テレビの向こうから、柔らかな表情で的確な言葉を紡いで解説をする平野早矢香氏。現役時代を知らない世代からすると「なぜ、鬼?」と不思議に思うかもしれない。
ロンドン五輪銀メダリスト、全日本優勝5回。
現役時代は鬼気迫る表情でプレーし、その勝負強さも相まって、“卓球の鬼”と称された平野早矢香氏。
2016年に現役引退したかつての“鬼”は、優しい笑顔と気配りを見せつつ、その奥に現役時代と変わらぬ努力と芯の強さも感じさせながら、インタビューに答えてくれた。
「私なんて、メディアに映る人間じゃないって今も思ってます」。謙遜しながらも、一つずつ、質問に対して、丁寧に、誠実に答えていくその姿勢は、現役時代同様、向き合う人間の気持ちを熱くさせてくれた。全5回連載でお送りする。
このページの目次
一番言われる“「卓球ジャパン!」見てます”
――現在の生活はどうですか
平野早矢香(以下、平野):私はオンオフの切り替えがすごく下手だったので、引退してからの方がプライベートは楽しいです。気軽にいろんな友達とご飯いったりとか、リラックスする時間ができました。
仕事は忙しいですが、でも、いろんな場所に住んでる友達や、卓球仲間だったり、アスリートだったりと交流できています。楽しさだけでいうと、現役の頃よりすごく楽しいです。
写真:平野早矢香氏/撮影:田口沙織
――仕事では「卓球ジャパン!」(BSテレ東にて毎週土曜夜10時放送)MCになって、番組開始から二年半ほど経ちます
平野:いろんな卓球の講習会や講演をさせてもらうんですけど、一番言われるのが「卓球ジャパン!」見てますっていう言葉なんです。
私自身も、自分がメディアに出ている意味は、自分がこれだけ好きだった卓球を一人でも多くの方に、より深く知ってもらって、その目線で今の選手を見てもらいたいっていう気持ちが強い。「卓球ジャパン!」への思い入れは、人一倍強いと思います。
――スタジオで解説する姿も板についてきました
平野:私はそんなメディアに映る人じゃないって今でも思ってます(笑)。現役時代、愛ちゃんがいて、佳純ちゃんがいて、2人がああいう形で卓球界のアイドル的な存在だったから、一緒にいた私も、テレビで試合をオンエアしてもらったり、インタビューしてもらったりしたので。
今、卓球が人気になってきて、愛ちゃんはいま子育てしながら台湾と日本行き来したりしてるって状況なので、私がこういうお仕事させてもらってるって思ってます。
写真:ロンドン五輪卓球女子団体銀メダルの石川佳純、福原愛、平野早矢香/提供:YUTAKA/アフロスポーツ
いまの私の役割は、卓球の人気が高まってるなかで、より分かりやすく、うまく伝えて、もっと卓球に関心を持ってもらう、違う見方をしてもらうこと。いままで見ていた卓球と、さらにもっと深い部分。でも深い部分も、掘り下げればいいってものじゃなくて、解説はまた全然違う部分を意識しなければならない。
だからこそ、解説で伝えられないところを掘り下げるのが「卓球ジャパン!」かなと私は思ってます。
私の発言が卓球界の常識になる可能性がある
写真:平野早矢香氏/撮影:田口沙織
――どんな気持ちで収録に臨んでますか
平野:毎回、私の発言したことが、卓球界の常識になる可能性があると思ってやってます。「卓球ジャパン!」はフルで卓球をオンエアしてもらえる番組ですし、卓球関係者はよく見てくれてますけど、それ以外の方も見てくれている。私のコメントや発音について、以前知人から注意を受けたことがあって。
――例えば
平野:細かい発音で言うと、時々ラ↑リー戦って言ってしまうんですけど、本当の発音はラ↓リー。ミ↑ドルじゃないミ↓ドル。それ一つでも、卓球界ではそう発音するんだって思われてしまう可能性がありますよね。
卓球を知らない方にも見て頂いているので、一つのことを説明するにも、言葉の選び方も考えます。
カットマンのボールを攻撃側が打つことをカット打ちって言いますよね。でも、“カット打ち”って言葉だけ聞いたら、カットマンがカットしていることをカット打ちって捉えてしまう人もいたりして、これって卓球界では何も言わなくても分かることじゃないですか。
でも、そう言われて、あ、そういうふうに感じるんだって気づいて、じゃあ「カットのボールを打つこと」って言った方がわかるのかなとか。
写真:平野早矢香氏/撮影:田口沙織
――確かにそういう言葉って卓球にありますね
平野:なんとなく感覚的にやっていることを言葉にするっていうのは、自分の言葉を選ぶセンスもあるし、言葉をたくさん知ってないといけない。勉強も必要です。
現役のときに結構あったんですけど、同じことを指導者の三人が違う言い方で指導したときに、同じこと言っていても、私この人の言ってることが分かる、理解できるっていうのがあるんですよ。それって、表現方法の違いじゃないですか。
何をどう言ったら伝わりやすいかって、とても大切。だらだら長く話せばいいってことでもないし、ここがすごく難しい。
選手の気持ちや考えを知ったうえで話す
――言葉で表現する仕事の難しさですね
平野:特に今は、ひとのプレー、ひとの試合を話すってことが多いので、そこに絶対間違いがあってはいけない。
自分のことを発言するときに間違っても自分が傷つくだけでいいんですけど、人のことに絶対間違いはって思うので、ほんとに迷ったり、どうなんだろうって思うことは直接選手に聞くこともあります。
――そうなんですか
平野:例えば、みまちゃん(伊藤美誠)に「みまパンチ、私の感覚ではこうだけど、みまちゃんどう思ってた?みまちゃんの気持ちと意見が大事だから」って言って「やっぱそうだよね、じゃあ私ここは否定するね」とか。あとは水谷君(水谷隼)の目の問題について語らないといけないときは、本人に現状を確認してから発言しました。
何か私が発言するときに、選手の声、気持ちとか考えを知ったうえで話したい。分かんない部分とか、ほんとに疑問だったり迷うときは本人に聞きます。絶対間違えないように。
写真:伊藤美誠の”みまパンチ”/提供:ittfworld
――それは平野さん自身も現役時代、報道やコメントに「そうじゃないのになあ」と思う経験があったからですか
平野:私の場合はそもそも、鬼って言われてたからなあ(笑)。冗談ですよ(笑)。現役の頃はとにかく自分自身に集中していたから、あんまり気になりませんでした。
写真:平野早矢香氏/撮影:田口沙織
<>>「ホカバのライバルは今日の友」【私のホカバ時代・平野早矢香】(第2話/全5話)に続く>
「卓球ジャパン!」放送概要
写真:長﨑美柚(写真左)と木原美悠(写真右)/提供:BSテレ東
放送局
BSテレ東
日時
毎週土曜夜10時
8月8日(土) は夏休みSPとして“Wみゆう”長﨑美柚と木原美悠が登場!
出演者
武井壮
平野早矢香
竹崎由佳(テレビ東京アナウンサー)
<8月8日(土) ゲスト>
長崎美柚、木原美悠