「沖縄を南の玄関に」航空業界の異端児が語る卓球スポンサー戦略 <プロフェッショナルと卓球 Peach 井上慎一#1> | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:井上慎一(Peach Aviation株式会社 代表取締役CEO)/撮影:ラリーズ編集部

連載 「沖縄を南の玄関に」航空業界の異端児が語る卓球スポンサー戦略 <プロフェッショナルと卓球 Peach 井上慎一#1>

2019.03.19

インタビュー・文:川嶋弘文(ラリーズ編集長)

ANAとJALという2つの巨人がマーケットを独占する航空業界において、独自のブランド戦略とアジアにおける路線拡大によりゲームチェンジャーになりつつあるPeach。

国内初のLCC(ローコストキャリア)を初代社長として率いるのが、無類の卓球好き経営者として知られる井上慎一氏(Peach Aviation株式会社代表取締役CEO)だ。

井上氏はPeachの急成長の秘訣についてこう断言した。

すべては卓球のおかげです

Peachは卓球を経営にどう活かしているのか?

Tリーグ開幕の3年も前から琉球アスティーダにスポンサーした狙いとは?

卓球部出身経営者だからこそ提言できる「Tリーグ盛り上げ策」なども含め3回に渡ってお話を伺った。

「沖縄を日本の南の玄関口に」 Peachの重要拠点に位置する琉球アスティーダ

——Peachは琉球アスティーダのスポンサーというイメージが卓球ファンの間で広く浸透しつつあります。Tリーグ開幕より3年も前に沖縄の卓球チームのスポンサーとなられたきっかけを教えてください。
井上慎一CEO(以下、井上):
沖縄と松下さん(松下浩二 Tリーグチェアマン)。この2つのキーワードがアスティーダを応援するきっかけでした。

Peachにとって沖縄は、関西国際空港に次ぐベースとして重要な拠点です。沖縄をただの「南の離島」と認識するのではなく「日本の南の玄関口」にするぞ、という気概でビジネス展開をしています。

その沖縄には「スポーツで沖縄を盛り上げよう」というスポーツアイランド構想がありました。「沖縄から世界へ」という考え方がPeachとも親和性がありますので、ご支援できるのではないかと思いました。以前から親交のあった松下さんからこのお話があり、2015年に当時の一般社団法人琉球アスティーダへのスポンサー支援を決めました。

——松下チェアマンとの出会いのきっかけは?
井上:
松下さんのファンだったんです。私が全日空に勤めていた時代に、松下さんは日本人初のプロになられ、ドイツリーグで活躍されてしていました。引退試合の全日本選手権で上田仁選手(現・岡山リベッツ)に敗れた瞬間も代々木の体育館で観戦してました。その試合後にサインを頂いたのが初めての出会いです。その時のサインは今でも大切に家に飾ってあります。

——Tリーグ発足の前から長きに亘って琉球アスティーダを支援されているおかげで、チーム強化とファン醸成の両方が叶っているように見えます。
井上:
アスティーダの応援は、長い目で見ています。2年目に福原愛ちゃんの旦那さんの江宏傑選手が加入して強くなり、日本(実業団)リーグの1部に昇格しました。1部に上がるとホームゲームがあって、あれは秋の平日で雨の夜だったので、「これはお客さんガラガラかな」と思っていたら、1500人も来てくれた。

——今のTリーグの週末のゲーム並みですね。
井上:
当時の実業団のホームゲームは、まだどこもお客さんが少なかったという中で、琉球のホームマッチは圧倒的な動員数だったわけですね。松下さんとともに「興行を前面に押し出せば、卓球でも観客は集められる」と手応えを感じた瞬間でした。

(編集部注:日本実業団リーグ平成29年度後期ホームマッチの観客動員数は、琉球アスティーダの1500人が1位。アスティーダ以外では男子は東京アートの380人、女子は日立化成の500人が最高だったため、アスティーダの動員数が記録的数字だったことが分かる。)

——実業団での観客動員を見て、Tリーグの琉球アスティーダも自然と応援しようとなったのでしょうか?
井上:
実業団は沖縄のためという気持ちが強かったですが、Tリーグについては松下さんの想い、理念に心を動かされたことが大きいです。松下さんはドイツやフランス、中国スーパーリーグで、世界のプロ卓球選手の生活を見てきていたので、日本でも同じ仕組みを入れようと奮闘されていました。

——世界のプロ選手と同じ仕組みとは?
井上:
当時松下さんが話していたことで強烈に印象に残っているのは、日本の卓球選手は「得意が殺されている」という言葉です。

どれだけ一生懸命卓球を頑張っても日本のオリンピック代表は3人しかなれない。でも4人目も5人目の選手も相当強いですよね。それなのに現役時代、引退後も普通に社会人をやっていることが多かった。

松下さんは海外で見てきたように「卓球アスリートが卓球に専念できる仕組み」を入れたい、だからTリーグを作りたいと思っていた。そこに共感しました。

Tリーグ開幕後、気になる沖縄での反応は?

——Tリーグ開幕後の反響はいかがですか?
井上:
メディア露出はまだまだこれからで1年目はこんなものかなと思っていますが、卓球経験者の観戦率の高さが素晴らしいですよね。

私の母校(神奈川県立湘南高校)の卓球部OB会で話を聞くと、卓球をやっていた人はかなり多くの人がTリーグを観に行っています。しかも高いチケットの席も買っています。

やっぱり日本や世界のトップのプレーを生で見てみたい。今は日本も強いですし、卓球をやったことのある人ならそう思いますよね。

——地元・沖縄ではどのような反応でしょうか?
井上:
琉球アスティーダは3連敗スタート。開幕戦(岡山リベッツ戦)も2-0の逆転負けだったので心配もしましたが、その後、勝ち始めた。

初勝利の翌日に沖縄県庁を訪問したのですが、アスティーダの話題で盛り上がっていたのを感じました。今年はオリパラ前年ということでもっと卓球を楽しむ人が増えるのではないかと思っています。

「オリパラ前年」――その言葉を皮切りに、常に時流を捉えた経営を行う同氏から、Tリーグを盛り上げる数々のアイデアが語られる。卓球を深く理解し愛する敏腕経営者が、卓球界に持ち込む経営戦略とは。(第二回に続く)

井上慎一氏プロフィール

Peach Aviation株式会社 代表取締役CEO
神奈川県藤沢市出身。神奈川県立湘南高校卓球部OB。早稲田大学法学部卒。三菱重工業株式会社勤務を経て、全日本空輸株式会社に入社。北京支店総務ディレクター、アジア戦略室長、LCC共同事業準備室長を経て2011年5月から現職。無類の卓球好き経営者として知られ、日本初のLCCを成功に導く経営戦略も卓球をヒントに組み立てる。Tリーグ・日本リーグの琉球アスティーダのメインスポンサーとして、「沖縄から世界へ」を支援することでも知られる。