【連載コラム】実況・Tリーグ設立への道#1 | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

卓球ニュース 【連載コラム】実況・Tリーグ設立への道#1

2017.08.04

文:松下浩二(Tリーグ理事)

Tリーグで目指すもの

今、日本の卓球は大きな岐路に立たされています。

2016年のリオデジャネイロオリンピックでは男女ともにメダルを獲得、今年6月に行われたドイツの世界選手権でも日本勢の存在感が光りました。必然的に高まるのが2020年への期待です。現在、私は2018年開始の卓球リーグである「Tリーグ」設立に向けて一般社団法人Tリーグの理事として携わっています。

では、なぜ私がTリーグを作るのか。それは私が抱いている“危機感”がきっかけです。

皆さんは知っていますか?実は1950〜60年代、日本は世界有数の卓球強豪国でした。

荻村伊智朗さんや伊藤繁雄さんなど有名プレーヤーが世界選手権を制していました。ですが、1980年代から徐々に他国に押され始めます。転機になったのは、1988年に卓球がオリンピックの正式種目に採用されたこと。各国はオリンピックで良い成績を上げるために、選手、コーチがフルタイムで練習できる 環境を整えて行きました。その結果、日本は追いつかれ、追い抜かれて行きました。2000年代に入ると世界で10位以下になってしまいます。

なぜ日本の卓球が勝てなくなったか。それはプロリーグの不在が一因として挙げられます。

実は世界中に卓球のプロリーグは存在します。ドイツには世界最高峰との呼び声高い「ブンデスリーガ」というプロの卓球リーグがあります。スウェーデンにも、ロシアにも。極め付きは2000年に中国で始まった超級リーグです。年収「億超え」のスター選手が何人も登場し始めています。日本のエース水谷隼などはロシアでプレーしています。すでに日本からの選手の流出が始まっているのです。

日本にも1977年に企業内で卓球チームを持ついわゆる「実業団」による卓球リーグが開幕しています。ですが、彼らは企業内の「サラリーマン」です。日中にはやらなければならない仕事がある。そうなると必然的に他国と比べても練習時間が少なくなってしまいます。また実業団のチーム予算や存続も企業の業績に大きく左右されます。かつて58あったチームも今や28にまで減少してしまっています。

ですが「今のところ」は日本の卓球は強い。水谷隼選手や福原愛選手など有名選手たちは世界と伍して戦うことができています。ですがその強さは「属人的」なものです。幼い頃から卓球ができる環境が用意され、両親や専属コーチのバックアップ体制があって卓球をここまで続けることができています。

一方、野球ではリトルリーグの他にも中高の部活動では甲子園を目指す仕組みがあり、ゆくゆくはプロへの道がひらけています。幼いころに野球に打ち込める環境がなかったとしても「野球で飯を食っていく道」は存在します。

継続性のある卓球リーグを作り、選手を強化する。さらに引退後はチームのコーチや後進の育成などのキャリアパスも作る。卓球業界における「生態系」を作れば卓球業界全体が活性化され、競技全体のレベルもあがる。1993年に開幕したJリーグを思い浮かべればわかりやすいと思います。それまでの実業団レベルのサッカーをプロ化し、有名選手を招聘し、観客を入れてスター選手を生む。そのスター選手に憧れて子どもたちもサッカーを始める。いつしかW杯に出るまでに日本のサッカーは強くなった。同じことを卓球でも行う必要がある。

逆を言えば、それができなければ日本の卓球の強さは一部プレーヤーに依存することになる。つまり、1980年代以降の繰り返しになる可能性がある、ということです。

では具体的に「Tリーグ」では何をしようとしているか、次回はそこに焦点を当てて解説します。
(次回に続く。)