<卓球・ノジマTリーグ2024-2025シーズン男子プレーオフファイナル 日程:3月23日 場所:代々木第二体育館>
今季の男子ファイナルは、“T.T彩たま劇場”だった。
レギュラーシーズン18勝5敗と圧倒的な強さでチームを牽引した小林広夢/有延大夢ペア(T.T彩たま)がファイナルでも勝利し、会場の雰囲気を自分たちに引き寄せると、第2マッチの曽根翔(T.T彩たま)が、張本智和(琉球アスティーダ)を相手に、気迫のこもったプレーを連発。フルゲームで敗れるも、今日の試合はT.T彩たまが主役であることを印象付けた。
写真:曽根翔(T.T彩たま)/撮影:ラリーズ編集部
写真:張本智和(琉球アスティーダ)/撮影:ラリーズ編集部
第3マッチで、今季レギュラーシーズンMVPの有延大夢(T.T彩たま)が、吉村真晴(琉球アスティーダ)を破って2点取り、今季最後まで輝きを魅せると、第4マッチは会場が揺れるかのような“ユキヤ、ユキヤ”の大声援の中、宇田幸矢(T.T彩たま)が、篠塚大登(琉球アスティーダ)をフルゲームで撃ち抜き、初優勝を決めた。
写真:宇田幸矢(T.T彩たま)/撮影:ラリーズ編集部
T.T彩たまの勢いを生んだものとは
張本智和、篠塚大登、吉村真晴と、メンバーだけ見れば琉球有利にも見えた。しかし、会場の雰囲気は違った。
今季、T.T彩たまは開幕3連敗した後、鉄板の勝率を誇った小林/有延ペアのみならず、前半戦は宇田、中盤は有延、終盤に神巧也と、試合ごとにヒーローを生み出しながら勢いを落とさなかった。
勢い。
今季のT.T彩たまの“勢い”とは、何が生みだしたのだろう。
どのチームも求めて、なかなか得られないものだ。
もちろん、T.T彩たまファンの応援の力強さはあるが、戦略面にも理由があるはずだ。個人競技である卓球、その団体戦であるTリーグチームにおいて、シーズンを通して勢いを維持することは意外に難しいからだ。
理由1:多く出場できる日本人選手でメンバー固定
監督就任一年目でT.T彩たまを優勝に導いた、水野裕哉監督の指導と采配とは何か。
水野監督は今季、海外選手を獲らず、Tリーグへの出場が多く見込める日本人選手を集め、練習を重ねた。
写真:水野裕哉監督(T.T彩たま)/撮影:ラリーズ編集部
試合後、琉球アスティーダの張一博監督が「日程が国際大会と重なることが多く、選手を揃えるのも大変だった。(T.T彩たまが)羨ましかった」と漏らすように、T.T彩たまは、有延大夢や小林広夢、木造勇人ら今季国内活動組が常に出場を続け、しかも勝ち星を重ねた。
Tリーグは各チーム25試合と長丁場のリーグ戦なので、まず出場を約束できて、そして勝てる選手を揃えることがチーム勝利のためには重要である。
写真:小林広夢/有延大夢ペア(T.T彩たま)/撮影:ラリーズ編集部
理由2:拠点練習場が生むコミュニケーション
毎年言っている気がするが、チームが専用練習場を保有している意味は、強化面はもちろん、コミュニケーションにおいても大きな意味をもつ。
それまで明治大学卓球部のコーチだった水野監督は、今季、明治大学出身ではない曽根翔、小林広夢、木造勇人とのコミュニケーションに最も時間を割いてきたという。
「その3人は毎日ご飯に行きましたし、“もうちょっとこうやったら”っていう話を練習でも常に会話するよう心がけてやっていました。特別何かをやったわけではないですけど、やっぱり信用してもらえるようにいろいろ会話してきたことが一番大きいかなと思ってます。監督は選手に信用してもらえないと、言うことを聞いてもらえないので」
一方で、明治大学の後輩である有延大夢には“2点起用でいくから”と常に鼓舞し続け、有延も“期待してもらったことが原動力になった”と感謝する。“有延で負けたら仕方ないと思ってる”、そう言ってくれる監督に恩返ししたかった、と試合後、有延は振り返った。
写真:有延大夢(T.T彩たま)/撮影:ラリーズ編集部
水野監督自身も埼玉県に移住し、選手とのコミュニケーションに充てられる時間を作った。
共に過ごす時間を作り、意識して多くの会話をすることで監督と選手間に信頼関係が生まれる。それはスタッフと監督、スタッフと選手も同じことだろう。
試合後、T.T彩たま取締役会長の柏原哲郎氏が「優勝がこんなに嬉しいものとは知らなかったよ」と喜び合っているのを見ながら、ふと、チーム力や応援される理由は、こんなところにも現れると思った。
写真:一球ずつ歓喜するT.T彩たまスタッフたち/撮影:ラリーズ編集部
理由3:もちろんT.T彩たまの大応援
T.T彩たまの応援も、いつにもまして気持ちがこもっていた。7年目の初優勝に向けて、観客席も一体となって必死で戦っていた。東京開催のプレーオフは、関東圏のT.T彩たまにとって、間違いなく強みだった。
終盤の足踏み応援は、パリ五輪における現地のフランスチーム応援を彷彿とさせる迫力だった。
普段、目に見えない思いを背負って戦う卓球トップ選手たちだが、ここまで目に見えて身体に感じる応援や熱狂の坩堝でプレーすることは、アスリートとして無常の喜びだろう。
ここで試合をしたいと選手が思える場所が、Tリーグに生まれていることは、選手にとっても価値だ。
写真:2024-25シーズン男子ファイナルの様子/撮影:ラリーズ編集部
【提言】リーグにも勢いを
リーグ自体もまた、“勢い”と変革が必要な時期だ。
ほんの一例を挙げると、このプレーオフも、進出チームでのホーム開催は試してみるべきだし、そのためには各チームの会場予約を考えると、遅くとも一年半前にはチームの合意を取って動き出す必要があるだろう。
もっと小さい一例を挙げるなら、手拍子を煽る試合中のBGMは、なぜ同じ1曲からずっと変えないのだろう。試合前イベントの各プログラムはどんな検討がされたのか。
創設から7シーズンを終えたTリーグは、課題と可能性を湛えている。
毎年、プレーオフファイナルと開幕戦は熱狂に包まれ、全日本卓球にもない観戦空間を生んだ。ただ、チームにとってみるとそれは、恵まれた大都市・東京の代々木第2体育館という場所、そして、地方のチーム主催ホームマッチとは比較にならない予算が投下されているからだ。
チームにとっての勝ちはリーグ優勝だが、いま、リーグにとっての勝ちは何なのか。大きな卓球界の未来のための施策を始めるべきだ。
そして、その挑戦は細部まで設計され、常に勝ちに向かって真剣なコミュニケーションが行なわれていること。
勢いはそこから生まれることを、今日のT.T彩たまの歓喜が教えてくれる。
写真:7年目でファイナル初優勝を飾ったT.T彩たま/撮影:ラリーズ編集部