「弱く打つ」技術の有効性について|頭で勝つ!卓球戦術 | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:石川佳純(全農)/撮影:ラリーズ編集部

卓球技術・コツ 「弱く打つ」技術の有効性について|頭で勝つ!卓球戦術

2023.04.05

この記事を書いた人
初級者、中級者向けに基本技術の説明から、戦術論や卓球コラムまでを執筆。社会人になってから5回全国に出場し、全日本卓球選手権(マスターズの部・男子30代以上の部)ではベスト64。まさに“頭で勝つ!”を体現中。
戦型:右ペン表裏

卓球ライター若槻軸足がお送りする「頭で勝つ!卓球戦術」今回は、「弱く打つ」ということをテーマにお話していきたいと思う。

卓球のラリーは、その瞬間瞬間でどんな技術を使うかの判断の連続である。

その選択を大きく分けるならば、「強く打つ」か「打たずに入れる」のいずれかになるだろう。そのいずれでもなく今回考えたいのは、打つんだけれども威力は抑えるという方法、すなわち「弱く打つ」ということである。

弱く打つとは

ループドライブという技術がある。これは主に下回転系のボールに対しての打法で、通常のドライブよりも打点を落とし、強く前進回転をかけたドライブのことを指す。しかし、今回取り上げる「弱く打つ」打法とこのループドライブとは全く違うものであることを先にお伝えしておきたい。

ループドライブの場合は打球点を落とすことによって、弧線が高くなり山なりの軌道を描くボールとなる。そうではなくあくまで通常と同じ打球点で打ち、低い弧線を描くのだがそのボールスピードは遅いという性質を持つのが、今回取り上げる「弱く打つ」ということだ。

通常のドライブ(あるいはスマッシュも同様)を8~9割の力とするならば、6~7割くらいの力で打つボールも使いましょうというお話である。


写真:宇田幸矢(明治大)/撮影:ラリーズ編集部

失点しない為に弱く打つ

「弱く打つなんてそんなことに何の意味があるのか、得点にならないしカウンターされるだけではないか」という声が聞こえてきそうではあるが、実際はそうでもない。そんな弱く打つということの良い面について触れてみよう。

ひとつ大きなメリットが、こちらのミスを抑えられるということだ。卓球は点取り合戦であり、いかに攻撃的なボールで点を奪えるかと同時に、いかにミスをせず失点を抑えられるかという競技でもある。力いっぱい込めた渾身の打球は、入れば強力だがもちろんミスをするリスクもつきまとう。

こんな経験はないだろうか。大きな試合の本番で、緊張からかいつもなら入る3球目のドライブ攻撃が打っても打っても全く入らない。仕方ないので打たずにツッツキを入れると、相手に先手を取られて攻め込まれる。そうして本来の自分のペースをつかめずに負けてしまった。身に覚えのある方も少なくはないだろう。

これがまさしく冒頭で書いた、「強く打つ」か「打たずに入れる」かの2択になってしまっているということである。


写真:長﨑美柚(木下グループ)/撮影:ラリーズ編集部

このときに「弱く打つ」という選択を取っていたならば、しっかりと台に入れられることで、こちらの失点は確実に少なくすることができる。威力は抑えるが、いつも通り「攻めている」ので、自分本来のペースのままで戦うことができる。次第に調子も上がっていき、試合中盤頃には「強く打つ」ボールもしっかり入るようになる。

といったように、弱く打つことは「本来の自分」と「上手くいってない自分」との間のギャップを、失点をせずに埋めるための手段として非常に有効なのだ。

得点する為に弱く打つ

他にも弱く打つのが有効な場面はいくつかある。たとえば相手が中陣でフィッシュで粘っているとき、あるいは同様に中陣でのカットをしているときである。カット打ちの場面などは特に顕著に、「強く打つか」ツッツキを使って「打たずに入れる」かの2択になるかと思われる。(ループドライブは一旦置いておこう) 

カットマンとの試合は競れば競るほど緊張するもので、強く打つ場合とツッツキをする場合、どちらも非常に神経を使いながら行うことになるだろう。打って打って打って、としているところにツッツキをするときは、かなり緊張するものである。


写真:大島祐哉(木下グループ)/撮影:ラリーズ編集部

それは、強く打つ打法とツッツキの打法の体の使い方が全く違うことが要因と言える。それに対して、打って打って打って、弱く打つ、ならば体の使い方は同じなので、同様のミスは減らせるはずだ。

そして相手としては、こちらが打つ姿勢を見せる時点で、強いボールを待ち構えるはずだ。それに対してスピードのないボールが来たら、肩透かしのような感じになり、対応はできても返球するのがやっとのはずだ。そこで相手のリズムを崩すということにつながるわけだ。


写真:戸上隼輔(明治大)/撮影:ラリーズ編集部

野球のバッターが豪速球のあとに来るゆっくりの変化球にタイミングを合わせるのが難しいのと同じ理屈である。となるともちろん、豪速球つまり強く打つボールもあることではじめて、弱く打つボールが効いてくるというのは言うまでもない。

フィッシュやカットといった状況では、こちらとしても万全の体勢で攻撃をする時間がある。であるが故に渾身のパワーボールを打ち込みたくなるし、逆に弱く打つということはかなり勇気がいる選択となるだろう。

しかし実際にやってみると、打つコースさえ間違えなければ意外とカウンターを喰らったりすることもないことに気付くだろう。反応に遅れつつなんとか入れてくるか、無理してカウンターしようとしてミス、というのが大方のパターンだ。

まとめ

いかがだっただろうか。今回は「弱く打つ」ということについてお話してみた。自分のミスを減らす側面と、相手のミスを誘う側面の両方があり、非常に得策であると考える。

試合になると緊張して攻撃のミスが増えてしまう選手や、カットなどで粘られる相手がどうも苦手だという選手は、弱く打つという選択肢を加えることで、戦い方の幅が一気に広がるだろう。ぜひ一度取り入れてみて欲しい。

若槻軸足インタビュー記事

>>『頭で勝つ卓球戦術』シリーズ著者・若槻軸足が社会人で全国5回でられたワケ

若槻軸足が書いた記事はこちらから

>>【連載】頭で勝つ!卓球戦術