創設6年目で全国制覇 なのに方針転換 岡山・ねや卓球クラブの挑戦とは | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:ねや卓球クラブ/撮影:ラリーズ編集部

卓球インタビュー 創設6年目で全国制覇 なのに方針転換 岡山・ねや卓球クラブの挑戦とは

2024.07.13

この記事を書いた人
1979年生まれ。2020年からRallys/2024年7月から執行役員メディア事業本部長
2023年-金沢ポート取締役兼任/軽い小咄から深堀りインタビューまで、劇場体験のようなコンテンツを。
戦型:右シェーク裏裏

ねや卓球クラブの練習場、ねや卓球道場。可愛い名前だ。
由来は、代表の祢屋康介(ねやこうすけ)、現在37歳。


写真:祢屋康介(ねや卓球道場)/撮影:ラリーズ編集部

14年前、関西大学卒業後、地元に戻り岡山市内に卓球場を作った。
通常、卓球場のスペースを制限してしまう柱が室内にない設計で、簡単な宿泊施設も備える。


写真:ねや卓球道場/撮影:ラリーズ編集部

ねや卓球クラブは、かつて創設6年目で全国ホープス団体で優勝。
クラブOBには、萩原啓至(愛工大)、由本楓羽(中国電力ライシス)、青井さくら(筑波大学)など、現在活躍中の若手選手が名を連ねる。

現在もジュニア会員だけで100名弱が在籍、明るい雰囲気の中で切磋琢磨する。


写真:妻・祢屋亜矢子もクラブで指導にあたる/撮影:ラリーズ編集部

現在、祢屋康介はナショナルチームの強化スタッフも務めながら、世界トップレベルの強化と、地方の卓球好きな子どもたちの育成を両立させようとしている。
地方の卓球場経営としては、一つの理想的な形だ。

しかし、そこには、かつて栄光の瞬間に「別の登りかたで」と心に誓った方針転換があった。

ホカバ予選は6人が岡山県代表

――今年の全農杯全日本ホカバ岡山県予選は、ねや卓球道場からは5人+推薦1人の計6人が代表権を勝ち取りましたね。
祢屋康介:おおかた予想通りです。期待値が乗っていた部分は期待値だった、あと一歩の悔しい部分もありますが、子どもたちがよくがんばったなという感じです。

全日本ホカバは夢舞台なので、ひとりでも多くの子どもを連れて行ってあげたいなとは思ってるんですけどね。

――試合翌日ですが、子どもたちは集中して練習してますね。
祢屋康介:ラリーズさんに取材に来ていただいてるおかげかもしれません(笑)。

でも、うちの生徒たちの良いところは、ガミガミ言わなくても、みんな頑張る土壌ができているんですよね。選手たちのおかげだなと思います。


写真:活気あふれる岡山市のねや卓球道場/撮影:ラリーズ編集部


写真:集中して練習に励む子どもたち/撮影:ラリーズ編集部

北京留学「中国卓球に秘密はない」

――祢屋さんは関西大学時代、中国に卓球留学しているんですよね。指導の勉強ですか。
祢屋康介:いえ、無謀にも自分が選手としてもう少し強くなりたいと思って行きました(笑)。

一年休学して、北京の卓球チームに。交換留学で単位認定されると進級するので、日学連登録4年の貴重な一年を棒に振ってしまうと思ったので(笑)。

仮に1年間休学しても日本に戻ったらまだ3年出れる、いっぱい練習できて4年のとき強くなれるんじゃないか?と。


写真:指導する祢屋康介/撮影:ラリーズ編集部

――見事に卓球のことしか考えてないですね(笑)。
祢屋康介:浅はかな考えなんですけど(笑)、ただ、振り返るとあのとき中国に行ったことが、結果的にその後の指導者人生には活きてるなと思います。
――どんなところが?
祢屋康介:まず、中国語が日常会話程度にはできるようになったので、海外遠征の際や中国人コーチとやり取りするのに役立ちますね。

あとは、中国といっても、特別なことは何もやってないことを知ったことですね。


写真:壁に飾られた子どもたちの目標/撮影:ラリーズ編集部

祢屋康介:いつ中国に行っても思うんですけど、特別なことはやっていない。

中国の秘密、みたいなものを探りにみなさん行くけれど、ただ地道にやるべきことをコツコツやっているだけなんですよね。当たり前のことを誰よりもやり続けられるか、結局これが勝ち筋なんだと、子どもたちにもよく言っています。

本当に、どこに行っても全国共通みたいなメニューをやってるんです。どこの国でも実践できる練習。でもそれをとことんやっているのも中国だけ。勉強になりましたね。


写真:指導する祢屋康介/撮影:ラリーズ編集部

就職活動で感じた「自分の嘘っぽさ」

――大学卒業後、すぐにこの卓球場経営を始めたんですか?
祢屋康介:はい。でも、大学3年の夏、周囲に合わせて半年くらいは真剣に就職活動したことがあって。
――その時期って、迷いますよね。
祢屋康介:ただ、卓球は最後の4年生の年が迫ってきているのに、就活で練習量が落ちるので伸び悩んで。

卓球が強くなりたくて中国まで行ったのに、就職活動に追われて卓球をやりきれずに終わるのかと。

――確かに。
祢屋康介:周りに合わせて、手帳にスケジュールを書いて、スーツ着て説明会に行って、面接受けて。

自分自身の就職活動が、嘘っぽいというか、偽物だなと感じて。

卓球も諦めきれませんでしたし。


写真:祢屋康介(ねや卓球クラブ)/撮影:ラリーズ編集部

祢屋康介:そんなときに、ずっとお世話になっている関西卓球道場の平(博史)さんに“いつかは指導者に”と相談したら「卒業後すぐに卓球場を始めたほうがいい」と言われて。
――思い切った助言ですね。
祢屋康介:はい、初めてでした(笑)。“自分みたいに年を取ってから卓球場始めてもやれることが限られる。卒業後すぐに岡山で卓球場を始めたら地元の方も知ってくれている。社会人のイロハは卒業までに叩き込んでやる”と、背中を押してもらいました。


写真:祢屋康介(ねや卓球クラブ)/撮影:ラリーズ編集部

祢屋康介:子どもたちを教えるお手伝いをさせてもらいながら、指導者としての考えもまとめ始めて。

面接が進んでいた企業もあったんですけど、すべてお断りして、そこからは迷いはありません。家族も含めて周囲の方のおかげで始められましたね。

自分の親は卓球未経験

――この場所に作った理由はあるんですか。
祢屋康介:岡山に戻って、市内で両親と車で回りながら探しているときに「売地」となっていて。

家族にも支援してもらいつつ、土地を買って卓球場を建てました。


写真:ねや卓球道場の外観/撮影:ラリーズ編集部

――ご両親も卓球されてたんですか。
祢屋康介:いえ、全然してなくて、僕が勝手にハマって、卓球という大変な世界に引きずり込んでしまいました(笑)。


写真:祢屋康介(ねや卓球クラブ)/撮影:ラリーズ編集部

ナショナルチームと地方クラブの違いとは

――ナショナルチームのスタッフもされていて、そこで学ぶことってどんなことですか。
祢屋康介:なかなか地元のチームにいると“世界一になるためにどうしたらいいか”という考え方になりにくい。自分の意識を世界基準に連れていってくれますね。

世界選手権を観るとき、ただ“すごい、勉強しよう”と観るのか、“どうやったらこの選手に勝てるだろう”という目線で観るのか。


写真:祢屋康介(ねや卓球クラブ)/撮影:ラリーズ編集部

――逆に、地域クラブだからこそ大切にしたいことってありますか。
祢屋康介:ざっくり言えば普及面です。

ナショナルチームは強化で「世界一になること」と目標が決まっている集団です。

ねや卓球クラブの場合は、横断幕にもある通り「卓球で人生が少しハッピーになればいいな」という方針なので、個人によって目標設定は違って、それぞれに合ったご指導をしています。


写真:ねや卓球道場の横断幕/撮影:ラリーズ編集部


写真:練習後に敷地内でBBQ/撮影:ラリーズ編集部

ねや卓球道場について

――いま、ねや卓球道場を開いて14年目ですよね。会員数ってどれくらいですか。
祢屋康介:いままで通ってくれた会員の方のトータルでもうすぐ1,000人です。

いま通っておられる方はざっくり200人くらい、一般の方と子どもが100名弱ずつという感じです。

――ジュニア、多いですね。
祢屋康介:ありがたいです。いま来てくれている子どもを全員卓球好きにしたいな、と考えています。

子どもが卓球好きになるために

――始めたばかりの子どもが卓球好きになるために、どんなことを心がけていますか。
祢屋康介:テンションは大事ですよね。うちのスタッフもみんな明るくて元気が良いので。月並みですけど、子どもを褒めることも大切にしています。


写真:団体戦練習、楽しそう/撮影:ラリーズ編集部

祢屋康介:卓球の魅力に取りつかれてハマってくれる場合もありますけど、別に僕らにハマってくれてもいいし、子どもたち同士で友だちに会いたいから行く、でも全然良いと思っていて。

全力で僕らにハマってくれるように頑張りますし、子どもたち同士が仲良くなるような空気づくりは工夫してますね。

――その雰囲気は感じました。基本練習中に、良いプレーをした子どもとコーチがハイタッチしていて、ああ楽しそうだなと感心しました。
祢屋康介:僕がそういう性格だからなんでしょうね(笑)。スタッフも選手もそういう空気感ですね。


写真:笑顔でおにぎりを頬張る子どもたち/撮影:ラリーズ編集部

オープン当初「遊びのクラブじゃない」

祢屋康介:でも正直言えば、オープン当初はそうじゃなかったかもしれません。
――そうなんですか。
祢屋康介:だいたいの若い指導者はそうだと思うんですが、私もやっぱり張り切って始めたので、卓球人口を増やすというより、“日本チャンピオン、世界チャンピオンを育てるんだ、うちは遊びのクラブじゃない”という、鼻息荒い雰囲気だったと思います。
――それはそうですよね。
祢屋康介:いまは、“全然遊び半分でいいですよ”と、真逆のこと言ってますからね(笑)。
――最初から生徒さんは集まったんですか。
祢屋康介:オープン1期生に、いまクラブスタッフにいる丸川、田口という、やる気のある子どもたちが入ってきてくれて。

岡山市内に熱量の高い卓球クラブができたことで、“待望の”という感じで小学生・中学生が入ってきてくれました。

子どもたち自身の雰囲気は、いまも昔も変わらないですね、明るくてやる気があって。


写真:ねや卓球道場で懸命に練習する子どもたち/撮影:ラリーズ編集部

6年目でホープス団体優勝

――クラブ創設6年目でホープス団体で全国優勝するんですよね。相当早いですよね。
祢屋康介:当時もみなさんにそう言っていただきましたが、正直自分としては“運が良かったな”と思っていて。6年でゼロから始めた選手を3人揃えて優勝したわけじゃないので。

うちの環境に魅力を感じて他のクラブから移籍してくれたり、というめぐり合わせのおかげなので、全部自分がやったという気持ちには到底なれませんでした。

――でも、達成感はあったでしょう。
祢屋康介:もちろん、優勝させることは簡単じゃないので、自分自身も周りのみなさんもがんばったなとは思いますけど、うーん、チームとしての輝かしい実績としてそれを謳ったことはないんです。

それはそのときの実績、という感覚なんです。


写真:卓球場の一角にあったトロフィー群/撮影:ラリーズ編集部

――翌年がベスト8ですか。
祢屋康介:はい。小学二年生の頃に移籍してきた萩原(啓至)が六年生にいて、それ以外はうちでゼロから始めた選手で二連覇目指すぞ、と頑張ったことも優勝したことと同じくらい良い思い出となってますね。

優勝した日に決意「違う登り方を」

――全国での実績も、卓球場経営も理想的に見えますね。
祢屋康介:当時、何もわからないなかで、もがきながら、いろんなトラブルもありながら、選手も保護者の方も含めみんなで無我夢中でやって、やっとあそこまで辿り着いたのが正直な実感です。

これをこうしたから全国優勝しました、みたいな再現性のある優勝じゃないので、この1回で終わってしまうような感覚がありました。


写真:祢屋康介(ねや卓球クラブ)/撮影:ラリーズ編集部

――なるほど。
祢屋康介:優勝したその日に、“違う登りかたを試してみたい”と決意しました。

同じ道を繰り返す方法で人を導きたくない、というタイプなんだと思います。

楽しいからこそ勝てるはず

――具体的にはどう変わったんですか。
祢屋康介:率直に言えば、“もっと美しい勝ち方があるんじゃないか”ということです。

自分たち指導者も、保護者も、子どもたちも、みんなプレッシャーを感じて結果を出すという成功法則もあると思います。でも、それはみんな疲弊します。

つらいな、と思いました。


写真:祢屋康介(ねや卓球クラブ)/撮影:ラリーズ編集部

祢屋康介:それじゃないと勝てないという考え方も否定はしませんが、それは既に他のクラブがやってきています。

見ている人も気持ちが良くて、やってるほうも勝って嬉し涙が流せるようなチームにして、子どもたちを健全に育成したい、という思いです。


写真:2階から応援するクラブの子どもたち/撮影:ラリーズ編集部

――勝つことと、楽しいことの両立。
祢屋康介:勝利主義かエンジョイか、という論争がありますが、僕はどっちも取ればいいんじゃない、と思うんです。

勝利至上主義と一般的に言われてきたやり方より、もっと勝利至上主義なのがエンジョイも取り入れた形だと、信じてやっています。

勝ちを求めるからこそ、子どもたちを伸び伸びやらせること、保護者の方と良い雰囲気で進んでいくことが大切なんだというふうに、変わりました。


写真:祢屋康介(ねや卓球クラブ)/撮影:ラリーズ編集部

充実の基本練習メニュー

――練習を見せていただいて、基本練習のメニューが多いなと思いました。
祢屋康介:中国での学びでもお話ししたように、“画期的な練習”というものは卓球には求められてないと思っています。

試合を通して出てきた課題に、個別の特訓抜きでそれを解決できるか、という部分に、私たちの工夫はあるんですけど。

ただ、基本練習だけは、限られた短い時間で将来生きてくるいろんな技術を薄く広く入れているので、基本練習メニューは日本で一番多いかもしれません。基本練習に、バックドライブの引き合いまで入れてます。

時間は合計で30分くらいしかないんですが。

ねや卓球クラブの基本練習メニュー・12種

メニュー12種類を交代しながら約30分間
①フォア打ち
②フォアクロスドライブ
③バック打ち
④回り込みバッククロスドライブ(下回転サーブ3球目から)
⑤バックツッツキ
⑥フォアツッツキ
⑦中陣バックドライブ
⑧前陣バックドライブ
⑨フォアドライブで引き合い
⑩どちらかが前でカウンター
⑪バックドライブで引き合い
⑫チキータレシーブから前陣でバックドライブ対バックドライブ


写真:ねや卓球道場で懸命に練習する子どもたち/撮影:ラリーズ編集部

――時間や入った数でなく、打った回数でメニュークリアにしていましたね。
祢屋康介:進みの早いペアはより高度な基本練習を最後までやり抜くことになり、進みの遅いペアはより基礎的な部分にフォーカスしたメニューで終わる。

ミスを減らすための練習だと思っているので、数を意識することも大事にしています。


写真:ねや卓球道場で懸命に練習する子どもたち/撮影:ラリーズ編集部

取材を終えて

大人も子どももとても楽しそうで、地域の“習いごと”としての卓球クラブも成立させる一方で、それぞれの目標に応じた勝利も求めて結果を出す、卓球クラブにとっての“見果てぬ夢”を追う、ねや卓球クラブ。

順風満帆に見えるこの十余年も、挑戦と失敗から学びながら試行錯誤を繰り返してきた。今も、より岡山県の卓球が強くなるための仕組みづくりを目論んでいる。

「もっと美しい勝ち方があるんじゃないか」。

笑顔を絶やさずに挑戦するその姿を、子どもたちがまっすぐに見つめている。


写真:ねや卓球道場/撮影:ラリーズ編集部

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特集「ふるさとホカバ2024」