戦型:右ペン表裏
卓球ライター若槻軸足がお届けする「頭で勝つ!卓球戦術」。今回は「主観と客観で試合をする」というテーマでお伝えしておこうと思う。何の話だと思われた方も、ぜひ最後まで読んでほしい。
試合でサービスを出す、相手を観察する、ボールを打つ、といった動作をしているのはあなた自身だ。あなた自身の視点から、あなたが「主観」でプレーをしている。つまり、試合を戦っているのは他でもないあなた自身なのだ。
だがしかし、ときには「客観的な視点」で試合を捉えなければならないときもある。それは具体的にどういうことか。一緒に考えていこう。
このページの目次
主観と客観で試合をするとは
例えば、主観的な視点と客観的な視点とは以下のようなものだ。
主観:「頑張って攻撃をしているが点にならない」
客観:「頑張って打っているように見えて、打たされている」
主観:「バックへのロングサーブで得点していたが、途中からは点にならなくなってきた」
客観:「ロングサーブを待たれている」
主観:「得意な回転のサーブを出しているはずなのに、点にならない」
客観:「サーブの回転を利用されている」
こういった「客観的な捉え方」が出来る選手は、自分で戦術を組み立てることが出来るし、戦術の転換をする能力も高い。だが、こういった考え方が普段全く浮かんでこないという選手は、おそらく客観的な視点で試合を捉えられていないはずだ。
事実、私自身も中学はおろか高校生のときでさえ、自分の試合を客観的に捉えることは今思えば全く出来ていなかった。シンプルに目の前のボールに対応するのが精一杯。「次のサービスは何を出せば効くだろうか」あるいは「どんなサービスを出してくるだろうか」といった主観でしか試合を考えられていなかった。
卓球は考えることがとにかく多い。目の前のボールに対応するだけでも難しいのに、だ。そのため、「なぜ点を取れていてなぜ点を取られているのか」といった戦況を客観的な視点で分析し、次にどうすべきかの指示をくれるベンチコーチの存在は非常に重要だ。
だが、実際はベンチコーチがいない場面の方が圧倒的に多いわけだ。だからこそ、試合をしながら自分で自分のベンチコーチをしてあげるイメージで、客観的に試合の状況を捉えることが必要になってくるというわけだ。
客観的視点を身につける方法①:解説付きの試合を観る
客観的視点を身につけるためにまずオススメなのは、解説付きの試合を見ることだ。
最近はテレビやネットで卓球中継が行われることも珍しくなくなり、実況付きの試合を年に数回は目にする機会があるだろう。その際は必ずといっていいほど、実況と併せて解説者が試合中のプレーや展開についての説明をしてくれているはずだ。
その解説者の声にしっかりと耳を傾けて、試合を最初から最後まで観るというのが実はものすごく勉強になるのである。
例えば、解説の中で出てくる「手前の選手は打たされる展開が続いていますね」や「このフォア前へのサービスについては待たれてしまっていますね」、「縦回転サービスよりも横回転サービスからの展開の方が得点になっていますね」といった言葉は、目の前の試合だけでなく、自分自身の卓球をレベルアップする際のヒントにもなる。
私自身もただなんとなく目の前のプレーだけをしていたときには、こういった考えというかボキャブラリーは頭の中に一切なかったので、「そういう風に試合を観て分析するのか」と目から鱗が落ちる感覚であった。
これを他の競技に例えるならば、素人がサッカー観戦でボールしか見ていなくて、ディフェンスラインの変化や、フォーメーションが前半と後半で変わっていることといった、試合の行方を左右する重要なポイントに全く考えが及ばないのと同じことだ。
なので、客観的視点を身につけるためにはこのように試合の戦況を見ていくことが大切なのだ。そのために一番手っ取り早いのが、テレビの解説付きの試合の観戦、あるいはそれを流しているYouTube動画を視聴する、ということになる。
客観的視点を身につける方法②:自身の試合動画の観察
そしてその次にやるべきことは、自身の試合を動画撮影してそれをしっかりと研究することだ。
先程の客観的視点で自らの試合を見ると、色々と気づくことがあるはずである。下回転からの展開では点数に結びついていないから上回転のサービスからの展開を多くすべきだとか、競った場面で安全に行き過ぎて相手に攻められてゲームを失っているとか。
この時、チームメイトや監督と一緒に観て意見の交換をするのもいいだろう。より多くの視点から新たな発見が得られるはずである。そこから得られた発見や課題を、次の試合に活かせるようにしよう。
そしてもちろん、この作業は一回やればいいというわけではなく、日頃から繰り返して訓練を続けていくことがとても大切になる。
なぜなら、自分自身のコンディションは日によって違うし、相手によって戦い方も変わってくるからだ。自身のプレーを多く観るようにして分析をする。そして次の試合では客観的な視点でも考えながらプレーをする。そしてその動画を見て、「このときはこう考えてこの選択をした」といったことも思い出しながら、分析をする。ひたすらその繰り返しだ。
まとめ
卓球はとにかく忙しい。自分がボールを打ってから1秒もしないうちに次のボールが返ってきて、1球ごとに回転も質も違うのでそれに合わせて適切な打法を選択し、相手の体勢や位置も見ながらコースを突いて打球しつつ、次のボールに備えないといけない。
それだけでもとても大変なのに、そこに客観的な視点から試合を観て、自分で調整をしないといけない。卓球という競技が難しいと言われる所以にほかならない。
ただそれゆえに筋力のない10代の選手や、40代50代といったベテランであっても、20代を打ち負かすことも普通にありえるという、他に類を見ない競技である。
目の前のボールに食らいつく主観の自分と、戦況を冷静に分析をする客観的な自分。両者が手を取り力を合わせなければ、上位に勝ち進むことは出来ないだろう。ただこれも卓球の面白さだと捉えて、今回の記事を参考に客観的な視点を持てるような訓練をしていくことをぜひおすすめしたい。
育ち盛りの選手や監督達の助けとなればこれ幸いである。
若槻軸足インタビュー記事
>>『頭で勝つ卓球戦術』シリーズ著者・若槻軸足が社会人で全国5回でられたワケ