戦型:右ペン表裏
卓球ライター若槻軸足がお送りする「頭で勝つ!卓球戦術」今回は「練習試合を有効に活用するために」というテーマでお話していく。
中学あるいは高校の部活動で卓球をしている人は、多かれ少なかれ「練習試合」というものを経験するはずである。公式の大会というのは年間にそんなに多くないし、部員全員が出場できるわけでもなく、実戦の機会は結構少ないというのが実情である。
そういった中で練習試合というのは、普段対戦することのない選手と数多く試合をすることができ、本番に近い形で経験を積めるとても良い機会なのである。
ただ、その練習試合もただなんとなくやっていたのではもったいない。練習試合を本番の試合に活かす為にとても大切なことがある。それは「データ収集である」という意識を持つことだ。
県内の学校との練習試合ならば、県の大事な大会で対戦する可能性が当然出てくる。そのときに、相手の情報が手元にあるのとないのとでは、勝敗に大きな差が現れるはずだ。
では実際にはどのようなデータを集めればよいのか、次から詳しく見ていこう。
練習試合で集めるべきデータ
実際に情報として集めておく内容としては、以下のようなものが挙げられる。
・相手が主に使ってくるのが、順横回転のサーブか、あるいは逆横回転のサーブなのか。逆横ならば、巻き込みなのかYGなのか、あるいはバックサーブなのかといったサーブの種類についての情報だ。あるいは回転がすごくかかっているだとか、ロングサーブが多い、等々。
・フォアハンドの方が上手いのか、あるいはバックハンドが上手いか。
・下回転打ちが上手いか(一発で打ち抜いてくるタイプ)、上回転打ちが上手いか(ラリーを好むタイプ)
といった具合だ。これ以外にも例えば、どんなレシーブが多いのか、攻撃をされるときはどのコースが多いかといったことも挙げられる。が、まずはこのくらいでよいだろう。
やはり初めて対戦する相手で最も警戒しなければならないのは、サーブである。サーブの種類、回転の強弱といった様々な特徴を、試合をしながら情報を整理していくのは結構大変なことである。それを事前に掴んでおくことができれば、精神的にも相当楽になることは間違いない。
それにフォアが上手いかバックが上手いかや、下回転か上回転かといったことも、どれに当てはまるかで取るべき戦術ががらっと変わってくる。知っていれば、そのパターンの練習を積んで準備しておくことができるわけだ。
そういったことをふまえて、将来の自分に楽をさせてあげるために、今の自分が得た情報をしっかりと整理して記録しておくことが大切だ。
もちろん、慣れないうちはこういった情報を整理すること自体が難しいだろう。どういうサーブが多かったかということですら、振り返ってみてもよく分からないと答える選手も少なくないはずだ。ただこれもひとつの訓練である。
写真:ゲーム間にアドバイスを受ける伊藤美誠(スターツ)/提供:WTT
こういった情報をしっかりと整理するということを日頃からやっておくこと自体が、卓球の頭をより強くすることにつながる。そうした訓練を積んでいけば、初めて当たった相手に対しても、1セットを終えた段階で、こういう特徴があるから次のセットはこう対策しようといった戦術を組み立てられるようになっていくわけだ。
ノートなどに試合結果をメモするのはもちろんだが、むしろ点数よりもこういった相手の強みや弱点といった特徴を記録しておくことの方がよっぽど重要である。勝った負けたというのは、単なるその日の結果にすぎない。
最初は少しずつでも良いので、情報をしっかりと収集して整理し、それを言語化できるよう挑戦していこう。
さらにチームで情報をまとめて共有する
さらにより一歩踏み込んだ活用として、各個人が収集した情報をチームとして共有することができればより良いだろう。各個人がノートあるいは端末等に記入した情報を、Excelでもなんでも良いので、ツールを使って指導者の方で集約することをオススメする。
そして本番の大切な試合でその選手と当たることがわかれば、データからその選手の情報を抽出して、対策をとることができるわけだ。
これを実践するとなると、まず練習試合をしたときに、ノート等に記録する内容を厳密にルール化する。例えば、
①名前
②戦型
③どんなサーブが多いか
④フォアが上手いかバックが上手いか
⑤下回転打ちが上手いか上回転打ちが上手いか、といった具合だ。あまり項目を増やしすぎると選手も指導者も大変になるので、まずはこのくらいで良いだろう。
次に練習試合が終わったら、ノート等を全員分回収して指導者の方でExcelなどに集計していく。もちろんノートというアナログな手法でなくとも、デジタルツールを活用できるのならばそれに越したことはない。
また、他校の一人の選手に対して、こちら側の対戦履歴が多ければ多いほど良い。サンプルが多いほど情報の信頼性が高まるからだ。
ただし中学生や高校生などは、新たな技術やサーブを習得したり、戦型を変更したりといった変化も著しい。なのでいかに最近の特徴であるかという、情報の鮮度もとても大切になってくるだろう。
考えてみればごく簡単なことであるが、ここまでやっているチームはおそらく少ないのではないだろうか。
情報を貴重なものととらえて丁寧に扱っていくことで、チームとしてのひとつの大きな武器となるだろう。
まとめ
今回は練習試合でデータを収集して将来に役立てようというお話であった。
指導者の方、特に競技の経験がなくて技術的指導ができないという方でも簡単にできるので、ぜひ試してみてもらえればと思う。
そしてこの情報のおかげで、これまでよりも1回でも多く勝つことができるようになれれば、これ幸いである。
若槻軸足インタビュー記事
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