取材・文:ラリーズ編集部
スウェーデン南部、デンマークとの国境に位置するヘルシンボリ。
北欧の古都は、歴史的な建造物が立ち並び美しい街並みで知られているが、11月の寒さは格別だ。
東京から約15時間かけてたどり着くこの地は、気温も0度近くまで下がり、寒さに慣れていない日本の選手たちにとっては、過酷な環境である。
写真:ヘルシンボリの美しい街並み/撮影:ラリーズ編集部
11月22日から29日までの8日間開催、世界各国の有力ジュニア選手が集まる「ITTF世界ユース選手権ヘルシンボリ大会」が開幕した。
この過酷な寒さと長旅を乗り越え日本代表として戦う日本のジュニア選手たちを、実は「日本食」が支えている。
今回、この北欧の極寒の地で、どのようにして日本食が選手に届けられるのか、その舞台裏に迫った。
写真:1日2食の様々なお弁当が選手に届けられる/撮影:ラリーズ編集部
5年ぶりの海外食支援
オフシーズンの無い競技卓球を戦う選手たちは、試合数の多さには慣れていても、海外遠征でのコンディション調整に苦労することが多い。なかでも、体調面、ときに精神面にまで影響する重要な要素が、現地での食事である。
全農は2019年度から、その海外ネットワークを活用し、現地での日本代表選手への食事サポートを本格的に開始した。
コロナ禍で現地での海外食支援も中断していたが、今回約5年ぶりにようやく再開される運びとなったことは、国際大会を戦う日本代表選手にとって、大きな後押しだろう。
写真:ヘルシンボリで開催された食材贈呈式/撮影:ラリーズ編集部
管理栄養士「10代の選手が食べやすい和食を」
今回、管理栄養士と全農スタッフは、会場近くのアパートを借り、8日間日替わりの献立を作って、1日2回午前と午後に提供するという徹底ぶりだ。
試合期間中は毎日2回、大会会場に作りたての日本食のお弁当を届けに行く。
写真:食材でいっぱいのアパートの冷蔵庫/撮影:ラリーズ編集部
写真:現地での栄養士の調理風景/撮影:ラリーズ編集部
その献立は、どんなものなのだろうか。現地に帯同して調理する、料理研究家で管理栄養士のエダジュンさんに聞いた。
――献立を考えるうえでのポイントを教えてください。
エダ:はい、まずはスポーツ選手なのでタンパク質がしっかり取れること、癖のないものや、馴染みのある食材を使うことですね。あと、食べやすいように細かく切るようにしています。
海外の食材は、バターやオイルや生クリームなどでの調理が主流になって胃が疲れる可能性があるので、出汁の旨味や、優しくできる梅の酸味など、馴染みのある食材をレパートリーとして入れて、バラエティを豊かにすることを意識しました。
写真:ある日の1食の献立/撮影:ラリーズ編集部
あとは、外が寒いので温野菜のサラダを入れるようにしたり、日本のお米に合うよう、炊飯にはできるだけ日本の水に近い「硬度」のミネラルウォーターを購入し使う、などでしょうか。
写真:ある日の1食分のお弁当/撮影:ラリーズ編集部
――栄養バランスは、どんな風に考えるのでしょうか。
エダ:はい、炭水化物、タンパク質、フルーツでビタミンを取れるように。あと、野菜の食物繊維も摂取できるよう、1食でなるべくすべての栄養がいきわたるようなメニューに、ということを考えました。
その中でも、“肉じゃが風”とか“つくねの照り焼き”とか、基本的な和食の中で10代の選手が食べやすいものを選んだつもりでいます。
写真:ある日の1食の献立/撮影:ラリーズ編集部
写真:管理栄養士のエダジュンさん/撮影:ラリーズ編集部
輸出と現地調達を組み合わせる
現地での食材調達に苦労はないのだろうか。JA全農 広報調査部・広報SR課の岡八寿博さんにも話を聞いた。
――北欧で日本食の食材は手に入るのでしょうか。
岡:スウェーデンでの食支援は今回が初めてなので、どのように輸出できるか、から検討を始めました。
7月から約5ヶ月間かけて、調達経路はもちろん、おにぎり弁当のメニュー開発、試食会など関係者の間で何度も打ち合わせを重ねたことで、今回、お米、和牛を中心に指定した量を全て調達できています。
写真:岡八寿博氏(JA全農)/撮影:ラリーズ編集部
写真:現地入り後も念入りに調理テストを行う/撮影:ラリーズ編集部
――具体的には、何を日本から持ってきたのでしょう。
岡:日本産米と和牛とパックご飯、果実飲料は日本から輸出し、こちらで輸入という手続きを取って調達しました。お野菜は輸出がなかなかできないので、現地でできるだけ普段食べ慣れた味に近いものを現地調達しています。
写真:和牛は日本から輸出した/撮影:ラリーズ編集部
――現地に着いてからの驚きは何かありましたか。
岡:来る前は、氷に閉ざされた寒い場所という印象で、現地の食文化も芋や麦が中心のはずだから、新鮮なお野菜の調達は厳しいかなと思っていましたが、スーパーに行ってみると、意外に色とりどりのお野菜が並んでいました。
ヨーロッパ各国から調達・輸入してる食材が豊富だったので、思った以上に日本の味、日本食を再現することができたと感じています。
写真:野菜を使った色鮮やかなおかず/撮影:ラリーズ編集部
選手からも喜びの声「安心できる」
21日、現地ヘルシンボリで行われた食材贈呈式でも、試食した代表選手たちからも“美味しい”と笑顔がこぼれた。
坂井雄飛(愛工大名電高校)は「とても美味しいです。食べ慣れている日本食を海外遠征でも食べられるのは安心できます」とサポートに感謝し、面手凛(山陽学園高校)は「食事は試合でのパフォーマンスにもつながるので、今回日本食を食べて、良い結果が出せたらいいなと思います」と、活躍を誓った。
いよいよ幕が開いた今年の世界ユース、多くのサポートに支えられて、いつも以上にエネルギッシュな日本選手の活躍に期待したい。
写真:(左から)岩井田駿斗(野田学園中学校)、坂井雄飛(愛工大名電高校)、面手凛(山陽学園高校)/撮影:ラリーズ編集部
写真:おにぎりのバリエーション豊か/撮影:ラリーズ編集部