写真:張本智和(琉球アスティーダ)/提供:T.LEAGUE/アフロスポーツ
大会報道 【徹底分析】柔よく剛を制す リベンジVの張本智和、戸上隼輔を崩した2つのポイント<卓球・ノジマカップ2023>
2023.06.24
文:てふてふ
<Tリーグ NOJIMA CUP2023 日程:6月17日~18日 場所:東洋大学赤羽台キャンパス HELSPO HUB-3アリーナ>
6月17日〜18日にかけて開催されたTリーグ NOJIMA CUP2023決勝戦では、ゲームカウント4−3のフルゲームの末、張本智和(琉球アスティーダ)が約9ヶ月ぶりに戸上隼輔(明治大学)に勝利し、優勝を勝ち取った。
先日開催された世界卓球2023ダーバン大会では、中国代表の梁靖崑(リャンジンクン)に惜敗するも日本男子最高成績のベスト8となった張本。しかし、対戸上戦に関しては、全農CUP福岡大会、全日本選手権、全農CUP平塚大会と3連敗を喫していた中での再戦となった。
写真:世界選手権での張本智和(智和企画)/提供:WTT
近頃の対戦で張本は、戸上の豪打を前に防戦一方となり、負けが続いていた。今回の対戦はまさに「柔よく剛を制す」と言える試合内容で、見事に勝利を収めた。
今回はそんな激闘を制した2つのポイントを徹底分析していく。
①バリエーションに富んだ攻めのバックハンド
これまでの戸上への3連敗を振り返ると、前中陣からの戸上の豪打に対して、張本が通常のブロックで返球するシーンが多く見られる。また、バック対バックでは、戸上の強打に対して、強打で応じるもミスするシーンも見られた。
写真:張本智和(琉球アスティーダ)/提供:T.LEAGUE/アフロスポーツ
ところが今回の対戦では、戸上の前陣バックドライブに対して、バックで緩急をつけたことで、粘りのプレーを見せた。
まずは第1ゲームの1−0のシーンを振り返ると、戸上の回り込みフォアドライブに対して、これまではブロックで安定して返球することが多かった張本が、プッシュ気味にブロックすることで戸上の連打を防ぎ得点している。
写真:張本智和(琉球アスティーダ)/提供:千葉格/アフロ
一方で張本が4−1でリードしている場面では、戸上の連続ドライブを当てるだけのブロックで返球してしまい、失点している。
さらに張本が6−3でリードしている場面では、戸上の鋭いバックドライブに対して、回転重視のコートに深く返る遅い打球で、戸上の攻撃のリズムを崩し、得点につなげている。
続くプレーでも、張本のバックドライブに対して甘くなった戸上の返球を、あえて回転のかかった遅いドライブを打つことでミスを誘い、点差を広げた。
写真:張本智和(琉球アスティーダ)/撮影:ラリーズ編集部
その後もバック対バックの展開で戸上のバックドライブに対して、ブロックではなく回転をかけ返すことで容易に得点させないどころか、むしろラリーの主導権を握っていたように見える。
張本は、ミスをしないことを重視した通常のブロックに加え、リスクを負って緩急の変化をつけた。そのことが、戸上に様々な球種へのケアを迫り、バック強打や回り込みフォアハンドといった両ハンドでの鋭い攻撃のリズムを掴ませなかったことが勝因の1つと言えよう。
②攻めの起点となったミドル攻撃
勝敗を分けたもう1つのポイントは、張本の攻撃の起点となったミドル攻めである。
写真:戸上隼輔(明治大)/撮影:ラリーズ編集部
両者の対戦はバック対バックの展開からラリー戦が始まるケースが非常に多いが、張本の方がよりミドル攻めを徹底していた。
1つ目のポイントで挙げたバックハンドの緩急と組み合わせると、張本のミドル攻めは速い打球から遅い打球まで、様々なタイミングで迫り来る。そのため、戸上は簡単にカウンターできず、そして甘くなった返球に対して、バックサイドを切るコース取りで張本が得点するシーンが幾度となく見られた。
図:バック対バック時のコース/作成:ラリーズ編集部
これによって戸上はバック対バックで主導権を握れず、これまでの対戦のようにチャンスを見つけて回り込みフォアドライブで攻めることができなくなったため、リスクを負ったバック強打で得点するしかなくなったのだ。
一方の張本は、厳しい強打に対しては安定的なブロックで対処し、少しでも甘い強打に対して緩急を織り交ぜることで、戸上を崩すことができていた。
まとめ
今回の対戦を振り返ると、戸上はこれまで通り両ハンドでの豪打を軸とした「剛」のプレーを主体とする一方で、張本は時には緩急を織り交ぜ、時にはミドル攻めから強打で応じる「柔」のプレーで戸上のリズムを崩して勝利を掴んだ。
写真:張本智和(琉球アスティーダ)/提供:T.LEAGUE/アフロスポーツ
実力的には両者はともに世界でもトップレベルであるが、張本が勝利した要因は「いかに相手のやりたいプレーをさせないか」を徹底したプレーであり、今回紹介した2つのポイントはあくまでその選択肢の一部でしかない。
今後も続く選考会で、両者はきっと何度も対戦することになるだろうが、どのような戦術で相手を攻略するのか今後も必見だ。