戦型:右ペン表裏
卓球ライター若槻軸足がお届けする「頭で勝つ!卓球戦術」。今回は「初心者がバックハンドから覚えるべき理由」というテーマでお伝えしていく。本記事で言うフォアハンドとは、フォアロング、フォア打ちなどとも呼ばれる、最も基本的な技術のことを指す。
これを読んでいる多くのプレイヤーは、ラケットを握り始めたときはフォアハンドから覚えていったのではないだろうか。やはり基本といえばフォアハンドという意識はあるし、試合前の練習でもフォアハンドから始めるのが一般的だ。
しかし実は、ヨーロッパではバックハンドから練習を始めるのが一般的とされているのだという。それは単純に文化の違いということもあるのだが、理由を考えてみると非常に合理的なことがわかる。
今回の記事では初心者の方がバックハンドから覚えることの合理性について私なりの考えを述べてみたい。
このページの目次
初心者がバックハンドから覚えるべき理由①:視点が違う
まずフォアとバックの大きな違いとして挙げられるのが、ボールを打球する位置だ。
フォアハンドの場合は打球位置が右利きなら体の右側になる。そして最も適切に力を加えられる位置も選手によって微妙に変わってくるし、その適切なポイントが分かったら、なるべく毎回同じポイントで打てるように調節しなければならない。
つまり「左右の位置関係と、前後の位置関係を、横からの視点で調節しながら打球する」のがフォアハンドである。
バックハンドもフォアハンドと同様に、自分の適切な打球ポイントを探し、前後左右の調整を毎回しなければならない。ただバックハンドの場合は基本的に身体の中心、おへその前で打つのが良いとされているので、その点はフォアよりもシンプルである。
そしてそれは身体の正面、つまり来るボールに対して真っすぐの視点で捉えられるので、左右方向への調節は圧倒的に簡単なのだ。あとは前後の調整さえしっかりできればある程度安定的に返球ができるのである。
この考え方は野球のバントにも似ている。
通常のヒッティングの場合は体の右横で打球する。横からの視点でボールを見るので、当然打ち損じたり空振りをしたりすることがある。これがバントならば、正面からの視点でボールを捉えるので、空振りすることなく確実にバットに当てることができる。
語弊を恐れずに言えば、卓球のフォアハンドは野球のスイング、卓球のバックハンドは野球のバントと同じようなことだと言える。ミスをする確率が少ない、簡単な方はどちらかといえば、もちろんバントの方である。ならそちらから覚えた方がよいのではないだろうか?
初心者がバックハンドから覚えるべき理由②:フォームが違う
次にフォームの違いだ。
フォアハンドの場合は主に使うのは前腕だが、肩とも連動させてスムーズに動かす必要があるし、腰のひねり、膝を柔らかく使った体重移動など、かなり色んな所に気を配る必要がある。そして一度おかしな癖がついてしまうと、それを修正するのにはかなりの時間を要することになってしまう。
一方バックハンドの場合は、基本的には肘から先の前腕が適切に使えて、ラケット角度さえ安定すればある程度は安定して返球することができてしまう。スイング幅も小さいし、フォアハンドほど多くの部分に意識を払わずとも良いので、変なフォームの癖といったものもつきづらい。
多くの卓球プレイヤーを見てきて、「この人のフォアハンドの振りは癖が強いな」と思うことはあっても、「バックハンドの振りの癖が強いな」と思ったことは、あまりないのではないだろうか?それには、フォアハンドとバックハンドの身体の使い方の違いが大きく影響していると言えるだろう。
初心者がバックハンドから覚えるべき理由③:練習相手になれる
バックハンドの延長線上(もしくはその手前とも言える)にはバックハンドでのブロックという技術がある。このブロックというのは何よりも早く覚えるべき技術であると言える。
なぜならこれがある程度できるようになれば、自分よりも上手な選手の練習相手になることができるからだ。すべてこちらのバックサイドにボールを集めてもらう練習ならば、とりあえずブロックができればラリーを続ける事ができる。もしフォア側でのブロックを求められるのであれば、フォア側に立ってバックハンドでブロックをすればいいのである。
初心者で技術の習得がままならないと、上手な選手と打つ機会に恵まれず、下手な者同士でずっと練習し続けるという事態になりがちである。上達への近道は言うまでもなく自分よりも強い相手と練習することである。そのために必須な技術が、バックハンドのブロックなのだ。それをいち早く覚えるためにも、バックハンドからの習得をオススメする。
初心者がバックハンドから覚えるべき理由④:試合で使う機会が多い
最後に試合での使用頻度の話だ。
試合前の練習ではフォア(フォアロング)から始めるのが一般的であると述べたが、実は試合の中でこのフォアロングという打法を使う機会はほとんどない。ある程度競技を続けていけば、フォア側に来た上回転のボールに対しては、攻撃的な技術のフォアドライブ(あるいはフォアスマッシュ)か、守備的な技術であるフォアブロックのどちらかをするケースがほとんどだからである。フォアロングという技術はあくまで身体慣らしや打球感の確認といった程度でしかないのが現状である。
バックハンドの場合も同じことが言えるが、フォアよりは実用的であると言って良いだろう。
さらには、卓球のラリーはシングルスなら基本的にはバックサイドから始まる。およそ7割くらいはバックサイドでの攻防のはずである。そういった点でもバックハンドを使う機会は非常に多い。バックハンドの技術から着実に覚えた方が、試合で勝てるようになる近道だということが言えそうだ。
まとめ
様々な観点から、バックハンドから先に覚えた方が有効なことについてお話してみた。
もちろんフォアハンドをないがしろにしていいと言っているわけではない。きっちりとした指導者がいて、毎日マンツーマンの指導が受けられるのならば、フォアからだろうとバックからだろうと構わない。
だが、なかなかそうはいかないケースが多いのが現状だ。変な癖をつけず、ある程度自走式でも着実に上達できる選手を目指すならば、バックハンドから覚えるのが得策なのではないか、というひとつの案である。
バックハンドを極めて様々な球種や威力のあるボールを出せるようになれば、十分強力な武器になるだろう。突き詰めれば、フォアサイドもバックハンドでカバーするといったプレースタイルも可能である。初心者の方、指導者の方の参考になれば幸いである。
若槻軸足インタビュー記事
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