Tへ参戦。大阪の地震で変わった松平志穂の「卓球観」 【Tリーグ】 | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

大会報道 Tへ参戦。大阪の地震で変わった松平志穂の「卓球観」 【Tリーグ】

2018.08.12

取材・文:城島充

日本ペイントマレッツに加藤美優、田代早紀に次ぐ3人目の選手として入団した松平志穂は「私、まだ23歳になったばかりなんですけど、もっと年上だと思われちゃうんです」と言って笑った。「前の所属チームでは最年長でしたし、後輩をサポートする機会が多かったからだと思います」と自己分析したが、彼女自身が濃密なキャリアを築いてきたことも、そうした印象を周囲に与える要因かもしれない。新たな舞台で飛躍を期す松平兄妹の末っ子に、現在の心境を聞いた。
 
――今年の春、Tリーグに参戦する日本ペイントマレッツに移籍されました。決断するのに時間がかかったのでは?

松平志穂(以下、松平):昨年の11月ごろから移籍が決まるまでは、たくさん悩み、精神的にもきつい状態が続きました。前所属のミキハウスには本当にお世話になりましたし、大嶋(雅盛)監督には私が自分で自分をコントロールできなくなった時、いつも声をかけていただいて何度も救っていただきました。兄を含めて家族にも相談しましたが、一番に考えたのは、世界で戦うために、自分にとってベストな道はなにかということでした。中学時代から深い信頼関係を築いてきた分、ミキハウスを離れるのは、苦渋の決断でしたが……。

――決断の決め手になったのは?

松平:最近の卓球界は、若い世代が活躍し層も厚くなりました。そうしたなか、世界に挑戦していく気力を高いレベルでキープし続けるのは大変です。まだ23歳といっても、私は自分の将来をそれほど長いスパンでは考えられないんです。本当に勝負できるのは、ここ数年じゃないか、と。そのような考えを持つようになり、自分には環境の変化が必要なのではとの思いがだんだんと強くなっていきました。さっきも言いましたように前所属チームには長くお世話になり愛着もありましたが、悩んだままでチームにとどまるよりも前進したい。そんなときに新しいチームを立ち上げたばかりの三原監督との出会いがありました。プラスになるのかマイナスになるのかわかりませんが、真っさらなところで、真っ白なページに、自分たちで新しい歴史を作っていくことに魅力を感じました。そんな環境こそが、自分を一番成長させてくれるんじゃないか、と。

――新しいページに、松平選手の卓球をどんな形で刻んでいきたいですか?

松平:先日の大阪北部地震で、卓球観というか人生観が大きく変わりました。私は物心がついた頃から、常に卓球が生活のすぐ近くにありました。石川県の実家は卓球場をやってますし、大阪に来てからも、練習場の上で寮生活をしていましたから。例えば、自然災害だけじゃなくてもいろんな理由で学校が休校になると、それは私にとっていつもよりも早く自宅や寮に戻って、いつもより早く卓球の練習を始めることだったんです。でも、今回の地震で、それが当たり前の環境ではないことに気づきました。

松平志穂(日本ペイントマレッツ)。兄・健太(木下マイスター東京)のTリーグ参戦も発表されたばかりだ

――あの地震の日、どうされていたのですか?

松平:初めて1人暮らしをしているのですが、あの地震で会社に向かう鉄道はすべて運休になりました。もともと休みの日も部屋でじっとしている時間がもったいなくて、外出するタイプなんですが、あの時は外に出ようにもすべての交通機関がストップしたのでまったく身動きがとれなかったんです。部屋にいながら『ああ、練習したいな』と思った時、初めて気づいたんです。ふだんから卓球をやりたくてもできない人もいるし、もっと高いレベルで練習したいのにできない人もいる。そんななかで、私は本当に恵まれた環境で卓球を続けてこられた。それは決して当たり前のことではなくて、多くの人たちが支えてくれてきたおかげだと。

――新しい卓球観と出会い、目指すものは変わりましたか。

松平:プロだから勝利を求めるのは当然ですが、そうした恵まれた環境でプレーをさせていただける歓びや感謝の思いを伝えられるようなプレーをしたいと思うようになりました。Tリーグが始まれば、故郷の石川での試合もあります。そこで両親や私がお世話になった人たちの前でいいプレーを見せたい。そうすることが、これまで支えてくれた人たちへの恩返しになると思っています。これも、新しいモチベーションですね。

――新しい舞台を前に、プレー面で意識して取り組んでいることは?

松平:これまでよりも、トリッキーなプレーを多くしたいと思っています。もともと手先は器用な方だと思うし、これまでも練習では取り組んでたんですが、試合になったらどうしても安全策というか、無難なプレーを選択することが多かったんです。でも、これからは試合でもどんどん積極的に、みんながやらないようなプレー、意表をつくプレーをしていきたい。

――1年目のTリーグでどんな結果を残したいですか?

松平:日本の卓球界にとって歴史的な一歩なので、リーグのため、日本の卓球界のためにがんばりたいという思いは確かにありますが、まずは卓球部を立ちあげてくださった日本ペイントのみなさんに勝利を捧げることを一番に考えたいと思っています。さきほどの故郷への思いと重なるかもしれませんが、私たちがプロとしてプレーできる環境を作ってくださった人たちへの感謝を、勝利という形で表していきたいと思っています。(完)