑・赤江、長﨑・森など。

レギュラーではない麻生、笹尾、赤江、上澤らも、常にTリーグに出るんだという準備をして半年間ずっと練習していました。練習場が同じところにある利点ですよね。

だから、戦力が整っていないように見えても、前半戦もダブルスは勝ち越している。そこが持ちこたえた理由でしょう。

――村上監督としては、前半戦の勝ち越しも意外ではなかった。
――外から見ると“意外に頑張ったな”と“意外”がついてくるんですが、私からすると、必然です。どこより練習を重ねてますから。

他のチームもいろんなダブルスを組んでいますけど、やっぱり行き当たりばったりで、試合当日、会場に着いてから練習をしている。半年前から練習をしているペアってないよね。だから、名前よりもみんな弱い。


写真:長﨑美柚・森さくらペア(日本生命レッドエルフ)/撮影:ラリーズ編集部

森さくらの執念

――なるほど。ダブルス以外で、4thシーズンを振り返ってあれがポイントだったという試合はありますか。
村上総監督:2つありますね。びっくりしたというか、すごいな、よくやったなと思ったのは、森さくらがヴィクトリーマッチで佐藤瞳に勝った試合です。2月19日、田川での九州アスティーダとの試合。


写真:シングルス、ダブルス共に11勝を挙げてチームを牽引した森さくら/撮影:ラリーズ編集部

村上総監督:佐藤瞳は、日本一強いカットマンです。森さくらはカット打ちが得意じゃない。正直ヴィクトリーにもつれて、勝ち点1取れて良かったと思っていました。

でも森はカット打ちができないなかでも、最後の最後、執念で完璧に佐藤を打ち崩した。私の予想をはるかに超えた勝利でした。さすがです。あれで負けていたら、レギュラーシーズン1位は挫けていたかもしれない。

――4thシーズン、森さくら選手のシングルス11勝3敗、ダブルスで11勝2敗は見事な数字ですよね…

長﨑美柚の成長

村上総監督:もう一つは、長﨑美柚の成長でしょうね。2月12日、木下アビエル神奈川との試合、第2マッチで木原美悠に負けたけど、ヴィクトリーマッチに起用しました。そして、もう一度木原と戦って、勝った。

翌日は、木下さんは石川佳純がエントリーしてきたけど、好調を維持した長﨑が石川に勝利した。ここを繋いだから2月後半、レギュラーシーズン優勝の望みを繋げられた。


写真:長﨑美柚(日本生命レッドエルフ)/撮影:ラリーズ編集部

“チーム一丸”の作りかた

――選手の活躍はもちろんなんですが、今回は村上監督の“監督術”、マネジメント方法もお聞きしたくて。
村上総監督:そりゃあ、30何年も監督やってますから(笑)。
――だって男女唯一の4連覇ですよ。何か秘密があるはずです(前のめり)。
村上総監督:聞くねえ(笑)。うーん。チーム一丸になって戦うとかよくみんな口で言うけど、じゃあ一丸になるためにはどうするんやということですよ。
――というと。
村上総監督:やっぱり30年日本リーグで戦ってきて、良いところも悪いところもあって。最初は報奨金も何もないアマチュアだったけど、アマチュアながら報奨金やモチベーションを高める制度を作ってきました。

契約や仕組みに、まとまりが良いチームを作れるような色んな工夫は散りばめてますね。

――選手個人だけでなく、チーム成績も反映される査定ということですか。
村上総監督:そうです。


写真:4連覇を果たした日本生命レッドエルフ/撮影:ラリーズ編集部

チームの目的によって、監督に必要なことは違う

――今季、交代となる監督も多いですね。Tリーグの監督に必要なことって何ですか?
村上総監督:チームの目的によって違うと思いますね。
会社の福利厚生費で運営しているチーム、スポンサーメリットを追求する新しいチーム、地域密着でそのファン目線を重要視するチーム、それぞれで求める監督は違うなと思います。
――確かに。
村上総監督:実際、負けたから交代になった人はいないんじゃないかな。チーム目的に合っていないから交代というケースが多いと思います。
――それが良いことなのかどうなのか、わからないんです。
村上総監督:本当は、プロなんだから勝ち負けの方が良いよね。サッカーは下位に行ったらシーズン中でも交代するわけで。でも、卓球はまだそこまで行ってないからね。

普通は2、3年契約で監督させて、ファイナル行かなかったらごめんなさい、だとわかりやすいですよね。でも実際そうはなっていない、ファイナルに行った2チームの監督が交代するわけだから。やっぱりチームの目的に合う合わない、で判断している。


写真:村上恭和総監督(日本生命レッドエルフ)/撮影:ラリーズ編集部

監督の葛藤とは

――卓球は、根本は個人競技じゃないですか。個性ある選手と球団の間で板挟みになることもあると思うんです。村上監督には全く感じないんですが(笑)。
村上総監督:それは当然あるでしょう。

うちの場合は、担当コーチ制にしているから、担当コーチと選手がうまくいかないときだってある。僕は複数のコーチとミーティングで調整しながらやっていますけど、なかなかそのときの利害に合わないこともあるから、難しいときもありますよね。

みんな雇われた監督。全体は会社や球団オーナーが見ているわけやから、監督は自分の上の、球団社長や会社オーナーが何を求めているのか、先に理解してスタートしないと、目的とずれてくるよね。

とにかく勝てばいいんだと思って、それが間違っていることさえあるからね。

――なんか、ビジネスでも同じことが言える気がします…。


写真:日本生命レッドエルフは選手毎に担当コーチ制をとる/撮影:ラリーズ編集部

村上総監督:でも、一番難しいのは選手ですわ(笑)。
――村上監督でも、そうですか。
村上総監督:当たり前ですけど、選手は自分が一番だから。
Tリーグは、ほとんどの選手が最後の卓球人生に命を懸けているわけですよ。ここで終わらせたいという。結果的に移籍する人もいるけど、最初の気持ちは、ここで卓球人生終わるんだと思っている。だからこそ、自分がやりたいようにやりたいわけです。

チームのやりたいように従うわけじゃないんですわ。

監督は選手のその思いを汲んでやって、本人がやりたいようにやってるんだと思ってくれるように、チーム運営をやるということですね。各々、接し方は変わってくると思います。

――なぜ、村上監督だけそれができるんですか?
村上総監督:ま、それがキャリアやね(笑)。あとは、当然コーチやスタッフが多くいるので、これも力になってますね。

(後編につづく)