戦型:右ペン表裏
卓球ライター若槻軸足がお届けする「頭で勝つ!卓球戦術」
遂に東京五輪が開幕し、連日熱戦が繰り広げられている中、今回は「卓球の魅力とは」というテーマでお話していく。
前回のリオ五輪での日本選手団の活躍から、爆発的に卓球人気が広がり、今や中学校での部活動で運動部の中では卓球部が1、2を争う人気だという話をよく耳にする。メディア報道やバラエティ番組でも卓球選手が取り上げられることも珍しくなくなった。
そんな卓球の魅力について、前回の記事では観る側の立場から語ったが、今回はプレイヤーの立場に立って私の持論を展開していきたい。
このページの目次
卓球の魅力①手軽である
まず卓球の魅力として挙げられるのがその手軽さだ。
写真:ラケットとボール/撮影:ラリーズ編集部
卓球に必要なのは卓球台とそれを置く部屋、ボールとラケット、そしてプレイヤーが二人いれば成り立つスポーツだ。野球ならば9人、サッカーならば11人、しかもそれぞれ2チーム、合わせて20人程度がいないとできないのだ。
たとえば学生時代に野球やサッカーをやっていた方でも、社会人になってから20人近くの大人を集めるのは相当難しいものだ。
さらに言えば、より本番に近い状態で試合を行うためには、審判という存在も必要になる。
球技以外でも柔道や剣道などは、やはり審判がいないと公正に試合を行うのはなかなか難しいのではないだろうか。ただ卓球の場合はルールが明確で、プレイヤー同士でジャッジを行うことができるので、特段審判という存在が必要にはならない。卓球をやりたいときは卓球仲間が1人いればそれでオーケーなのだ。
写真:ラボライブレーティング大会の様子/撮影:ラリーズ編集部
またそのフィールドも、近くの小中高いずれの学校においても、「ウチに卓球台は置いてません」といったところはまずないだろう。地域の公民館やスポーツクラブ、そして個人が営む卓球場など、卓球ができる環境というのは実はものすごく多い。卓球ができる場所というのは探せばいくらでもあるはずだ。
さらに、卓球は屋内競技なので天候の影響を受けない。
写真:全農杯 2021 全日本卓球選手権大会 (ホープス・カブ・バンビの部)会場/撮影:ラリーズ編集部
雨が降っていても真夏の猛暑でも、多少の影響はあるもののプレー自体ができないといったことはまずないだろう。その点も非常に恵まれているといえる。人数的の面でも、環境の面でも、そして天候の面でも卓球はあらゆる点で恵まれており、あらゆるハードルが低い非常に手軽なスポーツなのである。
卓球の魅力②様々な選手同士で試合が成り立つ
卓球は競技レベルの幅がとても広い。というのも、単純な競技経験の年数や、身体能力といった要因だけでは勝敗が決まらないからだ。
写真:全日本選手権ホープス優勝の香取悠珠子(卓桜会)/撮影:ラリーズ編集部
パワーやスピードよりも、頭脳や賢さ、作戦の巧みさといった要因が勝敗を大きく分ける。そのため小学生と大人が対峙しても、試合が成り立ちうるのだ。作戦を工夫したり、性質の異なるラバーを使ったりして相手にミスを誘うやり方もある。あるいはプレースタイルの相性というものもある。
そしてそこへ加えて、心理戦の要素が加わってくる。大きな舞台になればなるほど緊張するもので、そうなれば試合の流れもめまぐるしく変わるし、大逆転劇も起こりやすい。もう卓球は複雑な要素の絡まり合いで、試合でどちらが勝つのかは、対峙してみないと分からないのだ。
写真:東京五輪で大逆転劇を演じた水谷隼(木下グループ)と伊藤美誠(スターツ)/提供:ITTF
それは女子と男子の試合でも同様だ。男子は1球ごとのパワーやコート全面をカバーする脚力などに優れているが、女子選手はタイミングの早さや、ラリーのテンポなどに優れている。そういった全く異なる部分にそれぞれの特徴が現れるので、一概に女子よりも男子が強いとは必ずしも言い切れないのだ。
さらに、個人戦でもこれだけ複雑な要素が絡まり合っているのに、ことダブルスとなるとさらに分からない。
写真:水谷隼(木下グループ)と伊藤美誠(スターツ)/提供:ITTF
単純に1+1=2となるのではなく、ペアリングによっては1+1=3にも4にもなりうるのがダブルスである。さらにそこへ男女がペアを組む混合ダブルスという種目もある。卓球は、目に見えて分かりやすいパワーやスピードではなく、目に見えない部分が勝敗を大きく分けることになる。そいうところに卓球の面白さがあるのだ。
卓球の魅力③生涯スポーツとして楽しめる
そして私が最も素晴らしいと感じている点が、卓球は死ぬまでできるということだ。
バレーボールやバドミントンなどの激しいスポーツは、一定の競技性を保った状態、つまり「勝負に勝つ」目的で生涯続けるのは、日頃から相当な鍛錬が必要になってくるだろう。しかし卓球の場合は、通常に運動ができる程度の体であれば、それほど負荷をかけることなく競技を続ける事ができる。
トップレベル層においても、ルクセンブルクの倪夏蓮(ニーシャーリエン)選手は58歳で東京五輪でプレーをした。還暦を間近に控えながらも世界で戦う選手なんて、そうそう聞いたことがない。
写真:倪夏蓮(ニーシャーリエン・ルクセンブルク)/提供:ロイター/アフロ
選手生命が長いことについては、卓球に必要なのが単純な身体能力だけでなく頭の賢さや手先の器用さであることも要因である。
しかしそれ以上に大きいのは、卓球は圧倒的に怪我が少ないスポーツだということだ。飛んだり転がったりといった激しい動きは他のスポーツと比べてかなり少ないし、選手同士の接触もほとんどない。打球を顔面に受けたとしても、ボールの重さはわずか2.7g程度だ。
もちろん怪我がゼロというわけではないが、他の一般的な競技よりも怪我が少ないのは明らかだ。多少のブランクがあっても、年齢を重ねていても、安全にプレーができる。健康維持という側面もあるだろうが、しかしおそらくほとんどの方は、いくつになっても「勝負に勝つ」ことを目的にプレーを続けているのだ。
写真:ティモ・ボル/提供:ittfworld
全日本選手権ではマスターズという種目があり、それは30代、40代、50代と年齢別の区分けがされている。各年代に強者がひしめいており、自分の年齢がその年代に差し掛かると、各々がそこへ出場すること、さらには勝ちを重ねることを目標に日々切磋琢磨しているのだ。
さらに東京選手権においては、なんと90歳代の部まであるではないか。こんなスポーツが他にあるだろうか。
卓球の魅力まとめ
私は中学校から卓球を始め、かれこれ20年卓球をプレーしていることになる。20年前と今では、体の大きさも違うし、技術や知識の量も違う、ラケットやラバーといった用具も、プレースタイルも何もかもが違う。
しかし卓球が好きだと言う気持ちは、昔も今も全く変わらない。その気持ちはおそらくこの先20年も変わらないだろう。
卓球は観るにしても、やるにしても、本当に魅力がたくさん詰まった競技である。
改めて言う、私は卓球が大好きだ。そして死ぬまで卓球をし続ける。それが私の当面の目標である。
若槻軸足インタビュー記事
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