【卓球】英ピッチフォード、"うつ"を乗り越えた過去を告白「同じ悩みを持つ人を助けたい」 | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:ピッチフォード(イングランド、T.T彩たま)/撮影:伊藤圭

卓球×インタビュー 【卓球】英ピッチフォード、“うつ”を乗り越えた過去を告白「同じ悩みを持つ人を助けたい」

2019.06.30

文:川嶋弘文(ラリーズ編集長)

8月下旬より2年目のシーズンが開幕するTリーグ。各球団から参戦選手が続々と発表される中、男子の台風の目となると予想されるのがT.T彩たまのリアム・ピッチフォード(イングランド、25歳)だ。

ピッチフォードは昨年の世界選手権で水谷隼、張本智和を破るなどの活躍で世界ランキングを現在15位まで急上昇させ、世界中から注目されている。そんなピッチフォードに「これまでのキャリアの中での苦労」について聞くと、衝撃の答えが返ってきた。

うつ(depression)を乗り越えて、今僕はコートに立っている

あまりにも繊細でデリケートな話題について「今、うつ病は世界中で苦しむ人がいて、日本でも多いと聞いた。少しでも苦しむ人たちの力になれるのなら」と静かに若き日の苦悩を語ってくれた。

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サッカー少年から卓球少年へ


写真:ピッチフォード(イングランド、T.T彩たま)/撮影:伊藤圭

英国の北部・チェスターフィールド出身のピッチフォードは、幼少期はサッカー少年だった。

「サッカーじゃないよ、フットボールと呼ぶんだ」。

英国発祥のフットボールへの愛とこだわりを持つピッチフォードが卓球を始めたのは8歳の時。きっかけは英国特有の雨が多い気候にあった。

「僕らの国では本当によく雨が降る。雨で大好きなフットボールが出来なくなってしまって、仕方なく外から帰って来た時、そこに卓球台があって。最初は遊びで友達とやっていたら、楽しくなってしまって」ピッチフォードはサッカー少年から卓球少年へとシフトしていくことになる。サッカーでのポジションは「ストライカーだった」というピッチフォードは豪快なバックハンドを相手コートに叩き込む快感に、文字通り「ハマって」いった。

その後、10歳で母国イングランドを背負って欧州スポーツの祭典「Six Nations Games」に参加してから約15年間、イングランドナショナルチームの一員として戦い続けることになる。

「得意なバックハンドを伸ばすことと、実戦形式の練習。これを世界中の試合に出ながら繰り返してきた」というピッチフォードは、世界各地で開催されるワールドツアーを転戦する傍らドイツ、フランス、インドなどのプロリーグにも参戦。試合経験を積むことで欧州を代表する選手に成長していった。

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うつと戦った1年半


写真:ピッチフォード(イングランド、T.T彩たま)/撮影:伊藤圭

そんなピッチフォードが「人生で一番苦しかった」と振り返るのは20歳の頃、ドイツのブンデスリーグでプレーしていた時のことだ。

「ドイツにいた頃に“うつ”の状態になり苦しんだ。僕がいた町はとても小さな町で、卓球以外にすることがない。それで自分の人生が前に進んでいないような感覚にとらわれてしまって、焦りを感じるようになっていた」と当時を思い出す。

「一番つらかったのは人と話すこと。気づいたら自分の気持ちを表に出せない状態になってしまっていた。

多くの大人たちは、しっかりしろ、うまくやれ、若いからやり直せると言うけど、人間みんなそんなに強いわけではない。僕も周りに思われているほど強くないし、スポーツ選手は強く見せなきゃいけないから、それを打ち明けるのも難しかった」とアスリートならではの苦悩を覗かせる。

ではピッチフォードはどのようにして“うつ”を乗り越えたのか。

本当に元の自分に戻ったと感じたり、プレーを楽しめるようになるまでに約1年半かかった。その期間はとても長く感じた。

色んな人たちの助けがあって、なんとかその状態から抜け出すことが出来た。辛かったけど、周囲に心を開いて自分がもがいているということを伝えることを勇気を持って続けるしかなかった」。

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「スポーツ選手の言葉には影響力がある」


写真:ピッチフォード(イングランド、T.T彩たま)/撮影:伊藤圭

世界保健機関(WHO)の調査では、世界中で3億人以上がうつで苦しんでおり、日本でも年間110万人以上が医療機関を受診しているという(厚生労働省の統計による)。

ピッチフォードは「スポーツ選手の言葉には影響力がある。特に色んな競技のスポーツ選手が自分の悩みをオープンにすることで、同じようにもがいている人を助けることが出来ると思う。

僕のこともこうして話すことで、自分のためにもなっているし、苦しんでいる人の助けに少しでもなればと思う。簡単な道のりでは無かったけど、うつを乗り越えた経験が自分を以前より強くしたし、自分を形成したとも言える」と同じ悩みを抱える全ての人へエールを送る。

この夏からTリーグへの参戦を決めたイングランドの英雄は「日本は好きな場所。多くの人に応援してもらいたいし、いいプレーを見せたい」と日本でのプレーを楽しみにしている。

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