張本のバックハンドは中国を凌駕する【松下浩二の「卓球超観戦術」#2】 | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

写真:松下浩二氏/提供:©T.LEAGUE

卓球プレーヤー向け 張本のバックハンドは中国を凌駕する【松下浩二の「卓球超観戦術」#2】

2020.10.29

卓球界のレジェンド・松下浩二氏が、卓球観戦のための書籍を発売した。
その名も「卓球超観戦術」。
張本智和の強さの理由や、「なぜ日本は強くなったのか」という多くの人が抱く疑問まで、幅広く網羅された内容の中から、印象的な部分を全4回連載でお届けする。

>>最も盛り上げる戦型 粘り強さが魅力のカットマンに注目【松下浩二の「卓球超観戦術」#1】

“世界最強”馬龍(マロン・中国)をねじ伏せた張本のバックハンド

卓球の試合は戦況に合わせてプレー、戦術が変化していくものですが、変化が少ない試合も実際にはあります。今から紹介する張本智和選手の試合もその一例といえるでしょう。

試合は、2019年男子ワールドカップ、男子シングルス準決勝、張本智和選手対馬龍選手(中国)。世界選手権3連覇、リオ五輪で金メダルを獲得した世界最強の選手を張本選手が下しました。

試合全体を通して、張本選手の前陣での超高速プレー、強力なバックハンドに馬龍選手が押されるという構図になっています。いつもならば力で相手をねじ伏せる馬龍選手が最初から最後まで自分らしいプレーができず、かなりストレスが溜まったであろう内容になっているという驚くべき展開です。


写真:2019男子ワールドカップの張本智和/提供:ittfworld

フォアハンド勝負ならば馬龍選手に分がありますが、バックハンドや台上プレーでは完全に張本選手が上回っていました。張本選手のバックハンドはスピードに加えて、コースのわかりづらさも特徴で、特にすごいのがストレートへのボール。打球点が速いうえに、外側(相手のフォア側)に逃げていくシュート気味の打球になっており、これには馬龍選手でさえも対応できていませんでした。中国選手がボールに触ることもできず〝ノータッチ〞で抜かれるというのはそうそうないので、張本選手の技術力には驚かされるばかりです。


写真:馬龍(中国)/提供:ittfworld

恐れずに前陣で構える張本

また張本選手の勝因として、前陣でのプレーを死守し、フォアハンドでも積極的にカウンターを狙ったという点もあげられます。馬龍選手のフォアドライブは「世界最強」ともいわれる威力で、対峙する選手はかなりのプレッシャーを感じ、ついつい後ろに下がってしまいがちです。

しかし張本選手は恐れずに前陣で構え、そのフォアドライブをカウンターで狙ったことで自分に有利な展開を維持することができました。もしも張本選手がフォア側のボールを無難に返していたら、もっとフォアサイドを狙われ、馬龍選手に攻め込まれていたかもしれません。それをさせなかった張本選手に最終的に軍配が上がったのです。


写真:2019男子ワールドカップの張本智和/提供:ittfworld

馬龍選手は台から距離をとる、長いサービスを混ぜるなど、戦術を変えようと試みるのですが、打開することはできず、最後まで張本選手のミスを待つという受け身の展開になってしまいました。

張本選手のプレーは戦術面でいえばまだまだ単調ですが、それを補って余りあるバックハンドの技術力、自分のプレーを貫く強さが、世界チャンピオンを圧倒したのです。

日本の卓球はなぜ強くなったのか?【松下浩二の「卓球超観戦術」#3】 に続く>

松下浩二氏プロフィール

1967年8月28日生まれの愛知県出身。日本卓球界初のプロ選手として国内で活躍し、その後、海外にも視野を広げ日本人初となるドイツ・ブンデスリーガ、フランスリーグ、中国超級リーグでプレーをした。バルセロナ五輪から4度のオリンピックに出場。現役時代はカット主戦型として粘り強く戦った。現役引退後は日本初のプロリーグ化を目指して尽力、2018年に「Tリーグ」を創設し、初代Tリーグチェアマンとなる。2020年7月をもってTリーグチェアマンを退任、Tリーグアンバサダーに就任した。10月1日より卓球メーカーの(株)VICTAS代表取締役社長に就任。

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