文:ラリーズ編集部
Tリーグの見逃せない名勝負をラリーズ編集部独自の視点で解説する【T.LEAGUE 名場面解説】。今回は2月15日のノジマTリーグ・木下アビエル神奈川(以下、KA神奈川)VS日本ペイントマレッツ(以下、ニッペM)の一戦から、第2マッチの森薗美月(KA神奈川)と小塩遥菜(ニッペM)の試合にスポットライトを当てる。
森薗美月は1stシーズンからKA神奈川に所属。今シーズンはチームの全試合に帯同し、木原美悠、長﨑美柚ら後輩からも慕われるムードメーカーだ。2016年の全日本社会人選手権女子シングルスで優勝、全日本選手権でもランク入りする実力も兼ね備えている。
対する小塩遥菜は2019年12月からニッペMに加入。中学2年生にして2019年の全国中学校卓球大会女子シングルスで優勝。同じ年の世界ジュニア選手権でも、長﨑美柚(KA神奈川)に次いで準優勝と好成績を残し、2020年2月の対KA神奈川戦ではその長崎に3-2で勝利するなど、今勢いのある選手の一人だ。
攻撃型の森薗と守備型の小塩で接戦が予想されたが、今回の試合では森薗が3-0で小塩にストレート勝ちした。今季2勝目をあげた森薗の徹底的なカットマン対策が勝利の鍵を握っていた。
木下アビエル神奈川 対 日本ペイントマレッツ:森薗美月VS小塩遥菜
詳細スコア
○森薗美月 3-0 小塩遥菜
11-9/11-10/11-9
森薗美月のプレーはこちらから
1.序盤のバックサイドへの配球
図:森薗美月(KA神奈川)の配球図/作成:ラリーズ編集部
この試合では森薗は小塩のバック側へボールを集めていた。それは小塩のバックハンドの“変化”に早く対応するためであった。
小塩がラケットのバック面に使用している粒高ラバーは、相手が放ったボールの回転を逆回転に変化させてレシーブすることができ、カットマンや台の近くで変化をつけてプレーをする女子選手が多く使用している。また、その変化は回転量によっても変わってくるため、相手は対応するまでに時間がかかる。
小塩のバックカットは変化と強烈な回転が持ち味であるが、森薗は第1ゲームでこの小塩のバックハンドへのボールを集めていた。小塩は回転量の変化をつけながらカットをするも、早くに対応され苦しい展開となった。
2.守りのツッツキでなく攻めのドライブ
写真:小塩は打開策を見いだせず/提供:©T.LEAGUE
カットマンは一般に、カットで回転の変化をつけながら甘い球に対して攻撃をしかけるのがセオリーだ。この試合でも、小塩はカットの回転量を変化させながら森薗の甘い返球を誘おうとしていた。
下回転に対して返球する際の代表的な技術にツッツキがある。カットに対してもドライブよりもミスが少なくなりやすいことから使用されることが多い技術だが、ラケットの面が上を向くため回転量の少ないカットが返ってきた場合、浮きやすくなるリスクもある。
森薗はこの試合でツッツキよりもドライブを多用した。ツッツキよりもミスが多くなりやすいが、攻撃の姿勢を維持し続けることで隙を作らずに戦ったのだ。森薗は、「徹底したコース取り」と「隙の無いドライブ」で小塩に攻撃の機会を作らせなかった。
小塩としても、中盤以降カットでコースを変えて揺さぶりをかけるもミスの少ない森薗の対下回転打ちを止めることはできなかった。
まとめ
写真:勝利を挙げた森薗美月/提供:©T.LEAGUE
今回の試合の命運を分けたのは、序盤の戦術の組み立て方と徹底した攻めの姿勢であったと言える。森薗が序盤で小塩のカットに素早く対応したことで、重要な場面でも怯むことなくドライブを打ち続けられたことが勝利につながった。
小塩はカットの回転と変化を駆使して森薗のミスを誘発していたが、ゲームポイントに迫ると変化つけることに意識が向いたか、ミスが多くなってしまった。第2ゲーム以降も持ち前の粘り強さで接戦に持ち込むも、森薗の威力のあるドライブに押され、11点目を取り切れずに試合が終了した。
今回の試合からは、戦術の組み立て方の重要性が読み取れる。試合の中で、どの戦術が適当かを考えることはあらゆるプレーヤーに当てはまる。そのことを考えるうえでこの試合はとても参考になるだろう。