白熱した試合をラリーズ独自の視点で振り返る、【シリーズ・徹底分析】。
ドイツオープン混合ダブルス1回戦に水谷隼(木下グループ)/伊藤美誠(スターツ)ペアが出場し、林高遠/孫穎莎(中国)ペアを3-1で下した。水谷/伊藤は東京五輪の種目でもある混合ダブルスで、昨年のITTFワールドツアーグランドファイナルで準優勝を果たすなど、実績十分なペアだ。
対する中国も、今大会の男子シングルスで水谷とフルゲームにもつれる熱戦を制した林と、昨年のワールドカップ団体戦女子決勝で、伊藤に0-2から大逆転勝利を収めるなど数々の名勝負を演じた孫という、実力の近いペア同士の対戦と言える。
その中で水谷/伊藤がどのようにして勝利を収めたか、分析していこう。
ドイツオープン1回戦:水谷隼/伊藤美誠 vs 林高遠/孫穎莎
詳細スコア
〇水谷隼/伊藤美誠 3-1 林高遠/孫穎莎(中国)
11-8/8-11/11-8/11-9
1.互いにベストな位置でプレーできる水谷・伊藤のペアリング
図:水谷・伊藤のプレー領域/作成:ラリーズ編集部
左利きの水谷が中~後陣でのプレーをすることにより、前陣での速攻を得意とする伊藤とのプレー領域が重ならずに、よりスムーズな連携が取れていた。
必ずペアが交互に打球しなければいけないダブルスでは、打球したいポイントにパートナーがいたり、打球した後も自分が邪魔になったりすることで、パートナーがスムーズに戻れない場合がある。逆にいえば相手ペアを「重ねる」ようにプレーするのがダブルスのセオリーなのだが、前述した水谷のポジショニングによって、互いにベストな位置でプレーする事が出来ていた。
加えて、元々水谷は中~後陣のプレーが、伊藤は前陣でのプレーが得意なため、その点もこのペアの強みと言えるだろう。
2.相手ペアを重ねて、大きく動かすコース取りの巧さ
張本智和(木下グループ)/早田ひな(日本生命)のような例外はあるが、一般的に混合ダブルスでは水谷/伊藤のように男子が後ろ、女子が前というポジショニングが多い。
ただ今回の中国ペアは、前陣での両ハンド攻撃とカウンターを得意とする林と、女子選手ながら前~中陣での威力ある攻撃が得意な孫のペアであり、水谷/伊藤はそのスキをついた。
図:水谷・伊藤のコース取り/作成:ラリーズ編集部
水谷・伊藤は、相手ペアを重ね、大きく動かすことに成功した。例えば右利きの孫のフォアを厳しく攻めると、左利きの林は大きくバック側に動くか、後ろに下がらざるを得ない。バックに動くとフォア側が大きく空いてしまい、後ろに下がると持ち味の前陣プレーが活かせないため、水谷/伊藤はこの戦術を起点にプレーし、得点に繋げていた。
3.男子選手も翻弄する、伊藤のテクニック
写真:サーブを放つ伊藤(写真右)と水谷/提供:ittfworld
混合ダブルスでよく見られるプレーとして、「男子選手のボールを女子選手が止めきれない」「ラリー中に、女子選手のボールが男子選手に狙われて強打される」といったことがあるが、伊藤は全く逆のプレーを見せた。
多彩なサーブで林に思い切ったチキータをさせず、逆に3球目を待つ水谷のチャンスメイクに成功した。水谷のサーブに対しては攻撃的なチキータで主導権を握った林も、第1、3ゲームでは伊藤のサーブに対して攻撃的なレシーブが出来なかった。第3ゲーム5-5からは伊藤が得意の巻き込みサーブで2本連続林高遠のレシーブミスを誘った場面も印象的だ。結果として第1,3ゲームは日本ペアが奪っている。
また、伊藤はラリーになっても自分の得意な前陣を譲らずに、相手を広角に揺さぶって水谷の攻撃に繋げた。伊藤の攻めのプレッシャーがあるからこそ、水谷も弧線の大きなドライブで自分の得意な中~後陣でプレーする事ができ、良い循環が生まれている。
第4ゲームこそ林の思い切ったチキータと孫の威力あるフォアハンドで守勢に立たされた日本ペアだったが、前述した「ペアを重ねる」の戦術や、お互いの絶妙なポジショニングによってこのゲームを奪い、3-1での勝利に繋げた。
まとめ
写真:表彰式で笑顔を見せる準優勝の伊藤と水谷/提供:ittfworld
この試合で水谷/伊藤は、2人が互いの持ち味を活かせれば中国ペアにも互角以上の試合が出来ると示してくれた。
決勝でこそ中国の許昕(シュシン)/劉詩雯(リュウスーウェン)ペアに苦杯をなめたが、東京五輪までに2人がどこまでコンビネーションを高め、どんなプレーを見せてくれるのか楽しみで仕方がない。中国の包囲網をかいくぐって最高の結果を出してくれることを期待しよう。