取材・文:川嶋弘文(ラリーズ編集部)
山﨑雄樹さん(45)は、熊本の放送局から独立し、現在はフリーアナウンサーとしてTリーグの実況などを担当する。
趣味で続ける卓球でも年代別の全国大会に出るほどの腕前だ。
インタビュー後編では山﨑氏の卓球との出会いからアナウンサーならではの思い出、実況のこだわりポイントまでを紐解く。
>>前編はこちら 元卓球少年のフリーアナウンサーに「夢を叶える方法」を聞いてみた(山﨑雄樹・前編)
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一流クラブでの卓球生活から40代でのプレー再開
ーー卓球との出会いは?
山﨑:小学校5年生のときに三重の西飯卓球センターで卓球をはじめました。父親が卓球やってたのがきっかけでしたね。父に「なんで通わせようとしたの?」って聞いたら「世界選手権に出た夫婦がやっている卓球場と書いてあるチラシが入ってた。どうせやるなら、その他大勢にならないスポーツで、しかも一流になれる環境」という理由で通うようになったんですよね。
写真:Rallys Challenge Match出場時の山﨑雄樹さん/撮影:ラリーズ編集部
ーー西飯(にしい)さんと言えば日本を代表する卓球一家ですよね?
山﨑:親子で日本代表ですよ。徳康さんと幸子さんも、その娘の美幸・由香姉妹も世界選手権で活躍されていました。僕は妹の由香さんと同級生でその旦那さんの真田浩二さん(現・愛工大名電中監督)ともチームメイトでした。
由香さんは僕と同じペンホルダーの表ソフト。今もそうですけど昔からスラッと手足が長くてキレイな卓球をしていて指導者からは「まず由香の後ろで見てなさい」って言われてお手本にさせて貰ってましたね(笑)
ーー超一流選手たちと同じクラブとは最高の環境でのスタートですね。
山﨑:卓球のプレーはもちろんですが、今でもこのご縁が仕事でも活きています。Tリーグの放送や配信の現場でも実況と解説という立場で美幸さんと真田監督とも一緒に仕事をさせていただきました。
写真:山﨑雄樹アナウンサー(右)と西飯美幸さん/提供:山﨑雄樹
ーー40代でプレーを再開されていますね?きっかけは?
山﨑:最初にTVの企画で安藤みなみ選手(熊本県の東京オリンピック育成指定選手。現・十六銀行)に挑戦して『2、3本は取れるかな〜』って言ってたらラブゲームされてしまって。
写真:山﨑雄樹アナウンサー(左)と安藤みなみ選手/提供:山﨑雄樹
バックハンドの打点が早いし、粒高っぽい表だからボールがとにかく落ちる。バックにロングサーブ出してそれをしばいたればいいわって思っていたら、返球が低くて速くて全然狙えない。
そこからですね。安藤選手たちが練習していた道場に週に1回くらい行き始めて、気づいたら週2、週3になり、試合に出始めた。段々熱を帯びていったって感じです。全日本マスターズに出られたのも良い思い出。本当に人の縁とタイミングに恵まれてばかりです。
ハプニングへの対応こそが腕の見せ所
ーーアナウンサー人生で一番覚えている瞬間は?
山﨑:本当に色々あるのですが、卓球関係で言えば、一番覚えているのは2017年に熊本であった全日本カデットの閉会式ですね。男子は愛工大付属、女子はミキハウス勢が優勝した大会です。その最後の式典で司会をさせて頂いたのですが、そこでハプニングが。
大きい全国大会では、日本卓球協会から県の協会に感謝状が贈られるのですが「それでは最後に感謝状の贈呈です」とアナウンスした瞬間、視界の隅っこで大会運営を手伝っていた地元慶誠高校の男子の選手が控室に全力疾走するのが見えたんですよ。
無いんですよね、感謝状が。手違いで控室に置き忘れてしまっていたみたいで。会場もざわざわし始めて。
ーーそんな時、司会者はどうするんですか?
山﨑:まず「感謝状の準備が整いますまで、私の卓球の小話でも」とアナウンスしました。そこからは自分の身の上話を好きに喋らせてもらいました(笑)
西飯卓球道場で卓球を始めたこと。全日本ホープスが地元・三重であったときに県予選で6位に入れば全国に出られるのに、7位だったと。全日本カデットは三重県予選で3位に入れば全国に出られたのに4位でしたと。だからこんな憧れの大会でアナウンスできて幸せです。と言ったら皆さん喜んでくれて。
そして「今回優勝した名電中の真田監督とダブルスを組んでいました」って言ったら、名電の選手たちは「わー!そうなんだ!」って。
写真:山﨑雄樹アナウンサー(左)と真田浩二氏/提供:山﨑雄樹
こういう災い転じて福と成すという瞬間があったんですよね。
ーーさすが、プロのアドリブ力ですね。実況もアドリブの連続ですよね?どのように訓練するのですか?
山﨑:沢山の現場で経験を積む。これに尽きますね。
熊本時代に、夕方のニュースのキャスター、ラジオの若者向け番組のパーソナリティ、情報番組のリポーターもやりました。グルメリポートはすごく苦手でしたけどね。
もちろんスポーツ実況、スポーツコーナーのキャスター、スポーツ番組の司会みたいなのもやりましたし、台風中継や災害報道も。熊本地震の時はキツかったですよね。3ヶ月で2日しか休みが無かったけど使命感で現場に行きました。
写真:山崎雄樹/撮影:ラリーズ編集部
それからアナウンスだけでなく制作も。スポーツの番組を作ったりもしたし、小型カメラで撮影を担当したこともあります。
ーー 色々と視点が多いといいアナウンスができるということなのでしょうか?
山﨑:少なからずあると思います。例えばナレーションとか朗読はどちらかというと演じる部分が強い。はっきりしゃべるというよりも強弱や高低、緩急を使って表現することが大切。
でも、スポーツ実況ははっきりくっきり話すことが多い。
ベテランアナウンサーでも「どうしてもスポーツアナウンサーは朗読やナレーションが難しいんだよね」というようなことをおっしゃっています。そのぐらい、同じしゃべるのでも違うんですよね。経験を積むとこういう違いが分かっていく。
それから災害現場では描写力が必要なシーンが多い。スポーツ実況で培った観察力や描写力が活きたりするんです。言葉が出て表現が出来る。これは何度もトライをして積み上げて来たものだと思います。
卓球の実況 2つの難しさ
ーー卓球の実況についてはやりやすいですか?
山﨑:「とても奥が深くて難しい」と改めて思っています。
ーー具体的にはどんなところが?
山﨑:2つあります。1つはボールが小さくて展開が早くて追うのが難しいという競技性の問題です。
卓球って戦型も、プレーの種類も、それから用具の種類もいっぱいあるうえに、そこにメンタルまで絡んで来るからプレーを見て瞬時に理解するのが難しいですよね。
しかもそもそも選手が対戦相手に悟られないようにしようとしているものが、果たして第三者に分かるのかという問題もある。これは皆さんも感じていることではないでしょうか?
ーーこの部分はどのようなことに注意されていますか?
山﨑:解説者の力を最大限に引き出すことです。やっぱり解説者の元一流選手にしか分からない世界がある。その力を借りるべき。
写真:Tリーグでの侯英超(KM東京)/撮影:ラリーズ編集部
例えば木下マイスター東京で大活躍したカットマンのホウエイチョウ選手は、カットが切れているのか切れていないのかが本当に分かりにくい。実況をしていても正直分からないことも多い。でも解説の渡辺理貴さんは「手首を使ったか使っていないか」という1点だけに注目すれば回転量が分かると。
なので、解説者の方にはそういった具体的なことをプロの目線からお話頂く。
実況の僕はそのプロ目線での難しい解説をわかりやすく噛み砕いたり、試合の流れを話す。こういう分担でバランスを取っていくことが大事だと思っています。
ーー2つ目の難しさは?
山﨑:もう1つは今まで実況を経験してきたサッカー、駅伝や他のスポーツ全般と違って、自分がやってきたスポーツでマニアックな部分まで分かる分、どこまで伝えるべきかを迷うということです。
サッカーだとJリーグを200試合近く、日本代表戦も実況させていただいたのですが、やはりルールブックを見てルールを覚えて、その競技の入門書を見てある程度の技術を覚える。そして現場に行って練習を見て取材をしてっていう、アプローチをするんですよね。
写真:Tリーグでの得点シーン。アナウンサーの実況が中継を見るファンの気持ちを盛り上げる/撮影:ラリーズ編集部
卓球については正しい用語や最新ルールは再確認しますけど、元々プレーがわかるので、今更、ルールブックや入門書をゼロから見る必要は無い。
ーーご自身がプレーヤーなので、試合展開は手に取るように分かりますよね?
山﨑:その分迷うのが、特にラリー中の展開を全部言葉にして言うか言わないか。
僕だったら多分全部言えるんですよ。どちらかの選手側に立って「森薗チキータ。すかさずフォアを攻めた、次もフォア、最後はバックストレートに打ち抜いた!」という風に。それが卓球でできるのは、多分日本中のアナウンサーでもそんなにいないと思うんですよね。
だけど全部言うと視聴者の邪魔になってしまう。
ーー確かに全ての打球について技術名を言われるのは試合が見にくくなるかもしれません。
山﨑:このことは以前に福澤朗さんにも相談したことがあって。そうしたら福澤さんは、「決定打を言うのは当たり前。その前のチャンスメイクのシーンを言えるといいよね」とアドバイス下さいました。「プロレスで決め技に持っていく前の技を実況する時と同じように」と。
実際これをやろうとするとものすごく集中力がいりますよ。
「張本、ここでロングサーブだ!そして、バックハンドで決めました!今まで短いサービスを多用していましたが、ここでロングサーブを使いましたね。」という具合に実況するのですが、プレーの変化に気づくためには1球1球真剣に見ていないといけませんから。
Tリーグはビクトリーマッチ含めると5試合あるので、試合後はクタクタです。
ーー対象が好きな卓球であるが故に、実況に熱が入りすぎることはありませんか?
山﨑:それはもうありますよ!今でも良く覚えているのが、1stシーズン女子ファイナルの早田ひな選手(日本生命レッドエルフ)と袁雪嬌選手(木下アビエル神奈川)の試合です。
写真:早田ひな(日本生命レッドエルフ)/撮影:ラリーズ編集部
この日2人は2度対戦したのですが、あまりの熱戦に僕もつい熱が入ってしまって、袁選手にチャンスボールが上がったシーンで、気づいたら僕も「チャンスボール!」と実況しながら立ち上がってスマッシュを一緒に打ちに行ってしまいました!
その場で踏み込んですごい足音がしたので、隣で解説していた若宮三紗子さんも驚いていました(笑)
写真:山﨑雄樹アナウンサー(右)と若宮三紗子さん/提供:山﨑雄樹
無観客のリモートマッチで問われる実況の真価
ーー今後、無観客でのリモートマッチや観客数を制限した中での試合も想定されます。その場合、実況を聞きながらテレビやオンラインで観戦するシーンが増えそうです。
山﨑:アナウンサーも新しい配信方法に対応していかなければいけないと思っています。
先日、自動車メーカーさんのオンライン配信のお仕事をさせて頂いたのですが、新しい体験でした。かなり反射神経が必要で、手元に2台タブレットがあって、1台でYouTubeのチャット欄のコメントを拾って、もう1台でディレクターからの指示を見ながら進行をしました。
この方式を応用して、卓球の試合でも応援メッセージとか「ナイスボール!」とかが即座に飛ばせたり、セット間に応援メッセージを紹介することだってできるでしょう。双方向でのやり取りが瞬時にできるでしょうから。そこにアナウンサーも対応していかないといけません。
来るべき試合の再開に向けて、選手の皆さんと同じようにアナウンサーとして今できる準備をしっかりしています。(了)
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