戦型:右ペン表裏
卓球ライター若槻軸足がお届けする「頭で勝つ!卓球戦術」
このシリーズでは、初心者向けに卓球の基本的な技術についての説明やそのやり方、対処法などについてお話していく。実際のプレイヤーはもちろん、テレビなどで観戦される方にとっても、頻繁に出てくる用語が登場するので、知っているとより卓球の面白さが分かるだろう。ぜひ参考にしていただきたい。
(特に記述がない限り、右利きのシェークハンドの選手を想定している)
今回は守りの技術を駆使して勝つ、いわゆるブロックマンという戦い方についてお話してみたい。
基本的には卓球を始めたら、数多ある攻撃の技術をどんどん覚えていって、カッコいいプレーをしていきたいというのが心情だろう。ただし、貪欲に「勝ち」をもぎ取るための手段としては、「守りで勝つ」という手段を選ぶのも非常に賢い選択だ。
トップ選手でブロックを主軸に戦う選手と聞くと、サムソノフ(ベラルーシ)、呉尚垠(オサンウン・韓国)、松平健太(ファースト)などが思い浮かぶ。数多くいる選手の中でも、守りのプレーを主軸にトップに居続けるのは至難の業だ。なぜならやはり、攻めるプレーの方が勝ちやすいからである。
写真:サイドスピンをかけたブロックなどを含め鉄壁のブロックを誇る松平健太/提供:ittfworld
しかし、我々がプレーをする地方の大会での、愛好家レベルの初級者・中級者の層であれば、守りを固めて勝つことは非常に合理的であると言える。
筆者自身もペン表ソフトプレイヤーで、足を使ってスマッシュで攻め込むよりも、前陣でのブロックで相手を振り回して得点するプレーを得意としている。
今回は特に、卓球を初めたばかりの初心者や、あるいは社会人の選手にこそ、ブロックの重要性を説きたいと考えている。
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このページの目次
ブロックマンをおすすめする3つの理由
ブロックという技術そのものが簡単で習得が容易
あなたが初心者の頃を思い出して欲しい。ラケットの握り方から学び、素振りでフォームを染み込ませ、フォアハンド・バックハンドとひとつずつ練習をしていったことだろう。
そうした中で、「下回転に対するドライブ」の練習にはとても多くの時間を割いたのではないだろうか?
多球で先輩にボールを送ってもらうも、どれだけ力いっぱい振ってもボールがネットを越えない。ラバーにボールを喰い込ませる感覚を掴めず、上手く回転をかけられない。そこからたくさんの練習を重ねて、やっとこさ習得できた、という方がほとんどではないだろうか。
ところが一方で、ブロックの練習にそこまで時間を割いただろうか?私の場合はNoであった。
少なくとも多球でブロックの練習をしたことはない。なにせ、特別なスイングや感覚は必要なく、適切なラケット角度で、適切な打球位置にラケットを置けば返球できてしまうのだ。相手の速いボールに臆することなくしっかりと迎えにいき、角度を作って当てる。それだけなのだ。
もちろん全面に来るスピードボールに全て反応して返球する、ということであれば話は変わるが、”技術そのもの”の難易度としては、ドライブをはじめとする攻撃技術よりも圧倒的に低いのだ。
中学の部活で、せーので横並びにスタートしたライバル達は、こぞって攻撃の練習に時間をかけていることだろう。そこへ、ブロックに注力をして相手の攻撃から守る技術を先に身に着けていけば、間違いなくライバル達よりも一歩リードできるはずだ。
ミスをするリスクが低く、精神的にも優位に
卓球は対人スポーツだ。言うまでもなく相手との戦いである。しかし同時に「自分との戦い」という要素が大きいことも忘れてはならない。つまり、緊張した場面であっても、自分が繰り出したい技をしっかりと決められるか、ということが常に求められるのだ。
その意味では、下回転のボールに逆らって、反対方向である上回転をかけ、かつパワーを与えてスピードのあるボールで返すドライブよりも、角度を合わせて相手のボールの威力を利用して返球するだけのブロックの方が、こちらがミスをする確率は少ない。
どんな場面でも、スイングがブレたり、気持ちの変化で力の入れ具合が変わったりといったことが少なく、つまり「自分との戦い」においていつでも平常時に近いプレーができるというわけだ。
こうしたことは、緊張した場面でこそ効いてくる。フルゲームデュースの場面などでは、やはり攻撃する側としてはミスをしたくないので、安全策を取るべきか、思い切って攻めるべきかといった心の迷いが生じるはずだ。ブロックする側は、来たボールに対して反応し、いつも通りブロックをすればよいので、終始一貫、最後まで自分のプレーをし続けられるのである。
体力消耗や怪我のリスクが低く、長くプレーできる
一方の選手が相手のバックサイドにドライブを打ち続け、もう一方の選手はそれをクロスにブロックし続ける。練習でよくある一コマだ。これを5分間継続したとき、体力的にしんどいのはどちらだろう。言うまでもなくドライブを打ち続ける方である。
ドライブとブロックでは、エネルギーの消費量が倍以上違う。さらにドライブの場合は、足を使って、適切な打球ポイントまで自分の体を動かす必要があるので、下半身へかかる負担も相当大きくなる。一方ブロックはというと、多少相手のボールのコースがズレても、足を動かさず手だけで対応することは十分可能であるし、多少足を動かしたってかかる負担はしれたものだ。
自分からドライブでしかけるのではなく、相手にドライブをさせてブロックをする方が疲れない。体力もそれほど必要としない。何が言いたいかというと、現役を退いて練習時間がとれなくとも、おじさんになって体力が衰えても、ブロックを主戦とするプレースタイルならば無理なく続けられるということだ。
もちろん足を使ってコート全面を駆け回り、フォアハンドドライブを叩き込むスタイルはとても魅力的だ。あるいは同じ守りのカットマンの、縦横無尽にコートを舞い、隙きあらば前陣に飛び込んですかさず反撃をする様は、見ていて惚れ惚れとする。
しかし、30代40代、はたまた50代でもそのスタイルを貫くには、相当な鍛錬が必要となってくるのは間違いない。好んで選んだ戦型を、加齢を理由に変えざるをえないというのは、やはり心が痛い。あるいは、卓球競技そのものを辞めるという選択を取ることにもなりかねない。
ブロック主体の戦い方を選べば、年齢によるハンデを最小限に抑え、高いパフォーマンスを長らく維持し続けることが可能になるのである。筆者の敬愛するスペインの何志文(ハ ジウェン)選手は、サウスポーから繰り出すサーブと鉄壁のブロックで、なんと54歳で国際大会を優勝するという、文字通りレジェンド級の偉業を成し遂げている。
ゴルフというスポーツが幅広い年齢層に愛されているのは、それほど体力を必要とせず、怪我をする恐れも少ないからに他ならない。それに近いことが、卓球でも「ブロックマン」という戦型を選ぶことで実現可能になるのだ。
まとめ
今回はブロックを主な武器として戦う、いわゆる「ブロックマン」という戦型が、なぜオススメなのかについてお話してみた。ひとことでまとめると、初心者は早く上達しやすく、年齢を重ねてもスタイルを変えずに長らくプレーを続けることができるから、ということである。
部活動で新入生を見る顧問の先生方や、社会人でプレースタイルの変更などを考えている方などはぜひ、戦型選びの参考にして頂ければ幸いである。