「松下さんの熱意にやられた」アンダーアーマーはなぜTリーグを選んだのか


10月24日、両国国技館で華々しく開幕したTリーグ。オーケストラの演出や両国国技館という会場、5000人が1台の卓球台を見つめる緊張感など様々な注目点があったが、“見た目”の変化にも注目だ。そう、各球団のユニフォームだ。従来とは一線を画するデザインは観客からも好評で各会場ではユニフォームをまとったファンの姿も散見される。そのユニフォームを手がけるのが、スポーツメーカーのアンダーアーマーだ。なぜアンダーアーマーはTリーグのユニフォームを手がけることになったのか。同ブランドの日本での総代理店である株式会社ドーム取締役の大倉智氏に話を聞いた。大倉氏が語るユニフォームから観たTリーグとは。(取材・文:武田鼎/ラリーズ編集部)

「個人からチームへ」 Tの課題は応援文化

――開幕したばかりのTリーグをどうご覧になりましたか?

オープニングの演出はよかったですね。両国にあれほど人が集まったのも驚きました。やはりラリー戦になると自然と観客にも火がつきますね。あれが卓球の醍醐味だと感じました。あと、観戦していて気づいたのは足元が大切、ということ。卓球選手の足って意外と注目されないけど“すごい足”してますね。あれほどのフットワークを支えるのだからパンパンに張っている。その迫力も伝わりました。やはり近くで観たほうが迫力はありますね。

――逆に課題に思ったところは?

まだ観戦文化が確立していないところですよね。サッカーやバスケみたいに常に応援しているスタイルなのか、テニスみたいに得点のときだけ声をだすのか。おそらくテニススタイルの応援の方があっていると思いますね。

――これまで読売ジャイアンツ(プロ野球)、大宮アルディージャ(サッカー)、琉球ゴールデンキングス(バスケットボール)、パナソニック・ワイルドナイツ(ラグビー)など幅広い分野でサプライヤーとなっております。今回初の卓球への進出に際してユニフォームにこだわったところはありますか?

まずは良いものを作ろう、と思いました。特に「かっこいいもの」を目指していました。フォルムもちょっとだけ選手の体にフィットするようにタイトめのデザインをしたり。今までのユニフォームって体操服みたいで、漢字の大きな文字で「水谷」と書いてあるゼッケンを背中に貼り付けているイメージです。やっぱりそれは変えたいと思っていたんです。

丹羽孝希(琉球アスティーダ)のユニフォーム。背番号と、名前がプリントされている。
写真:伊藤圭

機能的な面では男子は袖をちょっと長くしています。理由としては、タオルの使用が6の倍数のときしか認められていない。だから汗を拭う時に袖で拭う必要があったんです。細かいところではあとはパンツにスリットを入れてほしいという要望も反映しています。意外なところではズボンにポケットを絶対に作ってほしいという要望がありました。手汗を拭くためだそうです。確かにTリーグを観ていると手汗を拭うシーンを頻繁に目にしますが、スポーツによってこんなに要望が違うのは驚きましたね。

――なるほど。幅広いスポーツをご覧になっていると思いますが、今後のTリーグの課題はどこにあると思いますか?

今後チームに対する帰属や愛着とかをどう育てていくかですね。現状のTリーグを見ると、チームじゃなくて、個人選手にファンが紐付いている。もし有名選手が抜けたらファンも抜けてしまう。結局グッズやユニフォームの販売も選手頼みになってしまう。いかにして「チームを応援するか」という文化を醸成するかがカギになると思います。

実は立ち上がったばかりのJリーグもその傾向にありました。ですが、今では地域に密着したチーム作りができ上がっていますね。

「筋肉がつくとスピードが落ちる」は迷信 フィジカル強化の重要性

――現在大倉さんはいわきFCの社長でもあります。中でもいわきFCはフィジカルトレーニングに力を入れていることで有名ですよね。

サッカーでワッと沸く場面がある時はゴール前や人と人とのぶつかるところです。もちろんテクニックが炸裂したときも盛り上がるけど、世界トップクラスのサッカー選手の肉体を紐解いていくと、フィジカルは不可欠。自分たちの延長線上に存在しない人たちがプレーするのを見て感動したり驚いたりするんですよ。もう欧米だと身長190cmのフィジカルモンスターがくるくる回って、ボールタッチもできて、90分足が止まらないみたいなレベルです。もちろん技術も必要ですが、ある程度のところまではフィジカルで突破できる。世界クラスを見据えるにはそれ以上のなにかが必要ですが。

ですので、いわきFCではフィジカルスタンダードを変えようと考えている。科学的に食事などをケアして、グローバルスタンダードで選手の肉体に関わっていこうとしているんです。そういう取り組みのせいで、現在業界では異種的に見えるのかもしれません。

――卓球はテクニックの要素が強いですが、もちろんフィジカルも必要ですよね。

卓球の競技力についてはわからないけど、選手の足を見ているとフィジカルは必要だと思う。よく言われてた、筋肉が付いたらケガが多いんじゃないかとか、スピードが落ちるとかっていうのは迷信です。

「スポーツ人口を増やす」 アンダーアーマーとTが見据える未来

――なるほど。改めてお伺いしたかったのが、なぜアンダーアーマーがTリーグに関わったか、です。すでに日本には卓球用具メーカーが存在しており、一定の市場もあります。なぜアンダーアーマーがサプライヤーになったのでしょうか?

最初のきっかけは松下さんから依頼です。これから卓球の新リーグを立ち上げて、盛り上げていくんだ、と。最初は半信半疑だったところもあります(笑)。でもやっぱり松下さんの熱意は強かった。それで卓球の人口を調べると760万人いて、国際卓球連盟への加盟団体数も226カ国で世界一のスポーツなんじゃないか、と。

それに松下さんの話した3本柱(強化・育成・普及)も共感しました。

私たちドームの理念と共通しているとこが多かったんです。私たちも「スポーツで社会を豊かにしたい」「スポーツの文化を醸成」を念頭において様々なスポーツ事業に参入しています。経済的なところに目を向けると、アメリカと日本のスポーツの市場規模はどんどん差が開いている。まだまだ産業化されていないんです。スポーツで儲けてスポーツで経済を回すということが日本では未成熟。ドームがやりたいことはナイキを着てる人をアンダーアーマーにすることじゃない。そもそもスポーツをする人口を増やすことなんです。

――なるほど、確かにアンダーアーマーとアスリートの相性は良さそうですね

もしかしたら、アンダーアーマーって、「本気で鍛えてる男たち」みたいなイメージがすごく強いかなと思われますが必ずしもそうではありません。

アメフト選手だったケビン・プランクがアンダーアーマーを創業してから一貫しているのはアスリートをよくしたいんだ、アスリートにとってすごいいいメーカーでありたいんだということ。これだけは脈々と受け継がれている。

だからそういう意味で言うと、どんな競技にせよ、そういう、別にどんな子どもでも大人でも、プロでもアマでも、一生懸命何かに頑張ってる人を応援するのがアンダーアーマーのブランドメッセージです。だから今回のTリーグも同様。新しいことに挑戦する人たち、それは選手であり、チームであり、企業も含めて、そういう人たちを応援する。そのためにアンダーアーマーはTリーグに参入したんです。

市場規模を考えると、これから卓球がじわじわと人気になるのは間違いない。ただ「火がつくか」どうかは別の話。760万人に向けて、その魅力を上手に伝えれば必ず「火がつく瞬間」がやってくると思います。

写真:伊藤圭

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