写真:スティーブ・デイントンITTF・CEO(写真右下)とのオンラインインタビューの様子/撮影:ラリーズ編集部
卓球インタビュー 国際卓球連盟CEOに聞く「チケット22,000枚即売のワケ」と「82年ぶり新天地開催の意義」
2021.11.24
「86日ぶりに家に帰って、ハッピーだよ」その男は画面の向こうで微笑んだ。
男の名は、国際卓球連盟(ITTF)CEO、スティーブ・デイントン。
多忙を極めるその男にオンライン取材ができたのは、東京五輪後も、世界選手権開催地のヒューストンはじめいくつかの都市を回り、ようやくITTFオフィスと自宅のあるシンガポールに帰国して、ほどなくのタイミングだった。
今、WTTを中心に国際大会のあり方を大きく変えようとしているキーマンに、史上初のアメリカ開催の世界選手権の意義や、今後の世界の卓球界のあり方について話を聞いた。
ITTFで新たに広報を担当するトライデン氏と、世界選手権の協賛を続けるタマスで長くITTF担当を務める寺本能理子さん同席のもと、話はWTT開催の理由など多岐に渡った。
写真:スティーブ・デイントンITTF・CEO/撮影:ラリーズ編集部
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それでも開催を決断した理由
今回1939年カイロ大会以来初めて、アジア大陸とヨーロッパ大陸以外で世界選手権を開催できることは、とても画期的な出来事だと思っている。知っての通り、アメリカのスポーツマーケットは世界で最も大きい。卓球を含む全てのスポーツはこの大きな市場で、成長と発展をさせる挑戦をしている。
だから、ブダペスト(世界選手権2019の年次総会)でこの発表をしたとき、とてもワクワクしたよ。
写真:2019ブダペスト大会で対戦する劉詩雯(手前)と陳夢(奥)/提供:卓球レポート/バタフライ
もちろん、現実的には複雑で困難な状況はあったよ。
もう覚えていないかもしれないが、当初ヒューストン大会は2021年6月開催の予定だったから、東京五輪の一年延期に伴い、すべてを変更する必要があった。なので、当初の想定よりは、規模を少し縮小した会場と観客数で開催する。
写真:いろいろ聞いてみる槌谷/撮影:卓球レポート/バタフライ
幸い、コロナ禍でもアメリカが比較的オープンな体制であることも手伝って、準備はとても良い形で進み、新しい世界選手権が誕生しようとしている。
写真:2020釜山大会が中止となり、幻となったバタフライのショーコート「グリディクス」の広告/撮影:卓球レポート/バタフライ
メーカーとITTFの関係とは
写真:スティーブ・デイントンITTF・CEO/撮影:ラリーズ編集部
写真:タマスで長くITTFの担当を務める寺本能理子さん/撮影:卓球レポート/バタフライ
でも、もうこの数年は全くなくなって、2019年ブダペストは、会場でボールを注意深くボールを選ぶ作業も必要なかったくらいだ。ほぼ全てのボールの品質が素晴らしいから。
写真:2019ブダペスト大会で使用されたバタフライ スリースターボールA40+/提供:卓球レポート/バタフライ
バタフライのスポンサーシップの素晴らしいところは2つあって、一つは言うまでもなく製品・サービスのプロフェッショナリズム性、もう一つは2000年半ばからずっと続けているITTFジュニアサポートプログラムへのサポートだ。
始めたばかりの選手がバタフライの製品を知って触れる機会があるのは素晴らしいことだし、若いジュニア選手が国際大会に出場機会を得られる素晴らしいプログラムだ。
写真:オマー・アサール(エジプト)/提供:ittfworld
VIPチケットは発売と同時にほぼ完売した日も
でもチケットを売り出すと同時に、最終日のチケットとVIPチケットはほぼ完売した。
写真:2019ブダペスト大会の観客/提供:卓球レポート/バタフライ
写真:アメリカ卓球期待の“新星”カナック・ジャー/提供:ittfworld
いま、卓球は真のグローバルスポーツと言えるか
これで、真のグローバルスポーツと言えるだろうか。
写真:スティーブ・デイントンITTF・CEO/撮影:ラリーズ編集部
世界選手権をこれまでと異なるいくつかの場所で開催することで、少なくともそれらの大陸で、卓球が広まる最初のきっかけになればと願っている。
写真:クアドリ・アルナ(ナイジェリア)/提供:ittfworld
女子卓球の価値を上げたい
写真:プエルトリコの“新星”アドリアーナ・ディアス/提供:ittfworld
他の女性スポーツを見てみると、今、女子単独で成立するスポーツイベントのショーケースを作ろうとしているが、卓球では開催されたことがない。いつも男子と女子は一緒に、だった。
時にそれは、女子卓球の価値を実際よりも低くしているのではないか。
なので、私たちは女子単独で年に4〜5回開催する大会を始める。女子卓球の素晴らしさに皆が注目する機会を作り出すことで、数カ国にとってのスター選手でなく、世界にとっての国際的なスター選手に押し上げたいと思っている。
写真:2019ブダペスト大会で盛り上がる観客/提供:卓球レポート/バタフライ
女子卓球選手の素晴らしいプレーはもちろん、キャラクター、スター性に光を当てていくことが、(女子卓球の地域が偏っているという)問題解決への、細いかもしれないが一つの道になると思っている。
写真:早田ひな(日本生命)/提供:WTT
いままでにない開催地が次々と立候補を
ある人は世界選手権はやめるべきだと言い、ある人は続けるべきだと言う。
ただ私の意図はそこにはなく、近い将来WTTが成功するときに世界選手権をどう位置づけていくか、新たなビジネスモデルの大会と共にどう運営するのかという点だ。
切り込んでみる
いま、これまで立候補しなかった多くの国から、世界選手権招致の応札がある。
それはわかりやすく、と私たちは願っているのだけれど、その改革によって、世界選手権の開催が以前に比べてリーズナブルになったからだ。
写真:スティーブ・デイントンITTF・CEO/撮影:ラリーズ編集部
ITTFとWTTの役割の違い
一方で、卓球というスポーツの将来性を考えたときには、私たちはもっと国際的なイベントを発展させていく必要がある。もっと大きく、力強いものに。それがWTTの役割だ。
写真:2020年11月に開催されたWTTマカオの会場/提供:ittfworld
多くの理由があるが、そのうちの一つに、私たちは他のスポーツと戦わなければならないからだ。他のスポーツのビジネス面における動きは、私たちよりもずっと迅速なので、私たち卓球界は取り残されてしまう可能性がある。
写真:2019ブダペスト大会の会場/提供:卓球レポート/バタフライ
トップ選手たちからの要望も
でも一方で、選手にとっての改革でもあるんだ。
特にトップ選手たちからは、賞金をもっと高くしてほしい、より良い環境や待遇を用意してほしいという要望が、私たちに寄せられている。選手や関係者も、他のスポーツ選手が獲得する賞金が高くなるのに、私たち卓球選手の賞金が低いままに据え置かれる状態は見たくないんだ。
だからこそ私たちは、これまでと全く違うアプローチで、世界の卓球ビジネスをマネジメントしながら、多くの投資を卓球界に獲得しなければならない。
それが私たちがWTTをスタートさせた最も大きな理由だ。
写真:WTTコンテンダードーハ大会で優勝したドミトリ・オフチャロフ(ドイツ)/提供:ittfworld
取材を終えて
確かに、スティーブの主張は「世界の卓球産業の成長のため」という点では、一貫している。
卓球はビジネスか伝統か、ではなく、もちろんビジネスであり伝統でもある。
卓球をもっと普及させたいという思いは全ての卓球人が持つ願いだが、これまで卓球界が大切にしてきた機会の平等性や、WTTの中に世界選手権が位置づけられていくような大胆なビジネス戦略に、少なからぬ卓球人が不安を覚えているのも事実だ。
まずは、まもなく開幕する、史上初のアメリカ開催の世界選手権ヒューストン大会を刮目して見よう。
既に約22,000枚のチケットが売れ、決勝・準決勝は既に完売だという期待感。
ヒューストンに、新しい風が吹くか。
少し野暮だが開催地で例えるならば、私たちは卓球という同じ小さな宇宙船に乗り込むクルーなのだから。
写真:2019ブダペスト大会の会場/提供:卓球レポート/バタフライ
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