【シリーズ/徹底分析】石川佳純vsキムソンイ〜絶体絶命のピンチで石川が選択した2つの戦略とは〜【世界卓球2018】 | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

卓球ニュース 【シリーズ/徹底分析】石川佳純vsキムソンイ〜絶体絶命のピンチで石川が選択した2つの戦略とは〜【世界卓球2018】

2018.05.09

文:ラリーズ編集部

<世界卓球選手権(団体)2018年4月29日〜5月6日・ハルムスタッド>

世界卓球の熱戦をラリーズ独自の視点で振り返る、シリーズ・徹底分析。
今回は女子団体準決勝、対南北合同コリア戦で大熱戦を演じた石川佳純とキムソンイの一戦の真髄に迫る。

サプライズで結成された南北合同コリア。想定外のハプニングをいかにして乗り越えたのか、そこには2つの戦術と、石川自身の”強さ”があったと感じる。

女子団体準決勝第2試合:石川 3-2 キム ソンイ

北朝鮮のエース、キムソンイ
写真:新華社/アフロ

<スコア>
11-4/6-11/11-8/11-13/16-14

準決勝まで1ゲームも取られていない石川佳純(4月度世界ランキング3位)だが、対戦相手のキムソンイ(北朝鮮・同49位)には苦い思いをさせられている。
2016年リオ五輪の個人戦一回戦。石川が2ゲームを先取した後、カットで粘るキムソンイに主導権を握られフルゲームの末に敗れた。
今年2月のチームワールドカップ準決勝では石川がストレート勝ちでリベンジしたものの、通算成績は1勝1敗。油断はできない。

戦術1:キムソンイのフォアハンドを使わせない。徹底したバック攻め

石川佳純はキムソンイのバック側を徹底して狙った
図:ラリーズ編集部

石川はロングサーブから速攻を仕掛けてキムソンイと長いラリーをさせない。キムソンイのバック側を徹底して突く戦術を貫いた。
キムソンイに威力のあるフォアの攻撃を極力させないことが目的だ。
石川の采配が的中し、完璧な形で1ゲーム目を取った。

石川は2ゲーム目もバックへの強打を徹底。キムソンイはバック側で為す術がないので、焦って回り込みをして攻めるもミス。
しかしキムソンイも徐々に石川の球に慣れてきたのか、食い下がる。
深いカットで石川に強打をさせず、カットのみならずブロックやカウンターを織り交ぜ、攻撃にリズムをつけていく。
石川がキムソンイの驚異の粘りと反撃に押され、2ゲーム目を落としてしまう。

戦術2:ドライブに長短をつけることで揺さぶりをかける

前後に揺さぶりをかけるために、ドライブに長短をつけた石川。これが効果的だった。
図:ラリーズ編集部

3ゲーム目、石川はバックへのロングサーブを徹底し、キムソンイが回り込んで強打して来た球に対しても冷静にブロック。
石川はドライブにも長短をつけ、短いドライブでキムソンイを前後に揺さぶりチャンスを作ると広角に強打し、ゲームを奪取。

4ゲーム目になり、キムソンイは短く、ゆっくりした石川のドライブを狙って攻撃してくるように。キムソンイの鋭い攻撃が火を噴く。
石川はカットに対してもなかなか回転の変化が読めなくなり、攻めの形が作れないため、スピードのないつなぎボールになってしまう。そのつなぎを狙われて石川は失点。

点数は6-10まで離された石川だったが、9-10まで追いついき、南北合同コリアがタイムアウト。

タイムアウト開け、サーブ権を持つ石川の選択肢は2つあった。
・バックにロングサーブ→キムソンイが回り込んで決めてくる危険性があるが、石川の攻めの形が作りやすい。
・フォアサイド前あたりにサーブ→安全策。キムソンイは強く打てないものの、攻めの形は作りにくい。

石川が選んだのはバックにロングサーブ。キムソンイは攻撃して来ず、攻めの形を作り、見事デュースに持ち込んだ。

しかし石川がバックにゆっくりとしたドライブを集めすぎて最後はキムソンイがカウンターで勝負は最終ゲームへ。

最後は石川の粘り勝ち、驚異的な集中力と選球眼

最終ゲームはお互いの持てる技を出し尽くした文字通りの”死闘”となったが、勝負を分けたのは、石川の異常な集中力と選球眼だろう。

この最終ゲームで、8-7(石川-キムソンイ)、10-10、13-12と、石川が決めきれる場面で幾度となくエッジボール(ラリー中に、台の角にボールが当たり、軌道がずれてしまうこと)があり、普通の選手であれば、流れを奪われるところだった。
だが、石川は、自分が強打できるボール、守らなければいけないボールを、あの緊張した場面で冷静に選択し、驚異的な集中力でその選択を実行していたのだ。

決勝トーナメントに入り、急遽結成された南北合同コリア。そして、ただでさえ異常な事態であったのにも関わらず、ネットとエッジの連続で、ボロボロになりながらも戦い抜いた石川の姿に、日本のサポーター達も目に熱いものを浮かべていただろう。
石川の真の強さは、どんなに窮地に立たされても、諦めずに、愚直に自分のやるべきことを実行できる、その心の強さなのではないだろうか。

世界卓球2018準決勝:第2試合の動画はこちらから*第2ゲームからの動画になっております

写真:千葉格/アフロ
*写真は石川佳純(全農)