戦型:右ペン表裏
卓球ライター若槻軸足がお届けする「頭で勝つ!卓球戦術」
今回は「ロビング打ち」についての私なりの考えをお話したいと思う。
ロビングとは台から遠く離れて、ボールを高く山なりに返球して相手の強打をしのぐという技術だ。我らが水谷隼選手や、ロビングの名手と呼ばれたデンマークのメイス、あるいは現男子ナショナルチーム監督の倉嶋洋介氏など、名だたる名選手がロビングという技術をひとつの武器として、会場が湧き上がるプレーを繰り広げてきた。
ただ今回はもう少し目線を落とし、攻撃主戦の選手にロビングでしのがれたときに慌てずに対処する方法、といったニュアンスでお伝えしたいと思う。ロビング打ちが苦手という方もたくさんいると思うので、ぜひ参考にして頂ければと思う。
(特に記述がない限り、右利きのシェークハンドの選手を想定している)
このページの目次
ロビング打ちで最も大切なこと
ロビング打ちの極意、それは「絶対にミスをしないこと」である。ロビングは「さあ打ってきてください」といわんばかりの山なりのボールで、挑発されているように感じるかもしれない。しかし、必ずしも強打で打ち抜く必要はない。
「強打で打ち抜かないといけない」と考えると、余計な力が入ってしまってミスをしてしまう。そもそも、ロビング打ちとは難しいものだ。なぜならば、普段ロビングのような高いボールを打つ機会は、圧倒的に少ない。普段の練習の中、フォアのラリーから始まり、バックのラリー、フットワーク、システム練習、といったメニューの中に、ロビング打ちを取り入れている方はおそらく少ないだろう。
練習場の環境上、ロビングが出来ないケースだって多くあるだろう。そんな圧倒的に打つ機会が少ない技術を、試合の中で急にやらなくてはいけない場面が出てくるのだ。そりゃあ難しいに決まっている。ロビングが苦手だという方が多いのもうなずける。
だからこそ、無理をする必要はないのだ。ロビングが上がってきたら、一旦落ち着いて、台との距離をしっかり確認し、しっかりとボールを見て7割~8割の力でバック側へスマッシュ。これでいいのだ。何本も返ってきたからといって焦る必要もない。
何本でも落ち着いて7~8割で打てばいいのだ。肝心なのはこちらが先にミスをしないこと。
状況的に見ても、相手は下がっている。そしてあなたは台の近くにいる。つまり攻めているのだ。相手だって普段やる機会の少ない技術をしているので、ミスをする確率だって十分にある。
あなたはリスクを冒さず7~8割くらいで確実に入れて、相手のミスを待つ、という作戦でよいのだ。相手がしびれをきらして反撃してきたとしても、後陣からのボールなので、あせらず落ち着いて対処すればブロックも簡単に出来るだろうし、その後もしっかりと受け身にならず、丁寧に攻め続けることが出来れば、決して展開として悪くはならないだろう。
ロビング打ちの鉄則のコースがバックサイドである理由
ロビングをされる展開というのは、実はほとんど決まっている。相手のフォアサイドを突いて、やや台から下げさせることに成功した。その後バックをついたら、相手は下がった状態から、低い弾道の「フィッシュ」という技術でしのいできた。それに対して続けてバック側を攻めれば、ロビングでしのいできた。おそらくこれが最も多いロビングに入る展開だろう。
そしてこのロビングの展開になったときには、鉄則のコース取りがある。まずはバック側を攻める、その次はバックを突いて、さらにバックに攻め込む。つまりロビングを上げている相手に対して、攻めるコースは基本的にバックサイド一択なのだ。
なぜならば、そうした方があなたが楽だからである。理由は2つだ。
理由①:厳しいコースに送球できるから
まず1つ目は、ワンコースで攻め続ける方が、厳しいコースに送球することが出来るからだ。相手は後陣にいるわけなので、サイドを割るコースへ厳しく送れば送るほど、相手は大きく動かなければいけなくなる。
そうして相手をどんどんバックサイドの端へ追い込むことが出来れば、空いたフォア側へのプレッシャーをかけることが出来るし、回り込んでフォアハンドで逆襲することのリスクを高めさせることが出来る。
その為、出来ればほんの少しでいいので、バックサイドを割るコースへ打つように意識してみよう。シュート気味にスマッシュをして、バックサイドへ逃げるようなボールが打てればもっといい。
理由②:フォア側に送ると球質の違ったボールが返ってくるから
そして2つ目が、フォア側に送ると球質の違ったボールが返ってくるからだ。バックハンドでのロビングに対しては、おそらくそこまで手こずることはないだろう。一方フォアハンドのロビングの場合は、より強い上回転がかかっていたり、横回転がかかっていたりと、球質がバックに比べて多いはずだ。もちろん後陣から逆襲攻撃が来る可能性だってある。
もっと言えば、フォアに送るということは、こちらのフォアに返ってくる可能性が高く、そうなると卓球台が邪魔になるのでやや打ちづらくなってしまうのだ。なので、フォアに送るのは極力避けるべきだ。やるとしたら、よっぽど浅く返ってきて、確実に打ち抜ける自信があるときか、相手がバック側で回り込む動きが見えたときくらいである。
ロビング打ちで大切な打球点の考え方
ロビング打ちではさらに非常に重要な要素がある。それは打球点だ。
ロビングは通常とは全く違う、かなり高い弧線を描いて飛んでくるので、「どのタイミングで打てばよいか分からない」という方も多いかもしれない。私が考える最もいい打球点は、頂点である。なぜならば、頂点つまり一番バウンドが高い位置で打球することで、こちらのスマッシュもより高い位置まで届くことになり、相手が取りづらいからだ。
もちろん上昇期、つまりライジングで打球出来れば、相手の意表を突き、時間を与えずに返球出来るので効果的であることは間違いない。ただ、それをやるのは非常に難しく、こちらのリスクが大きい。
また、ロビングのボールの頂点となると、あなたの身長を優に超えていることも多いだろう。そのため、普段通りの「後ろから前」へのスイングで頂点を捉えるのは難しいことから、全く違うスイングをしなければならない。
テニスのサーブやバドミントンのスマッシュのような、肩を回して「上から下へ」振り降ろすようなスイングだ。しっかりと打てれば、それなりの威力のボールが行くはずなので、なるべく力まず、リラックスして振り降ろすようにしてみよう。
またその際に右足を浮かせ、左足一本で伸び切るような姿勢をすることで、右肩の位置が上がりより高い地点から打ち下ろすことが出来るので挑戦してみるといい。このような動きは普段のプレーですることがないので、怪我をしないように注意しよう。
ただ、どうしても下降期で打球せざるを得ないときもある。強烈な前進回転がかかっていたり、どうしても身長が足りないときなどはやむを得ない。そのときはしっかりと自分が打てる、目線の高さくらいまでボールが落ちてくるのを待って、「後ろから前」へのスイングでスマッシュをしよう。
もちろんこのときも「打ち抜く」ということは絶対に考えてはいけない。なぜなら下降時での打球ということは、ネットまでの距離があるぶんこちらのミスをする確率が高まる上に、相手に届くまでも時間がある為、容易に対応されてしまうからだ。なので、そういう場面でも我慢比べと思って、ミスをせずしっかりと確実にバックへ返球することだけを考えよう。
ロビング打ちでのストップの狙い所
ストップをする際も、あまり考えず不用意に行うことにはリスクが伴う。せっかく相手が下がっていて、自分は台の近くにいるという絶好のチャンスなのだ。下手なストップをすることで相手を前陣まで引き戻して、反撃のチャンスを与えてしまうというのは、非常にもったいない。それにストップを対応されたときは、これまでとはまた違った球質のボールが来るので、またあなたも大変になるだろう。
ストップをしていい場面は、「相手のロビングが浅いとき」これだけだ。具体的には、自陣の卓球台の半分よりもネット側にボールが落ちたときだ。ここにバウンドしたボールに対しては、ストップをして、相手コードで2バウンドさせることも容易いだろう。
深いロビングに対してストップをしても、2バウンドさせるのは非常に難しく、逆に相手にチャンスを与えかねない。
なのでまず何よりも、相手ロビングの落下点をなるべく早く把握することが大事になる。そして浅いと判断出来たなら、ストップに切り替えて、バウンド直後をかる~く触れるのだ。高くなっても構わないので、とにかく2バウンドするようにコントロールする。
この際もなるべく力を抜いてリラックスした状態でやることを心がけよう。うまく2バウンドさせる短さでストップすることに成功すれば、まず間違いなく得点となるだろう。
まとめ
繰り返し私がお伝えしたいのが、「絶対にミスをしない」ということだ。本来、あなたの優位な展開で攻めているところを、相手がなんとかしのいできた、それをミスしてしまったら、あなたのポイントだったはずが相手のポイントになる。
このたった1ポイントで、「8-8」になっていた場面が「7-9」になると、非常にショックが大きい。さらにロビングは派手なプレーだ。そういったプレーで得点を失うと、相手を勢いづけてしまい、試合の流れががらりと変わることも非常に多い。
もっと言えば、何本かミスをしてしまうと、「ああ、この選手はロビング打ちが苦手なのだな。困っても最後はロビングを上げておけばなんとかなるだろう」という考えを相手に与えてしまう。それでもし、競り合いの緊張した場面でロビングを連続で上げられたりすると、精神的にもつらく、ゲーム序盤よりもミスをすることが増えてしまうだろう。
なので、「どれだけロビングを上げられようがミスしませんよ」という姿勢を相手に植え付けておくことは、非常に大切なのだ。
そのような考え方から、私はロビングに対して、「頑張って打ち抜く」ということよりも、「ミスをせず確実に返球する」ということを重視しているのだ。
ただ、可能であれば日々の練習でロビング打ちを取り入れることは非常にオススメだ。打つ側にとってはもちろん、ロビングを上げる側も、しのぎの練習やボールタッチを鍛える為にも非常に有効であると言えるだろう。
今回のお話がロビング打ちに悩めるあなたの解決策のひとつとなれば幸いである。