「遊び心のある卓球」で勝つ。日本ペイントマレッツ主将、田代早紀の葛藤と決断 | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

大会報道 「遊び心のある卓球」で勝つ。日本ペイントマレッツ主将、田代早紀の葛藤と決断

2018.08.11

取材・文:城島充

歴史的なTリーグ開幕をどんな形で迎えるのか。トップ選手たちの多くは、その命題と向き合ったはずである。日本生命で活躍し、2014年世界選手権東京大会の日本代表にも名を連ねた田代早紀も、産声をあげる新リーグと自らの未来を重ね、葛藤した一人だ。古巣を飛び出し、日本ペイントのキャプテンとして開幕を迎える27歳に移籍を決断した背景と、新天地での抱負を聞いた。

――今年2月に日本生命から日本ペイントへの移籍が発表されました。決断するまでいろんな思いが交錯したのでは?

田代早紀(以下、田代):もともと決断するのが苦手で、それまで自分自身の意思で進路を決めた経験がなかったので半年ぐらいは悩みました。野球やサッカーの世界では当たり前でも、卓球界での移籍という行為を私自身がネガティブに考えたときもありました。ずっとお世話になって成長させていただいた日本生命というチームのライバルとして戦う自分をイメージできないこともありました。いろんな人の意見を聞きましたが、最終的には自分で決めなきゃならないとなったときに、一番意識したのは、自分が楽しく卓球を続けられるために最善の環境を選ぼうということでした。現役としてプレーを続けられる期間も限られるなか、どちらの道を選択すればずっと卓球を楽しみながらプレーを続けていけるのか。そのことを考えて考えて考えた末に、移籍を決断しました。

――周囲の声のなかで背中を押してくれた言葉はありましたか?

田代:オファーをいただいた三原監督に『移籍をネガティブにとらえなくてもいい』と言われたことは大きかったですね。『プロなんだから、条件のいいチームを選ぶのは当然の権利だ』と。それ以外でも、三原監督の話を聞いているうち、そこまで自分のことを頼りにしてくれる環境に飛び込んだほうが、選手としてやりがいがあると思いました。最後はそういうことが、移籍の決め手になりました。本当に難しい決断でしたが、日本生命で応援していただいた人たちから『日本ペイントにいっても応援するよ』って言ってもらったときはうれしかったですね。

――移籍して半年ほど経ちましたが、なにか変化はありましたか。

田代:前よりも、いろんなことにチャレンジするようになりました。以前は基本を大切にすることを常に心がけてきましたが、このチームに来てからはいろんな打ち方で、いろんなボールを出すことを考えるようになりました。三原監督や池袋コーチから『田代の卓球は正直すぎるから、ボールを返しやすい』と指摘されたので、今は相手にやりにくいと思わせるプレーを意識しています。

――具体的にはどんな練習を?

田代:三原監督の指導は遊び心があるというか、感覚的なものを求められるんです。『正直すぎる』という指摘はこれまでも耳に届いていたのですが、実際にどうやればその欠点を払拭できるのかわかりませんでした。でも、遊ぶ感覚を取り入れることで、今までと違う感覚でラケットを振ることができるようになってきました。もちろん、練習にはまじめに取り組まなければいけませんが、その中にちょっとした遊び心を取り入れることでこんなに感覚が変わるんだって自分でも驚いています。これまでなかった感覚が生まれてきたことは、すごく大きな変化だと思います。

――遊び心のあるプレー、感覚的なプレーを具体的に言うと?。
田代:
カットブロックとかトリッキーなプレーですね。男子はふだんの練習でよくやってるんですが、女子ではなかなかできていなかった部分だと思います。

古巣・日本生命からTリーグ設立を機に日本ペイントマレッツに移籍をした田代早紀。大阪ダービーは盛り上がりそうだ。

――意識の面で変わったことはありますか?

田代:以前は練習は苦しいものだと思っていましたが、今は楽しいと思いながら練習できています。4月に大会があったのですが、プレーをしていて今までで一番楽しかった。今、卓球界を盛り上げてくれている10代の伊藤美誠選手や平野美宇選手たちは、本当に卓球を楽しんでいることが伝わってくるんですよ。技術が凄いのはもちろんですが、そういう部分もすごく大切なことを実感できています。

――日本に卓球の新トップリーグが誕生することについては、どんな思いがありますか。

田代:私は6歳のころ、地元のスポーツ少年団で卓球を始めたのですが、当時は日本に卓球のプロ(アマ混合)リーグができるなんて夢にも思っていませんでした。卓球がどんどんメディアに取り上げられるようになったこともうれしいですし、年齢的にプロ(アマ混合)リーグの誕生に間に合ったことも本当に幸運なことだと思っています。あと3年遅れていたら、プレーできているかどうかわかりませんから(笑)。

――そんな新リーグを盛り上げるために、選手の立場から何をすべきだと考えていますか?

田代:一人でも多くの人に会場に来ていただけるように、試合が始まればチームの勝利のために全力でプレーするのはもちろんですが、個人のSNSなんかを使ってどんどん情報発信をしていきたいと思っています。現時点(7月13日)ではまだまだ、Tリーグに関する情報の発信がまだまだ少ない気がします。私の知り合いからも『いつ、どこでやるの?』『どういう感じになるの?』って聞かれたりしますから。

――誕生したばかりのチームのキャプテンを任されました。開幕を前にした抱負を聞かせてください。

田代:チーム最年長のキャプテンとしてチームをしっかりまとめたいですし、日本の卓球界で初めてのプロ(アマ混合)リーグの初代チャンピオンになるチャンスは一度きりですから、そのタイトルを狙っていきたいですね。

――しばらく前は考えられなかったという日本生命(レッドエルフ・大阪)との対戦も、少しはイメージできるようになりましたか。

田代:高校を卒業して入部するとき、日本生命が凄いチームだとわかっていても、どこがどう凄いのか、その内実はまったく理解できていませんでした。中に飛び込んでみて初めてその凄さを日々実感しながら成長させていただきました。私が日本代表に入れたり、トップ12で優勝できたりしたのも、日本生命で多くのことを学んだからです。そんな凄いチームを築いた村上さんは私のすべてを知っていますが、それでも、勝負の世界なので絶対に勝ちたい。新しいチームで新しい感覚と技術を身につけ、強くなった姿をコートで見せることが恩返しになると思っています。(了)