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第10回
2019.03.21

「2025年アジア制覇へ」LCCの雄・Peachの経営戦略は卓球から生まれた<プロフェッショナルと卓球 Peach 井上慎一#3>

写真:Peach社内卓球大会/提供:Peach

日本初のLCC・Peachを初代社長として導く井上慎一氏に聞くインタビュー第3弾。最終回となる今回は、井上氏の経営者としてのルーツに迫る。

航空業界の異端児として急成長を続けるPeachの経営戦略は、「卓球」がベースになっていた――そんな話が飛び出したら信じられるだろうか。「卓球」と「経営」。そもそも両者に共通点はあるのだろうか。

卓球は、そのラリーの応酬スピードと1球ごとの戦略展開の必要性から、「100メートル走をしながらチェスをする」ようなスポーツとも称される。井上氏のマーケット動向を即座に判断し、独自の路線に舵を切る経営手腕は、卓球で培われたものだった。

バニラエアとの統合で首都圏マーケットも手中に収めたPeachが、2025年に狙う「アジア王者」への道のりとは。

——今回はビジネスのお話をお聞かせください。日本のLCCの歴史を紐解くと、海外のLCCブームから遅れること約10年。2012年がLCC元年と言われていますね。
井上:
Peachは関西国際空港を本拠地とし、2012年3月に日本の国内線に参入しました。

——同じ年、成田空港からスタートしたLCCは2社、ジェットスターとエアアジアがありました。業界内では当時、成田発の2社の方が海外の成功モデルを直輸入し、マーケットの大きい首都圏をターゲットに出来るから有利。逆に関西拠点のPeachは不利と言われていたと聞きますが、実際には真逆の結果で、Peachが勝ち組LCCになりました。どうして下馬評が不利な戦いで勝ち残ることが出来たのでしょうか。
井上:

全ては卓球のおかげですね。

卓球で強い相手と戦うときに、相手の戦型を分析し、プレーを見て弱点を探し、勝つためにどこをつくかを考える。同じことをビジネスでもやっただけです。

——非常に興味深いです。戦略スポーツである卓球をビジネスにも活かされているわけですね。
井上:はい。もう少し具体的にお話ししましょう。当時、データやファクトを徹底して調べました。

東京と関西で事業をスタートするメリット、デメリットは何か。東京は巨大マーケットである首都圏をターゲットにできることがメリットでしたが、羽田空港は(離発着の)枠がいっぱいで飛べない。成田もいい時間が他の航空会社に取られていて飛べないに等しい。
一方で関空は当時枠が空いていて好きな時間に飛ばせた。また、ターゲットとなるアジアのインバウンド需要を見込んだ時に、アジアからは大阪の方が東京よりも1時間近いことがお客様にとってメリットだと分かった。

首都圏よりもマーケットが小さい点はデメリットだという心配もありましたが、よく調べて見ると関西圏は2府4県で2000万人、1人あたりGDPは東京にはかなわないが当時の韓国と同じくらいあった。また外国人が行きたい日本の観光地ベスト10の多くが関西からランクインしていた。

また、もう一つのデメリットだった高い着陸料の問題ですが、運良く関空の第2ターミナル建設の話があり、そちらを使えば賃料が安くなるメリットが生まれる、つまりデメリットを潰す条件が全て揃ったため、事業を関西国際空港でスタートする意思決定をしたわけです。

——このような冷静な分析に基づいて経営戦略を立て実行されてきて、今のPeachがあるわけですね。
井上:
普通に考えたら(マーケットが大きい)首都圏でやるのがいいに決まっている。でもやみくもに信じないで、自分が勝つためにどうやったらいいかというシナリオを、卓球の試合みたいに考えた。大げさではなく、これは正直な話です。

――卓球に例えるとPeachはいわゆる王道の正統派なプレースタイルではなく、個性的なプレースタイルを模索したということでしょうか?
井上:
はい。自分たちが弱いと思っていたので、強い相手とどう戦うかを考え抜いた。正面からぶつかったら勝てっこない。ライバルの影響力の及ばないところでおもいっきり戦うことを選びました。

「勝ちグセつけろ」経営ポリシーの裏にあった原体験

――Peachを卓球選手に例えるとどなたになるのでしょうか?
井上:
結構粘り強く、こずるいと思いますよ(笑)。松下さん(Tリーグチェアマン)の現役時代のようなカットマンタイプかもしれない。相手に打たせて隙をついて前に飛び込んでスマッシュする。そのかわりミスしないし諦めない。

――対戦したくない相手ですね(笑)。オフィスも拝見させていただきましたが、航空会社というよりベンチャー企業のオフィスに来ているようです。無駄なものが一切なく、コストマネジメントの意識が徹底されています。そしてワンフロアでコミュニケーションが活発に見えます。
井上:
企業として「勝ちグセ」をつけることにこだわっています。時間とコスト意識を大事にするオフィス作りも、その一貫ですね。実はこの「勝ちグセ」には私の卓球での原体験が大きく関わっています。

——ぜひ、詳しくお聞かせください。
井上:
私が大学生の時、母校である湘南高校卓球部の女子監督をやらせていただいたことがあるんです。当時、部員は沢山いましたが強い子も運動神経の良い子もいなかった。県大会では2回戦負けでした。ところがその弱小チームが強豪校の多い神奈川県で県大会ベスト4に入ったんです。

この話は今だに語り草になっていて、OBで集まると毎回この時の話になります。

——県立の進学校が県大会で上位に入るのは簡単なことではありません。どのようにしてチームを導かれたのでしょうか。
井上:
監督になって真っ先に相談に行ったのが、早稲田大学卓球部監督の森(武)さんでした。当時、森監督が担当する体育の卓球の授業を受けていたので、授業中に毎回、母校をどうやったら強くできるか相談していました。

まず森さんに言われたのが「勝ちグセつけろ」ということ。「人間は勝ちグセがつかないと勝てない。まず絶対に勝てる相手と練習試合を組んで3回試合をしろ。3回勝てば楽しくなるから」とアドバイスを頂き実践してみると、確かに選手たちも勝って自信がついてくるんですね。

それから「サーブ、レシーブ、スマッシュを絶対入れろ。この3つ以外は練習しなくてよろしい。相手に打たれたら仕方ない。弱いところは目をつぶり、強いところを伸ばせ」との助言もありがたかった。

どの選手にも強いところ、得意なところがあるので、そこを更に強くする練習をしていった。そうすると出来ることが増えていき、自然と練習内容が高度化していったんですね。

——得意なことを伸ばし続けることで、最短ルートで強くなれる。非常に興味深いです。ベスト4に入った試合はどのような展開だったのでしょうか。
井上:
今でも鮮明に覚えていますよ。団体戦で2対2のラストまで回り、うち(湘南高校)の選手はカットマン。フルセットにもつれる接戦だったのですが、カットの変化に徐々に慣れられて相手がフォアでバシバシ打ってきた。

そこで「思い切ってカットをフォアに回せ。その代わり浅いのはダメだ。とにかく深く。それから横回転を入れたりして変化をつけろ、嫌らしくいけ」とアドバイスした。

「フォアで打たれているのにフォアに送るのは怖い」と選手は思っていましたが、それまでの4セットはボールが相手のバック側に集まっていたので流れを変えるにはこれしかなかった。そしたら勝って帰ってきた。

高校生は大きく伸びる時期と言われますが、勝ちグセつけて得意なことを伸ばすと本当に人は変われると実感しました。この体験で私自身も変わりました。

2025年アジア制覇へ 空飛ぶ電車がゲームチェンジャーに

——このような卓球での素晴らしい原体験をお持ちの井上さんは、今後経営者として何を目指されているのでしょうか。
井上:
今年Peachは、「バニラエアと一緒になって日本3位の航空会社になりますね」とよく言われるのですが、僕はそれが嫌いなんですよ。目指すのはアジアで一番。3位を目指していてはだめですよね。2025年の大阪万博の時にはアジアで優勝。これをやってやろうと思ってます。

——非常に具体的で明確な目標ですね。そこに至る計画についてはどのようにお考えでしょうか。
井上:
2019年度の柱であるバニラエアとの統合で、日本で一番大きい首都圏マーケットがやっと手に入ることになります。これで首都圏を含めた日本の北から南までをPeachの路線が網羅出来る。Peachはこれまでの航空業界にパラダイムシフトを起こすゲームチェンジャーになります。

——利用者にとっては他の航空会社と何が違うのでしょうか。
井上:
一般的な大手航空会社とは違う新しいコンセプトの航空サービスを提供するのがPeachです。「空飛ぶ電車」がコンセプトなので、電車に乗る感覚で使える航空サービスを目指しています。例えば卓球が好きな北海道の人が、週末に気軽に九州や沖縄の試合を観に行けるようにしたい。

——いいですね。全国の卓球ファンは移動がネックになって生での観戦が出来ていないこともありますので、本当に有り難いお話です。さらに中長期で展開予定のプランなどもお聞かせください。
井上:
いろいろあるのですが、一言でいうと路線網の整備ですね。輸送業は常にネットワークを広げ続ける必要があるので、今後もどんどん路線開拓を進めていきます。また2020年からは短距離だけでなく中距離路線の就航も計画しています。関空からこれまで行けなかったシンガポールやバンコクにも電車に乗って行く感覚で気軽に使えるようになりますよ。

日本の端から端、さらにアジア各国と日本を、グッと近づけてくれる「空飛ぶ電車」Peach。彼らのおかげで、日本中の卓球ファンが試合観戦に飛び回り、世界中の卓球ファンが日本を訪れる日もきっと近い。支援を惜しまぬ熱きサポーター企業のおかげで、今後ますます進化していく日本の卓球から目が離せない。(了)

井上慎一氏プロフィール

Peach Aviation株式会社 代表取締役CEO
神奈川県藤沢市出身。神奈川県立湘南高校卓球部OB。早稲田大学法学部卒。三菱重工業株式会社勤務を経て、全日本空輸株式会社に入社。北京支店総務ディレクター、アジア戦略室長、LCC共同事業準備室長を経て2011年5月から現職。無類の卓球好き経営者として知られ、日本初のLCCを成功に導く経営戦略も卓球をヒントに組み立てる。Tリーグ・日本リーグの琉球アスティーダのメインスポンサーとして、「沖縄から世界へ」を支援することでも知られる。

インタビュー・文:川嶋弘文(ラリーズ編集長)

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