取材・文:川嶋弘文(ラリーズ編集長)
卓球ファンの間で「伝説の中国越え」と呼ばれる試合がある。
2013年世界卓球パリ大会男子シングルス。北京五輪金メダリストの馬琳(マリン)を、日本の松平健太が破った一戦だ。松平は2009年の世界卓球横浜大会で馬琳に肉薄しながらも3-4で惜敗。4年越しでそのリベンジを果たしたのだ。
シリーズ第4回目となった人気企画「なぜ中国は卓球が強いのか?」。
今回は“伝説の中国越え男”・松平健太(Tリーグ・T.T彩たま/ファースト)を直撃した。中国への勝ち方を知る男・マツケンが中国卓球の強さを紐解く。
中国選手はループドライブを打たない
写真:松平健太(T.T彩たま)/撮影:保田敬介
――松平選手が考える中国の強さを教えてください。
松平健太(以下、松平):中国選手の強さの1つは、全てのサーブをいろんなコースに限りなく低く出せるところですね。
回転量や分かりづらさなら、僕は水谷(隼)さんや丹羽(孝希)の方が上手いと思っています。でも中国選手は、いろんな回転のサーブをどのコースにでも低く出せるんです。
普通の選手は別のコースにサーブを出す際、少し高くなったりするのですが、中国選手はすべてのサーブが一定の低さ。精密ですね。
――サーブ以外に関してはいかがでしょうか?
松平:基本的な技術レベルが異常に高いですね。凡ミスが本当に少ない。
例えばレシーブ。中国選手はわからないサーブに対しては長いツッツキでレシーブするので、レシーブミスが少ないです。ブロックなどの守備力が高いので、そこからラリーに持ち込めばチャンスが生まれるという絶対的な自信があるんだろうと思います。
加えて、中国選手はループドライブ(通常のドライブより山なりなドライブ)を基本打たないんですよ。台から出るか出ないかのボールに対して、中国以外の選手はループドライブすることが多いですが、中国選手はほぼしないですね。
写真:台から出るか出ないかの球を打ちに行く許昕(シュシン・中国)/提供:ittfworld
――中国選手は台から出るか出ないかのボールをどう処理するのでしょうか?
松平:中国選手も台のサイドを切るボールはループドライブしますが、それ以外は全部台の中で上から打ってきます。そうなるとこちらはカウンターできず、ブロックせざるを得なくなり、攻められ続けてしまいます。
図:中国選手がループドライブを打つコース(黒色部)。台の中で上からドライブを打つコース(赤色部)/図作成:ラリーズ編集部
――逆にそういう技術を取り入れることは難しいのでしょうか?
松平:そうですね…。とっさの足の動かし方と判断力が相当重要で、どちらかを間違えると打点が落ちてループドライブになってしまうので。
僕はそこのボールを打つ際の足の動かし方や判断力が中国選手の一番すごいところだと思います。
勝つために必要なのは“予想外のプレー”
――では中国選手にどうすれば勝てるのでしょうか?
松平:予想外のプレーをするしかないですね。例えば、僕だと変化や速さ。あとサーブレシーブで相手が取ったことがない技術を見せるなど、何本か予想外のプレーをして、後は普通にやって点を取るしかないと思ってます。
普通にやっても絶対勝てないので。中国選手が経験したことのない技術やテンポの変化、色んなことをやらないといけないです。
写真:サイドスピンをかけたブロックなどトリッキーなプレーを見せる松平健太/提供:ittfworld
――その一方で1度予想外のプレーをして勝てても2度目は対応されると聞きます。
松平:そうですね。だから常にプレーを進化させ続けたり、色んなパターンを構築したりすることが大事です。
丹羽や伊藤美誠ちゃんもそうじゃないですか。トリッキーなプレーはやっぱり通用しているし、中国選手でもついてこれなかったりする。僕はパワーがない分、そういう速さや変化で戦おうとしています。