【卓球・黄鎮廷#2】黄を変えた、人生の師の"容赦ない一言" | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

卓球×インタビュー 【卓球・黄鎮廷#2】黄を変えた、人生の師の“容赦ない一言”

2018.10.07

写真・取材・文:澤竹正英/呉靖惠(ラリーズ編集部)

9歳から卓球を始めた黄鎮廷。遅いスタートだった黄は18歳の時、プロになることを決意するも、世界ランキングは1000位台を彷徨う無名プレーヤーだった。そこから彼をトップランカーへ引き上げた、その急成長のきっかけは一体どこにあったのだろうか。

そこには黄が“人生の師”と慕う、ある人物との出会いがあった。

>>【卓球・黄鎮廷#1】香港のエース・黄鎮廷、世界最高のペンホルダーへの軌跡

黄鎮廷の“運命を変えた一戦”とは

プロになる決意をした黄は2010年、香港の国内大会、日本でいう全日本選手権で、黄鎮廷は当時の香港代表、高禮澤と対戦する。この試合が黄の運命を変えた。当時18歳の黄鎮廷は世界ランキング900位付近。かたや当時33歳・ベテランの高禮澤は2006年アジア大会ダブルス金メダルを獲得しており、過去には世界ランキングを20位を誇った香港屈指のプレーヤーだ。

「高の圧倒的有利」という前評判の中、黄は格上相手に必死に食らいついた。ゲームカウントこそ0-4と負けてしまったものの、黄鎮廷は当時のことを「ポイントだけで言えばリードを奪っていました。まさかオリンピック選手に名もなきプレーヤーが食らいつくなんて誰も思っていなかったでしょう」と振り返る。

「いい試合だったけどやっぱり高の勝ちか」と嘆息する会場内で香港ナショナルチームの関係者だけは黄の健闘に注目していた。試合後、黄鎮廷はナショナルチーム入りの打診を受ける。

“人生の師”唐鵬との出会い 浴びせられた容赦ない一言

2010年、黄はナショナルチームに正式に入る。世界ランキング900位プレーヤーの大抜擢は驚きをもって迎えられた。当時の香港は2006年、2008年の世界選手権団体で銅メダルを獲得するなど世界でもトップクラスの強さを誇っていた。なぜ無名の若手である黄が選ばれたのだろうか。

「当時の香港は中国からの帰化選手がほとんどだった。エースの唐鵬を始めそうだったんだ。香港卓球協会としても香港出身の一流選手を輩出したかったのかな。だから僕の可能性に賭けてくれたんだと思う」と当時を振り返る。

ナショナルチームに入ったことで、黄の意識は大きく変わった。今までは香港らしい「卓球半分、勉強半分」の文武両道の考え方で卓球を取り組んでいたが、プロ卓球選手として生きることを意識しはじめた。

「9歳から始めている分、ハンデは他の選手より大きかった。かなり焦ったし、苦労したな。毎日5~6時間の練習に加えて、朝早めに来て自主練をして、練習後も体力に余裕があれば追加でまた練習。何としても追いつきたかった、追いつかなきゃいけなかったんだ」と苦労を口にした。

がむしゃらに卓球に打ち込む黄に転機が訪れる。香港の絶対的エース、唐鵬との出会いだった。

唐鵬は2003年のアジア選手権ダブルスで3位、2008年の世界選手権団体銅メダル獲得に大きく貢献し、2016年の世界選手権では日本の丹羽孝希を下している。世界ランキングは11位まで上り詰めた香港の英雄だ。

唐鵬は黄鎮廷の才能を一番に見抜き、心・技・体、全てに関して徹底してアドバイスした。シェークハンドだった唐鵬がペンホルダーの黄に助言できたのは、中国ナショナルチーム時代に、2009年世界選手権男子単優勝、世界最強の中国式ペンホルダーとも言われた王皓のプレーを間近で見ていたため、彼の戦術や技術などを熟知していたのだ。

最高の師匠とも言える唐鵬とのやり取りの中で黄鎮廷は自身の精神的な弱点にも気付かされた。「僕は肝心なところで弱気になってしまうところがある。どこかシャイで、心優しい部分があったのかもしれない。強気に攻めることができなくなってしまうんだ。自分に自信がなかったのかな」

そんな黄鎮廷に、唐鵬は容赦ない言葉をぶつけた。

「負けたら、お前が努力したことは全て無駄になるんだぞ」

「多くの指導者は『努力は無駄にならない』と言う。プレッシャーを感じ過ぎても困るからだ。しかし、僕らは違う。香港の意地とプライドをかけて、世界を股にかけて戦うプロ選手なのだ。その自覚と覚悟を持て、そう言いたかったのかもしれない」。

”人生の師”と二人三脚で強くなった黄鎮廷は2014年、プロツアーグランドファイナル、恩師・唐鵬と組んで出場をした男子ダブルスにて見事3位入賞を果たし、銅メダルをプレゼントした。

この勝利を皮切りに翌年世界選手権のミックスダブルスで銅メダルを獲得し、黄は世界トップランカーの道を歩み始めることになる。

そして、彼からどことなく物静かで、謙虚な雰囲気を感じるのは、彼がハンディキャップを埋めるために、血の滲むような努力を重ね、苦労を乗り越えてきたからなのかもしれない。

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