取材・文:川嶋弘文(ラリーズ編集部)
14日、卓球女子で東京五輪代表に内定している伊藤美誠(スターツ)がカタール遠征から帰国した。
伊藤はこの遠征中、新国際大会WTTのコンテンダーとスターコンテンダーの2大会のシングルスで優勝し、世界ランキングは自己最高位の2位に返り咲いた。
帰国後にPCR検査を終えてすぐ、報道陣とのオンライン会見に臨んだ伊藤は、世界一を見据えた“2つの対策”について明かした。
サーブは「フォルト対策」から
伊藤美誠。得意の巻き込みサーブはフォルトを取られやすい種類のサーブだ/撮影:ラリーズ編集部
WTTドーハの2大会での伊藤は、得意のサーブ、レシーブから相手を崩す速攻プレーが多かった。対戦相手がラリーに持ち込む前に伊藤が強打で打ち抜いたのだ。
この点について伊藤は「1年間、誰にも負けないラリー力をつけようと思ってやってきたし、もちろんラリーの力も上がったと自信はつきました。でも試合になればサーブ、レシーブが大事。改めてサーブ、3球目やサーブ・レシーブで崩すところは自分の良いところだし、誰にも真似が出来ない技術があると気づいた。やっぱりここが自分らしいなぁと実感した。もっと(レベルを)上げて行ければいいと思う」と自身の強みを再認識したようだ。
伊藤の独特な構えから繰り出す多彩なサーブは、時にはサービスエースを連発するほどの威力で、海外勢を翻弄する。
回転やコース、スピードなど卓球のサーブを構成する要素は多岐にわたるが、伊藤が重視しているのは意外な点だった。
それは「フォルトを取られないこと」。すなわちルールの遵守だ。
卓球のサーブは、「トスを垂直に16センチ以上げること」「身体や腕を使って相手からボールを隠さないこと」など、いくつかのルールがあり、フォルト(違反)になると相手のポイントになってしまう。
特に伊藤が多用する巻き込みサーブは、「トスが自分の身体の方に斜めに上がりやすい」「サーブが身体で隠れやすい」といった特徴がありフォルトが取られやすい。
伊藤はかなりの練習量を誇るという自身のサーブについて、その注意点をこう語る。
「私はサーブの種類が多くて、特に巻き込みサーブが多い分、海外の方よりも前までフォルトが取られやすいタイプだった。
フォルトを取られないようなサーブ。審判にというか『相手にしっかり見せるけど、いいサーブを出せる』ということを入念に準備しています。ただサーブ練習をするだけではなく、本当に試合で使えるようなサーブを磨いてきました。シングルスに関しては特に、今回すごくよかった」。
特に海外勢には、ルールのグレーゾーンを突いてくる選手も多く見受けられるが、世界一を目指す伊藤は違う。重要な試合の接戦の場面で、フォルトで相手に得点が行かぬよう、日頃から鍛錬し続けていることが分かった。
五輪前に大会不参加の中国。ビデオ研究はどうやる?
写真:伊藤美誠(スターツ)/撮影:ラリーズ編集部
今回のWTTドーハ2大会にはコロナ禍を理由に中国選手が出場を見送った。東京五輪前の5月、6月の大会スケジュールが不透明な中、伊藤はこのまま中国選手と対戦しないまま、東京五輪本番を迎える可能性がある。
この点について伊藤は「もちろん試合はしたいというのはあります。けど、試合をしなくてもオリンピック本番でも大丈夫。私は結構自信はあります。相手からしたら「ここ変わったの?」という思ってもいなかったような技術、戦術を出せると思うので「前とちょっと違う」「考え方もちょっと変わってるな」と思われる自分がいると思う。相手からしたら、急に本番の方が嫌なんじゃないかと思います(笑)。私は結構どっちでも大丈夫というかどっちでもいいように準備をしています」と力強くコメントした。
相手の直近のプレーが見られない中でどのようにビデオ研究をどう行うかについては「3年、4年前(の試合映像)だとだいぶ違ってくるんですけど、1-2年(前の映像)だったら私は見ます。『その戦術、その技術もしてくるよ』ぐらいで思って(ビデオ研究を)やっている。全てが同じというよりは、『これもある』という頭で試合に臨んでいるので、『これもあるんじゃないか』という予測ができる」という。
あくまでデータとして相手が持つ選択肢をインプットしておき、あとは試合本番で柔軟に対応するという考えだ。
「いざどんなボールが来てもいいという対応力は今でも身に付けているので、もっとやっていけたらいいし、もっとやっていかなきゃいけないところ。どの選手がパッと出てきてもいつでも行けるように準備していけたらと思います」。
サーブのフォルト対策とビデオ研究の仕方。この2点に関する本人コメントから、世界一を本気で狙う伊藤美誠の目線の高さが伺えた。
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