戦型:右ペン表裏
卓球ライター若槻軸足がお届けする「頭で勝つ!卓球戦術」。
今回は緊張した場面での戦い方というテーマでお話しする。
卓球選手なら誰しも、試合中に緊張した経験があるだろう。しかし、その緊張が大事な場面でも来てしまうと、自分の実力を100%発揮することは難しくなってしまう。そこで、今回はややアプローチを変えて、緊張していることを受け入れたうえで、どういったプレーを選択すべきか、といった内容について触れていきたい。
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このページの目次
まずは「自分は緊張している」という現実を受け入れる
まずはとにもかくにも、「自分が緊張している」という状況を把握することが必須である。
緊張していることを理解せぬままにプレーしていると、あらぬ選択ミスをしてしまった結果、試合に負けて、冷静になって振り返ったときに「なんであの場面であんなプレーをしたんだろう」と自分を咎めるはめになる。
緊張する場面は、たいていが9-9や10-10といったゲーム終盤である。そういった場面では、よほど自信がある場合以外は緊張するものなのだ。まずはその事実をしっかりと受け入れよう。
そして、その事実は相手にとってもおなじことである。自分が緊張しているのなら、必ず相手も緊張している。まずはそれを理解することが第一歩だ。
緊張した場面で勝つために必要なプレー3選
フルゲーム。カウントは9-9。誰もが手に汗握る緊張した場面だ。お互いに1点のミスも許されないような状況。となると、お互い1点を大事に取り合うという展開であるはずだ。
そんな場面で取るべき選択は、「ローリスクかつ、相手がミスする確率が高いプレー」だ。
これはなにも、「すべてのボールを安全に入れにいく」ということではない。一発で撃ち抜くパワーボールを打つにはリスクを伴うが、そんなことをしなくても安全に点を取れる方法があるということを、以下でお伝えしていく。
プレー①:サーブの出す位置を変える
まず最もオススメなのは「サーブの出す位置を変える」ことである。これは絶大に効く。
写真:フォア側から出すサーブ/撮影:ラリーズ編集部
ほとんどの選手は、サーブを出す際は自身のバックサイドから構えて出すだろう。相手もそれに慣れているはずだ。そこで、あえてフォア側からサーブを出す。すると相手は、とたんに対応に困ってレシーブが甘くなることがよくある。
これはたとえ同じ種類・同じ回転のサーブであってもだ。それまで出していたサーブを、ただフォア側、あるいはミドルから出すだけで、相手にとってはこれまでとは全く違うサーブのように感じるため、ついレシーブを安全に入れようとするものなのだ。
プレー②:シンプルなサーブを出す
同じくサーブの戦法で、あえてシンプルなサーブを出すというのも有効だ。ここでいうシンプルなサーブは、ナックルのショートサーブだ。
たとえば下回転と同じフォームでナックルを出してみたりすると、緊張する競った場面ではよく効く。やはり人間の心理的に、1本のミスも許されない状況となると、まずネットにかけることは避けたいと考えるはずだ。
写真:シンプルなサーブを出す/撮影:ラリーズ編集部
とりあえずネットを越して台に収めたいとなると、直線的な軌道のフリックや流しなどより、放物線を描くツッツキをしたほうがまずミスにならない確率が高い。そのため下回転のかかっていないナックルを出せば浮いて返ってくることが多い。
また緊張した場面でナックルのサーブを浮かさずに、かつ安全に入れる為の角度を適切に出して返球するのは、実は難しい。
リオデジャネイロ五輪の団体決勝戦で、水谷隼選手は許昕(シュシン・中国)選手とフルゲームの接戦の末に、7-10と追い込まれる。そこから水谷選手が出したサーブは、徹底して短いナックルである。
写真:リオ五輪男子団体決勝での水谷隼/撮影:AP/アフロ
逆転を許し、10-11と追い詰められた許昕の最後のレシーブは、角度を合わせた安全に入れにいくレシーブだったが、にもかかわらず大きくオーバーとなり、水谷が勝利をもぎとった。
プレー③:ループドライブを使う
続いて紹介するループドライブも非常に有効な戦法と言える。その要因のひとつが、回転量だ。
通常のドライブよりも強い上回転がかかっていれば、相手としてはなるべくバウンド直後をとらえた上で、ブロックの角度を厳しく作ってぐっと抑え込む必要がある。それを緊張した場面でもきっちりやるのは、想像する以上に難しいものなのだ。
もうひとつの要因が、ループドライブは「遅い」ということだ。一般的には、相手から速いボールが来ることを警戒して、それに対応しようと構えているはずである。そこへ急に遅いボールが来ると、やはり待つ側としてはリズムが狂う。
単純に速いだけのボールなら、反射的に手が出ればなんとか返球できるが、急に来る遅い、かつ強い回転のかかっているボールには、手だけでなく脚も動かさないとしっかり返球が出来ないので、競った場面では非常に有効打になりえるのだ。
写真:リオ五輪の水谷隼/提供:ittfworld
再び水谷選手と許昕選手の試合の話だが、フルゲーム7-10から10-10まで追いついた後のプレーに注目したい。ここでも水谷選手はゆっくりで回転量のあるループドライブ(しかも、低くて浅いボール)を使い、許昕選手のミスを誘った。この緊張した場面で質の高いループドライブを適切に処理することは、中国のトップ選手であっても難しいということなのだ。
今までやったことのないプレーをするのはNG
「相手の逆をとろう」と考えることは悪くない。しかし、その「逆」をとるプレーが、入る確率が60%以下なら、得策だとは言えないだろう。
例えば、フルゲーム9-9であながレシーブの場面。相手はこちらが安全にツッツキをしてくると予想している、と考えてその逆をついてフリックをする、という作戦はもちろん素晴らしい。ただしそれが得策だと言えるのは、このフリックという技術を確実に入れる自信がある場合のみだ。
写真:冷静にプレーを選択しよう/撮影:ラリーズ編集部
試合のなかで序盤や中盤に何回かフリックが決まっているのならばよい。しかしそうでないならば、この緊張した場面、1点のミスも許されない場面で、ミスする確率のある技術を選択するというのは、やや分が悪いだろう。
むしろ、そうならないように、序盤や中盤の余裕のある時点で、何度かフリックを見せておくべきなのだ。そこで相手に「フリックもあるぞ」という意識を植え付けさせていれば、終盤でも「もしかしたらフリックが来るかもしれない、でもツッツキかもしれない」というように、相手の待ちを散らす事ができて、精神的に優位に立てるのである。
まとめ
いかがだっただろうか。今回は緊張した場面での戦い方についてお伝えした。逆に考えると緊張した場面では、緊張していない場面と同じプレーをしていては勝てる確率が下がるとも言えるだろう。
なので、緊張する場面に使う用のサーブや戦術を、あらかじめ用意しておくことが大切になる。
今回の内容をしっかりと理解し、実践できるようにさえなれば、もう緊張は怖くないはずだ。
若槻軸足インタビュー記事
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