今年1年間の卓球ニュースを振り返る『2019年の卓球』。
前編では、全日本卓球選手権大会での伊藤美誠の2年連続3冠、水谷隼のシングルス2年ぶり10度目の優勝や、男子は木下マイスター東京、女子は日本生命レッドエルフが初代チャンピオンとなったTリーグ1stシーズン、水谷の球が見えにくい目の状態の告白、中国の強さが光った世界選手権大会など、上半期(1~6月)で特に話題となった出来事を振り返った。
後編では、東京五輪の卓球「シングルス枠」をかけて、いくつもの熱戦が繰り広げられた下半期(7〜12月)をお届けする。
>>『2019年の卓球』を専門メディアが振り返る。多くの快挙達成から、衝撃の告白も…(前編)
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“独特ルール”のT2ダイヤモンド開催。加藤美優が世界ランク1位下す大金星
写真:T2ダイヤモンドでの加藤美優(日本ペイントホールディングス)/撮影:ラリーズ編集部
下半期に入り、はじめに世界を驚かせたのは伊藤美誠(スターツ)でも、張本智和(木下グループ)でもなく、なんと加藤美優(日本ペイントホールディングス)だった。
7月18~21日にT2ダイヤモンド2019マレーシアが開催。この大会は特殊ルールが採用された新国際大会で、賞金は3大会で総額150万ドル(約1億6200万円)と高額。原則、過去1年の成績上位8大会で決まる世界ランキングに優勝で1000、出場だけでも400がボーナスポイントで加算される。
さらに7ゲーム制だがルールも特徴的で、デュースは採用されず、試合開始から24分を経過すると「プレーオフ」に突入。以降は1ゲーム5ポイント制となる。いずれにせよ、五輪代表争いの行方を左右する大会であることは間違いない。
この“独特な新大会”で脚光を浴びたのが、日本人最高の4位となった加藤だ。女子シングルス1回戦で伊藤との日本人対決を制すと、準々決勝では世界ランク1位の陳夢(チェンムン・中国)を4-2で下し、大金星を挙げた。
その後、準決勝、3位決定戦で敗れ3位入賞は逃したものの、加藤は「自分は中国の強い選手に勝つことはできてなかったが、一生懸命頑張れば勝てるということも分かった」と前向きに捉えており、自身にとって飛躍のきっかけを掴む大会となった。
水谷/伊藤ペア、五輪新種目の混合複で初V。張本も苦しみ乗り越え今季初優勝【ブルガリアOP】
写真:水谷隼(木下グループ・写真左)、伊藤美誠(スターツ・写真右)/撮影:ラリーズ編集部
8月13日~18日には、ITTFワールドツアー・ブルガリアオープンが開幕。混合ダブルスで出場した水谷隼/伊藤美誠ペアは、準決勝で張本智和/石川佳純との同士討ちを制すと、決勝で中国のカットマンペア、馬特(マテ)/武楊(ウーヤン)を3-1で下し、コンビを組んで初の優勝を果たした。
水谷は伊藤とは同じ静岡・磐田市出身で豊田町卓球スポーツ少年団の先輩後輩にあたる。子供の頃から知る仲だけに、コンビネーションは抜群だ。「お互いダブルスは得意。もっと練習して経験を積んでいけば、日本で一番強いダブルスになるんじゃないかなと感じています」。
写真:張本智和(木下グループ)/提供:ittfworld
また、男子シングルスに出場した張本智和は、決勝で趙子豪(ジャオズーハオ・中国)を4-2で破って今季ワールドツアー初優勝。
張本は2019年に入り、1月の全日本選手権では大島祐哉に3-4で振り切られて準決勝敗退、4月の世界選手権では世界ランク157位(当時)の・安宰賢(アンジェヒョン・韓国)に敗退するなど、思い通りの結果が残せなかった。
大会後には「僕にとって今年はあまりいい年ではなかったんですけれども、そこから悔しい思いをしながら練習をがんばってきて、やっとここで今年一つ目の結果が出た」と張本。この優勝を機に、日本のエースはさらなる飛躍を遂げていく。
中国選手が“消えた”…。東京五輪で脅威になる日本を警戒【Tリーグ2ndシーズン】
国際大会が注目されるなか、8月29日にはTリーグの2ndシーズンが開幕。1stシーズンとはチームの顔ぶれが変わり、それに伴い各チームの勢力図も変化した。
写真:丹羽孝希(木下マイスター東京)/撮影:ラリーズ編集部
特に卓球界を賑わせたのは、やはり丹羽孝希の木下マイスター東京(以下、KM東京)への移籍だろう。KM東京には水谷隼と張本智和も所属しているため、世界ランク日本人男子トップ3が所属するスター軍団となった。
加えて、T.T彩たまのキャプテンであった吉村真晴が琉球アスティーダに加入したのも大きなニュースだ。昨季は勝ち数が最も少なく、4位に沈んだ同チームにとって、エースの丹羽が抜けた穴を埋める補強となった。
写真:吉村真晴(琉球アスティーダ)/撮影:ラリーズ編集部
だが、来年に東京五輪を控え、中国側が日本選手を警戒し、“中国選手の派遣禁止”を決定。これによって各チームに大きな影響を与えた。
日本生命レッドエルフは、昨季ダブルスベストペア賞の常晨晨(チャンチェンチェン)、蒋慧(ジャンホイ)が参戦不可。木下アビエル神奈川は、昨季マッチ勝利数2位の袁雪嬌(エンシュエジャオ)がチームを抜けることに。それぞれ大きな戦力を失ったことは痛いが、この穴をどう埋めるかが優勝へのカギとなる。
東京五輪の“前哨戦”が開幕。男女ともに中国に屈するも、来年へ向け気持ち新た【卓球W杯団体戦】
11月6〜10日には、JA全農 2019ITTFチームワールドカップが開催され、男女団体戦の2種目で世界一決定戦が行われた。会場は、1年後に行われる東京五輪と同じ東京体育館。さらに試合形式も“本番”同様に実施され、各国は五輪前哨戦としての位置づけで臨む大会となった。
写真:勝利を決めた日本男子チーム/撮影:ラリーズ編集部
男子は準決勝で中国に完敗も銅メダルを獲得。準々決勝では強豪国・ドイツとの対戦だったが、ダブルスを落とした後、2番手・張本智和がオフチャロフに3-1で勝利。続く3番手の吉村真晴が欧州の皇帝・ボルをストレートで下す大金星を挙げた。最後は再び張本が登場し、フランチスカを3-1で破ってチームをメダル獲得に導いた。
写真:左から佐藤瞳、石川佳純、平野美宇、伊藤美誠/撮影:森田直樹/アフロスポーツ
一方の女子は、決勝で中国に0-3で敗れ、銀メダルに終わった。平野美宇/石川佳純の“かすみう”ペアは、中国の陳夢(チェンムン)/劉詩雯(リュウスーウェン)ペア相手に0-3で敗北すると、続く2番手・伊藤美誠は孫穎莎(スンイーシャ)と対決。先に2ゲームを連取して王手をかけるも、孫が意地を見せて一気に3ゲームを奪われ逆転負け。3番手の平野も完封負けを喫し、自国開催で日本卓球界に最高のドラマを生み出すことは叶わなかった。
卓球王国・中国の壁の高さを改めて感じた大会となったが、伊藤は「この中で自分の最大のパフォーマンスを出し、競った場面でも勝ち切る力をつけて、この場所に帰ってきたい」と覚悟を決めたような表情を浮かべながら、東京五輪への意気込みを語っていた。
来年は、男女ともに表彰台に立つのは日本であることを期待したい。
>>JA全農 ITTF 卓球ワールドカップ団体戦 2019 TOKYO大会報道記事はこちら
東京五輪「シングルス枠」争奪戦、決着。それぞれが飛躍誓い2020年へ
11月のオーストリアオープン終了後には、張本智和と伊藤美誠が、2020年1月時点での世界ランクにおいて、日本選手2番手以内に入ることが決定。東京五輪代表選考の基準を満たした。
それでも張本は「(五輪に)出るだけじゃなく結果を残すのが目標」と冷静にコメントし、伊藤は「(今後)どの大会でもやりきって五輪で優勝したい」と力強く金メダル獲得を宣言した。
そして残るシングルス「1枠」をかけ、12月12〜15日、選考レース最後の大会であるITTFワールドツアーグランドファイナルが開催された。
写真:水谷隼(木下グループ)/撮影:ラリーズ編集部
男子は水谷隼が今大会でベスト4入りを果たせば、世界ランクのポイントでリードする丹羽孝希を抜き、シングルスの代表権を獲得できる大一番だったが、ブラジルの至宝・カルデラノに1-4で敗れ、無念の初戦敗退。この結果により、丹羽が3大会連続の五輪代表が確定した。
リオ五輪では日本人選手初のシングルスで銅メダルを獲得した水谷だったが、あと一歩、東京五輪シングルス代表に手が届かなかった。
写真:石川佳純(全農)/撮影:ラリーズ編集部
女子は、最終決戦前のノースアメリカンオープン(12月4〜8日)決勝で、石川佳純が65ポイントリードしていた平野美宇を破り、135ポイントの差をつけて逆転。平野にとっては、石川を上回る成績を残さなければいけない状況で臨んだグランドファイナルだったが、両者ともに初戦で姿を消したため、石川が3大会連続の五輪代表を確実に。
これによって、日本卓球史上、最も熾烈を極めた選考レースに終止符が打たれた。
写真:長﨑美柚(写真右)・木原美悠(写真左)/撮影:ラリーズ編集部
その一方で、17歳の長﨑美柚と15歳の木原美悠の“ダブルみゆう”ペアが女子ダブルスで優勝し、話題となったことも記憶に新しい。2024年のパリ五輪では、彼女たちが卓球ニュースの中心にいるかもしれない。
2019年は、この五輪代表争いの影響で、つねに世界ランキングと獲得ポイントが注目された年でもあった。日本の卓球選手たちは、この1年間の戦いのロードを、それぞれが苦悩や不安を抱えながらも向き合い、乗り越えてきた。
そんな彼ら彼女らが、来年のオリンピックイヤーではどんな飛躍を見せてくれるのか。明日からまた1年間、追いかけていきたい。