文:ラリーズ編集部
Tリーグの見逃せない名勝負をラリーズ編集部独自の視点で解説する【T.LEAGUE 名場面解説】
今回は2月8日に行われた、ノジマTリーグ・木下アビエル神奈川 vs 日本ペイントマレッツ戦。石川佳純と馮天薇(フォンティエンウェイ・シンガポール)のビクトリーマッチに迫る。
石川佳純、馮天薇、両者共に国際大会でも活躍する実力者であり、Tリーグにおいてもチームを引っ張って行くことが期待される選手である。
写真:石川佳純(木下アビエル神奈川)/提供:©T.LEAGUE
この試合でも石川は、マッチカウント1-2とチームが追い詰められた状況から、蘇慧音(スーワイヤムミニー・日本ペイントマレッツ)に3-0で快勝し、ビクトリーマッチへと持ち込んでいる。
対して馮も、今季初出場ながら、木下アビエル神奈川の2枚看板の一人である杜凱琹(ドゥホイカン・木下アビエル神奈川)を3-0で下しており、好調が予想される。
両者は国際大会でも頻繁に対戦しており、ここ5年間でも7度対戦している。頻繁に対戦していることから、お互いの戦術をよく知っており、いかに相手の戦術を読み切るかが試合の流れを決めると予想された。
このビクトリーマッチでは序盤から馮が石川の戦術に対応し、2-4とリードする。ここから石川がどのようにして逆転勝利を収めたのか。そこにはタイムアウトを挟んだ、石川の思い切った戦術転換があった。
ノジマTリーグ 木下アビエル神奈川 vs 日本ペイントマレッツ:石川佳純VS馮天薇
詳細スコア
○石川佳純 1-0 馮天薇
11-7
石川 vs 馮天薇のエース対決!
タイムアウト前:馮のフォアミドルとバックサイドを攻める
図:石川は馮のフォアミドルとバックサイドを攻めた/作成:ラリーズ編集部
試合序盤、石川は馮のフォアミドルとバックサイドを攻めていった。一般的に、窮屈な体勢で打たなければいけないフォアミドルは弱点となりやすい。特に両ハンドで攻めるスタイルの選手にとっては、フォアハンドかバックハンドで攻めるか迷ってしまい、ミスしたり甘いボールを送ってしまったりしやすい。
ただし、この試合の馮はフォアミドルのボールにもボディーワークを使って対応していた。馮は窮屈な体勢からも強いボールで攻め返し、石川のフォアミドルへの攻めを無効化していた。
加えて、この試合の馮はバックドライブの調子が良く、何本も石川のフォアサイドを打ち抜いていた。石川は馮のバックサイドを攻めても、逆にバックドライブで逆襲されるような展開になってしまい、2-4とリードされた。
1ゲームのみの短期決戦であるビクトリーマッチでは、戦術を練り直すことのできるタイムアウトのタイミングが非常に重要となる。2-4とリードされたこの場面で、石川はタイムアウトを取った。そしてタイムアウト後、石川は一気に戦術を変更する。
タイムアウト後:馮の両サイドを緩急のつけたバックドライブで攻める
図:緩急のつけたバックドライブ/作成:ラリーズ編集部
タイムアウト明けの2-4、3-5の場面で、石川はこれまでのように攻め立てるのではなく、馮のバックサイドへゆっくりとした回転量のあるバックドライブを送る。これに対して馮はバックドライブでカウンターしようとするもミスしてしまう。
この戦術により石川は、馮がこれまで得点源としていたバックドライブでミスさせることに成功した。
また4-5の場面では逆に馮のフォアサイドを速いバックドライブで打ち抜いている。これ以降のプレーでは、馮もこのフォアサイドへのボールに対応しているものの、フォア側に大きく動かされてしまい、次球がバックサイドに来てもバックドライブで強く攻めることが出来なくなっていた。
この両サイドへの緩急のついたボールにより、石川は馮の得点源であるバックドライブを封じ、逆に自らの得点パターンを作り出すことに成功した。
この戦術転換こそが、石川が勝利を収めることが出来た一因だと考えられる。
まとめ
今回取り上げた試合は、ビクトリーマッチという短期決戦の中で、相手の得点パターンを見極め、それを封じる戦術を実行できる石川の能力の高さが光る試合であった。
1-2の劣勢から2連勝しチームを勝利に導いた石川。3月に行われるファイナル進出に向けて弾みのつく勝利となったはずである。石川がどこまでチームを引っ張っていけるのか。これからの活躍に目が離せない。