文:武田鼎(ラリーズ編集部)
2020年東京五輪の代表が内定している水谷隼(木下グループ)。注目は今回から採用される男女の混合ダブルスだ。なんと言っても水谷と伊藤美誠(スターツ)がペアを組むのだ。世界の卓球ファンが期待する“日本最強ペア”は世界でどこまで通用するのか。水谷に聞くと「メダルの可能性は65〜75%」と力強い答えが返ってきた。
(取材:川嶋弘文・ラリーズ編集長)
>>第1話 「全盛期の7割あれば十分」 水谷隼、最後の大舞台へ懸ける思い
「金メダルの可能性は20%」の真意
写真:2020ドイツOPで準優勝を果たした水谷隼・伊藤美誠/提供:ittfworld
その根拠はどこにあるのか。まず「メダル65〜75%」の根拠は自分たちの実績だ。8月のブルガリアオープンでも優勝を果たし、その後もチェコ、スウェーデン、中国でのグランドファイナル、2020年ドイツオープンでも決勝まで進んでいる。
「台湾とか香港とかの強豪ペアにも最近は連勝してるんで、勝てる可能性は高い」と自信を覗かせる。
だが、「金メダルの可能性は20%ぐらいですかね」と静かに語る。中国という巨大な壁が立ちふさがっているからだ。許昕(シュシン)/劉詩雯(リュウスーウェン)ペアだ。
両名とも過去に世界ランキング1位に輝いたことがあり、紛れもない「地上最強の男女ペア」だ。チェコオープン以外の決勝まで進んだ3大会ではすべて同ペアに敗れ、優勝を逃している。
写真:グランドファイナルでも決勝で立ちふさがった許昕・劉詩雯ペア/撮影:ラリーズ編集部
水谷の自在な両ハンドドライブが、伊藤の果断なチキータもことごとく跳ね返された。強気のプレーに定評がある伊藤が試合後に「許昕の球は“J”くらい曲がる」と評した。「ジュン・ミマ」コンビをもってしても、中国の壁は分厚いのだ。
打倒・中国へ 水谷の描くゲームプラン
写真:水谷が語る「大魔王・伊藤」の操縦法/撮影:伊藤圭
無論、やられっぱなしでは終われない。2度の敗戦から水谷は確かな手応えを掴んでいる。「負けたのは確かなんだけど、1,2本の差で負けている。自分が東京に向けてギアを上げて、いいパフォーマンスをすれば、その1,2本が逆に自分が勝てる1,2本になる。チャンスはあるんじゃないかな」。確かに、大敗したわけではなく、どの試合も僅差で敗れている。
すでに、水谷は攻略の糸口を掴んでいる。「自分がサービスレシーブのときの得点源をもっと増やしていきたい。僕がサービスのときレシーブのときの失点率ってものすごく高いんですよ」と語る。確かに、過去の試合を分析すると、水谷のサーブから始まると失点してしまうシーンが目立つ。
写真:混合ダブルスで課題にあげた水谷のサーブ/提供:ittfworld
「これは自分がサービスして、許昕がチキータで返球すると、美誠がミスしてしまうことが多くて。やっぱり自分がもっともっとサービスの精度を上げていくこと。チキータを封じるようなサービスをもっと出していかなければいけない」。その根底にあるのは、水谷なりの「大魔王・伊藤」とのコンビネーションだ。
「彼女の強みは、思い切りのよさ。自分でこうした方がいい、ああした方がいいって指定するんじゃなくて、まず彼女のやりたいようにサービスだったりレシーブだったりをやらしてあげたい」。ならば、初手の自分のサーブで許昕にいいように返球されるわけにはいかない。
写真:伊藤美誠(写真左)・水谷隼(写真はグランドファイナル時)/撮影:ラリーズ編集部
一歩引いた立場から美誠を輝かせる。それが水谷の考えるゲームプランだ。「そのゲームプランを描けるのは、自分にある程度のキャリアがあるから。彼女は彼女の考えがあって、まあ、僕自身は僕にも考えがあるんですけど。自分と彼女の意見がぶつかったときには、彼女の意見を優先したい。それが一番力を引き出すことになる」。
卓球界広しと言えども、「大魔王の操縦法」を熟知しているのは水谷だけだろう。
五輪という大舞台をこれほど冷静に分析できるようになったのは、水谷が過去3回にわたって五輪に出場しているからだ。では過去3大会を水谷はどう分析するのか。水谷の波乱万丈の12年を紐解く。
(第3話 北京からロンドンの4年間 水谷隼、飛躍のきっかけは“中国武者修行”に続く)