取材・文:川嶋弘文(ラリーズ編集部)
スウェーデン卓球界のレジェンドやホープたちに囲まれながら生活する英田にとって、この1年はチームの移籍や結婚など、大きな変化のあったタイミングだった。シーズンを終えて帰国中の英田に、自身の見据える将来計画について聞いた。
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オーダーも練習環境も変わった
ーー昨年の個人成績2位から、3季目はついに1位となりましたね。自分の中で変えた点はありますか?
英田:一番は環境ですね。スパルバーゲンからエスロブに移籍したのですが、周りに強い選手も増えたし、練習時間も増えた。
強いチームに行くとオーダーが有利になりますね。
スウェーデンリーグは6シングルスの団体戦で3人が2回ずつ出るんですけど、去年までは1番と4番に出て相手のエースと必ず当たる。今年は全然そういうことは無かったので有利でしたね。特に4番は絶対にエースが来るんですけど、今年はチームメイトが強いから単純に強い選手との対戦の機会が減って、勝率が上がりました。
ーーチームメイトが強いと練習も充実する?
英田:練習環境についてもかなり良くなりました。前のチームの時は、練習場所まで移動に1時間かかったんですけど、今は自転車で10分くらい。また以前は日によって練習時間が違って練習場所も2箇所だったのですが、今は9時から12時までと3時から5時までとちゃんと規定があって、それプラスいつでも自由練習できるという環境で自分に合っています。いつでも練習をやりこめたので結果が出た。
それから更に大きいのはチームにいるトレーナーさんの存在。元々ウエイトリフティングのスウェーデンチャンピオンだった方で、めちゃめちゃムキムキ(笑)彼が週2回フィジカル面の指導をしてくれて、練習場にトレーニング器具も揃っている。かなり体が締まりました。卓球用にトレーニング指導してくれるので筋肉を大きくするんじゃなくて、卓球の動きのなかで、ウエイトを使ってやるので、筋肉はついたけど太く重くはなっていない。理想のトレーニングですね。
スウェーデンの「レジェンド」と「ホープ」とも親交
ーースウェーデンと言えば日本の卓球ファンにとってはワルドナー(’89、’97シングルス世界王者)が有名です。
英田:ワルドナーはめっちゃお酒好きで、大雑把というか豪快ですね(笑)。
ある時、試合で大量リードしてから大逆転されたこと試合があって、「リードしてから勝ち切るにはどうしたらいいか?」とワルドナーに質問したことがあるんですよ。
写真:ヤン・オベ・ワルドナー/提供:ロイター/アフロ
返ってきた答えは「Just Win!!(とにかく勝て)」ですよ(笑)
全然答えになってないですよね。でもお酒の席では、結構熱く語ってくれる。
アペルグレン(’85ダブルス世界王者)も常に下ネタ言ってる、絡みやすいおっちゃんというかお父さんみたいないい人です。
ーーTリーグでも活躍するモーレゴードともチームメイトですね。
英田:トルルスは練習好きですね。練習もトレーニングも一緒にするんですけど、コンスタントに練習をやりこむタイプ。プレースタイルが破天荒だから、あまり練習しなさそうな卓球に見えるけど、卓球に対してはすごく真面目ですね。一緒に遊んでるときは普通の若者で面白くていいヤツですね。
スウェーデンか日本か、それとも。。。
ーースウェーデン3シーズンで個人1位にもなりました。今後はどうする?
英田:今ほんとに迷いどころです。3シーズンやったんで。
普段エスロブは、(ヨーロッパ)チャンピオンズリーグに毎年出ているチームなんですけど、去年は五輪前年で選手がプロツアー優先など事情があって出られなかった。次チャンピオンズリーグに出られるのであれば、エスロブに残って戦ってみたいという気持ちが強いです。
ーー海外リーグ以外だとどんな選択肢があるのですか?Tリーグとか?
英田:Tリーグはもちろんオファーいただければ出たい気持ちはありますね。チームに所属させてもらってあの雰囲気を味わってみたい。レベルはヨーロッパ最高のブンデスリーグ(ドイツ)と比べても同じかそれ以上かのレベルなので。
写真:英田理志/提供:英田理志
あとは愛媛と関西を拠点にして、日本で練習して試合に出ることも考えています。
ーーその場合、主な収入源は?
英田:一番は愛媛県との契約。公務員ですね。あとはスポンサーさん。用具メーカーのヤサカさんや松江のサンビルさんほか。それから講習会などですかね。
思い描く将来キャリア
ーー今後のキャリア設計についても教えて下さい。
英田:そこをまさに今考えています。去年結婚して自分の人生が一人だけの問題じゃなくなった。とはいえ奥さんは自分のやりたいことを応援してついてきてくれる感じです。
なので選手をいつまでやるかが一番大きなところ。
今、僕は27。やれるかやれないかは別問題として、やっても35まで。ケガしたらそれでもう終わりですし、何が起こるか分からないんですが、やれるところまでやって、その後はその時の自分が決めるという考えでいます。
ーーやれるだけ卓球をやりきって、後は自分の直感に従うと。
英田:だいぶ先のことですけど、今のところ引退したら、聖書の勉強をしたいと思ってます。海外に留学して、2年か3年くらい勉強しに行きたいなっていう気持ちはずっとある。
写真:英田理志/撮影:伊藤圭
そこからまあ牧師の道に進むのか。教員の免許も持ってるので教師の道に進むのか。あとは卓球関係の仕事に就かせてしてもらうのか。こんなイメージをぼんやりと持ってはいます。
まだ27年しか生きてないんですけど、今までの人生では縁が自分の思っていないところから降ってくる。そういうターニングポイントが向こうからやってくるんですよね。
ーースウェーデン行きの時もそうでしたね。
英田:昨年いただいた愛媛県のお話もそうです。去年の3月までは日本の所属が決まってなくて、僕の所属どうしようって焦って、夜中までずっと考えてて、紙に選択肢をひたすら書いていた。それで「考えてても埒あかんわ」「なるようにしかならんわ」「もう寝よ」って思った瞬間に電話が来たんですよ。
そこからいろいろ話聞いたら、条件もよく、ぜひお願いしたいとなった。自分もスウェーデンだけの収入じゃああれだし、補償の手厚い公務員として雇っていただけるのは有り難いお話でしたね。
ーー青天の霹靂ですね。
英田:今回の愛媛のお話も、3年前のスウェーデン行きの時もすごい縁があった。だからこれまでの傾向から行くと、僕の場合は自分で人生設計をしすぎない方が良い道が開けると思っています。
あんまり計画を決めすぎないというか。もちろんどうなりたいという理想はあって、それに向かって頑張るんですが縛られすぎないことも大切かなと。
今自分にできる事を一生懸命やっておくとチャンスボールが来る。だからそのチャンスボールを作るために一生懸命カットで拾いまくる。
ーーまさにカットマンらしい人生観ですね。
これまでのインタビューはこちらから
>>「牧師」か「卓球選手」か。 独創的なカットマン英田理志のキャリアを変えた塩野の一言とは?【前編】
>>スウェーデンで卓球のプロになる。英田理志24歳の決断【後編】
>>【俺の卓球ギア#1】英田理志(スウェーデンリーグ・スパルバーゲン所属)