「卓球が上手い」と「卓球が強い」はどう違う?|頭で勝つ!卓球戦術 | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

卓球技術・コツ 「卓球が上手い」と「卓球が強い」はどう違う?|頭で勝つ!卓球戦術

2020.01.02

この記事を書いた人
初級者、中級者向けに基本技術の説明から、戦術論や卓球コラムまでを執筆。社会人になってから5回全国に出場し、全日本卓球選手権(マスターズの部・男子30代以上の部)ではベスト64。まさに“頭で勝つ!”を体現中。
戦型:右ペン表裏

卓球ライター若槻軸足がお届けする「頭で勝つ!卓球戦術」。

このシリーズでは初心者向けに卓球の基本的な技術についての説明や、そのやり方、対処法などについてお話していく。実際のプレイヤーはもちろん、テレビなどで観戦される方にとっても、頻繁に出てくる用語が登場するので、知っているとより卓球の面白さが分かるだろう。ぜひ参考にしていただきたい。

さて今回も前回に引き続いてコラム的な内容となる。

日頃の会話やテレビの試合中継などで、選手を形容する際に様々な言葉が使われるが、今回は「上手い」と「強い」の違いについて、少し考えてみたいと思う。

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上手いと強いの違い

試合会場などで観客から「上手い!」という声があがることが時たまあるが、それはどういうときだろうか。

相手の逆を突いた流しで、ノータッチで得点したナイスプレー。
何往復にも渡るロビングで1点をしのいだ派手なプレー。
流れるようなカットの粘りから、前陣に出てバックハンドスマッシュを決める鮮やかなプレー。

これらはどれも会場を沸かせ、「おおおぉ!」という声が漏れるようなものだ。そういったプレーひとつひとつを取って、「上手い」と称される。

一方で「強い」と形容される場合は何を指すかといえば、単純に実力のことを言う。A選手はB選手よりも「強い」つまり実力が上だ、といった文脈である。

「上手い」だけを追い求めていても「強い」選手にはなれないし、「上手い」からといって必ずしも「強い」選手であるとは限らない。

サーブが上手いだけ

わかりやすいように、あえて上手い「だけ」という表現を使ってみたいと思う。

例えば、「サーブが上手いだけの選手」。

誰も見たことのない独創的なフォームから、何種類もの回転を繰り出す。相手は判別が全くわからない。試合ではいつもサービスエースを量産する。そしてそんなサーブを何種類も持っている。

がしかし、サービスエースが多く取れる反面、上手くレシーブされた際の展開は、いまひとつ得点力に欠けることがしばしば。また色んなサーブを出すため、ミスの割合もどうしても多い。

いっぽうで、「強い選手」の場合。

シンプルなサーブを主体に組み立てて、それほど派手さはない。しかし、微妙な回転量の差で相手を翻弄し、常にボール1個分ほどネットから浮いた甘いレシーブを誘い、確実に3球目攻撃で仕留められる。上手くレシーブをされた際も、自分のサーブの性質を知り尽くしているので、8割方予測通りのレシーブが来る。そこでしっかりと3球目攻撃をし、さらに5球目、7球目と連打が出来る。サービス権を持ったときの得点率は極めて高い。

練習が上手いだけ

試合前や日頃の練習の風景を見ていて、「上手い」なあと思う選手がいるだろう。

ミスなく延々と続く流れるようなフットワーク、中陣でのダイナミックな引き合い。そのような選手達を見ると「上手いなあ、すごいなあと」と誰しもが思う。しかし、そんな選手が「強い」とは限らない。もしかしたら「練習が上手いだけ」という場合もあるのだ。

確かにフットワークやラリーでの引き合いの練習は必要なものだ。しかしそれらは、やっていて気持ちがいい、楽しい、自分の調子が上がる、といった類の練習であり、本質的に「試合に勝つ」為の練習ではない。

例えば、北京五輪金メダリストの中国の馬琳氏は、現役時代で、ラリーの練習に割く時間は極めて少なかったという。では何をやっていたかというと、サーブからの3球目攻撃、レシーブからの4球目攻撃。これらばかりだった。

言わずもがな、卓球はサーブから始まる。そしてレシーブ、3球目、4球目と続く。2014年に発表された、ロンドン五輪の試合を分析した論文の中でも、「男女ともに3球目でラリーが終わる回数が最も多かった」と記されている。つまり、ほとんどはサーブレシーブ、3球目でラリーは終わり、中陣での引き合いにまでもつれるシーンは試合の中では滅多にないのである。 

となれば、練習でたくさんの時間を割くべきなのはどこか、自ずと見えてくるだろう。

強い選手とは

卓球で勝つ為のルール。それは「相手よりも1回多くコートへ返球する」ことだ。前回の記事で「センスのある選手」についてお話をした。センスは素晴らしいものであるし、あるに越したことはない。しかし、センスさえあれば試合に勝てる、と言えるほど卓球は甘くないのだ。ある程度の「センス」や「上手さ」は、勝つ為の必要条件にはなりうるが、十分条件であるとは言えない。

わたしは、自分のことを「上手い選手」だとはとても思わない。ビデオで見返すと、なんだか動きはぎこちないし、へんてこなフォームでサーブを出すし、飛びつきもまともに出来ていないようなレベルだ。

だがそれでも、高校時代は県大会でベスト4の常連であったし、社会人でも全国大会に何度も出場し、勝利を収めることも出来ている。それはひとえに、サーブやレシーブに注力を注ぎ、徹底的に相手の嫌がる戦法を取り、スーパープレーを狙わず、確実に相手よりも1回多くコートへ返すことのみを考えて取り組んできたからだろう。

まとめ

結論としては、

上手い選手 = プレー単体での評価
強い選手  = 選手の総じての実力の評価

ということになる。上手いプレーをたくさん出来ることに越したことはない。しかし。それは本当に試合に勝つことに結びつくのか、考えてみる必要があるだろう。特に指導者の方などは、選手が試合に勝つ為の「強くなる」練習ではなく、「上手くなる」練習ばかりをしていないか、改めて見てやることをオススメする。

「上手いだけ」を目指しても、強い選手になることは出来ない。もちろん、気持ちのいいプレー、会場を沸かせるプレーをすることに全力をかけていて、試合に勝てなくてもいい、というのならば話は別だ。しかし多くの選手は、とにかく1つでも多く試合で勝てるように日々取り組んでいることだろう。スポーツとはそういうものだ。エキシビションではない。

いわば、地を這ってでも、床に着くギリギリまでボールを追いかける。見た目などは気にせず、泥臭く、目の前の1点に執着をする。そして、どんなに劣勢でも、苦しい場面でも諦めず、絶対に勝つという強い精神力をもって、勝利をもぎ取ることが出来る。そんな選手が、本当に強いと言えるのではないだろうか。

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