連載 【卓球・英田理志#3】日本に足りない「卓球の個性」とは?
2018.06.20
取材・文:佐藤俊(スポーツライター)
プロ卓球選手として挑戦するためスウェーデンへと渡った英田理志。
日本とスウェーデンという2つの国で卓球に打ち込んだ末に何を感じたのか。朴訥な口調でこう評する。「海外から見た日本は、今や中国と並ぶ“卓球大国”に見えるんです」。一体どういうことだろうか。
福原愛が卓球界に誕生し、彼女の存在で卓球が注目されるようになってから彼女の後をつづけと石川佳純、そして伊藤美誠、平野美宇ら優れた選手が生まれてきた。そして、男子でも張本智和という若い実力者が生まれ、日本の卓球界をリードしている。世界に通じるトップ選手に続くべく、小中高生たちも一生懸命に練習に打ち込む。また、テレビやインターネットのニュースでも卓球の記事が配信される機会が増えた。
しかし、海を越えて海外から日本を見ると、改めて感じることや日本の違う一面が見えてくる。英田も感じるものがあったようだ。
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海外に身を置いて初めてわかる、日本の素晴らしさ
英田は若い世代の選手に個性的にプレーすることの楽しさ、重要性を自らを持って伝えたいと考えている 写真:伊藤圭
「僕は、海外で生活して改めて日本人でよかったと思いました。欧州の人って電車でも周囲の人を気にすることなく大きな声で話をして、最初はそれがすごいストレスでした。それにアウェイの試合でみんなバナナとか食べた後、そのまま皮を捨てずに帰ろうとするんです。僕がまとめてゴミ箱に入れようとすると、『そんなのいいんだよ、おまえ律儀だな』って言われて……。細かいことですけど、ごみを捨てるとか、周囲に気を使うとか、日本人はみんな習慣付いているじゃないですか。それってすごく大事なことだし、日本人のいいところだなって海外に来て、改めて思いました」
日常生活では、欧州の人たちの振る舞いを見て、日本人の良さを感じることができた。その一方で、スウェーデンから、見習うべき点もあった。
「日本人の卓球って、そつなくうまいんですけど、みんな教科書通りで個性がないんですよ。水谷さんや張本のレベルになると個性が強くなるんですけど、大学生とか高校生は、みんな同じような卓球をしている。スウェーデンの人たちは、みんな個性的で、ひとりひとり違う。それぞれ武器も違うんで、見てておもしろい。日本の選手ももっと個性的に自分の好きなスタイルでやった方がいいなって思いましたね」
切れ味鋭いカットと相手の虚を突く攻撃を織り交ぜて戦う英田は、まさに個性的な選手。試合に勝ち、強くなることで、“スタイル”はやがて“個性”として人々に認知されていく。自分のスタイルを確立し、若い世代の選手に個性的にプレーすることの楽しさや重要性を伝えていくことも重要だと英田は考えている。
孤軍奮闘し勝ち取った1年契約
チーム順位は6位に終わったが、個人成績は2位。いかに英田がチームを支えたのかが分かる。写真:伊藤圭
英田は、スウェーデンリーグを主戦場にしていたが、イギリスのプレミアリーグでのプレーも掛け持ちしていた。ブリティッシュ・プレミアリーグは8チームあり、試合数は7試合のみで週末に試合を行う。1回総当たり戦で順位を決め、上位4チーム、下位4チームのプレーオフを戦い、最終順位を決める。英田の所属したのは、ロンドン市内にあるアーバンTCCというチームだった。
「週末に試合があるんで、スウェーデンから移動して行っていました。ロンドンには叔父がいるので、自宅に宿泊させてもらったり、あとはチームコーチやチームメイトの家に泊まったりしていました。試合はアウェイも前泊なしで試合をして日帰りしてくる感じですね。だから3日間ぐらいしかない。僕は、今まで長距離の移動をして試合という経験をしたことがなかったので、最初はビビっていたんです。実際、最初の頃はスウェーデンからの移動と試合の移動が重なるとけっこうしんどかった。でも、慣れました。今は移動しても試合に集中してプレーできる自信がつきました」
英田が所属するアーバンTCCは、プレミアリーグで1位になった。英田は全16試合に出場し、13勝3敗。そのうち1敗は、ビクター・ブロウドに敗れた試合だ。
ビクターは、英田と同じスウェーデンリーグに所属するセーデルハムンというチームの選手であり、個人成績のトップを争う選手だった。最終的にスウェーデンリーグではビクターに2敗し、英田の通算成績は22勝6敗でチームは6位に終わった。一方、ビクターのセーデルハムンは2位になり、個人成績は23勝4敗でトップだった。
「いやー、悔しかったですね。1位を取りたかったですし、勝ちたかった。彼は試合数が1試合少ないんですよ。全28試合出ているのが僕とデビッド・マクデスの2人だけ。だから僕が1勝していれば、トップに立てたと思うんで、ほんと悔しいですね」
リーグ6位のチームにおいて個人成績2位は、まさに孤軍奮闘だった。その結果、英田にはチームから新しい契約条件が提示された。
「最初は半年だけだったんですけど、今回は1年間の契約をしてもらいました。9月からシーズンが始まるんですけど、この4月から来年3月まで1年契約です。プロなので、契約してもらえるのは本当にありがたい。とりあえず食いっぱぐれることがなくなったので安心しました」
半年間のスウェーデンでのプレーは、結果的に1年契約という大きなギフトを英田にもたらした。同時に競技力の向上、そしてスウェーデンの半年間で自分は強くなれたという実感を得られたのだろうか。
英田を変えた言葉がある。「卓球はたかがスポーツ」。レジェンド・ワルドナーが発した一言だ。
第4回:衝撃を受けたレジェンドの言葉「卓球は、たかがスポーツ」 に続く
英田理志のインタビューはこちらから
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