松下さん、どうしてVICTASを創ったの?電撃復帰から3ヶ月、今後の野望を聞いてみた。<VICTAS代表・松下浩二氏インタビュー> | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

文中写真:伊藤圭

卓球プレーヤー向け 松下さん、どうしてVICTASを創ったの?電撃復帰から3ヶ月、今後の野望を聞いてみた。<VICTAS代表・松下浩二氏インタビュー>

2020.12.25

取材・文:川嶋弘文(ラリーズ編集部)

“五輪出場4回”日本卓球界のレジェンドが新生VICTASに懸ける想い

卓球男子日本代表チームへのウェア提供や東京五輪代表の丹羽孝希選手への用具提供など、卓球界で確固たる地位を確立しているVICTAS(読み:ヴィクタス)。

そのVICTASブランドの生みの親である松下浩二氏が2020年10月に同社の社長に返り咲いた。

自身がブランドを立ち上げてからちょうど10年目となる節目での復帰に卓球業界に衝撃が走った。

「日本初のプロ卓球選手」「五輪出場4回」「世界選手権メダル獲得」「Tリーグ初代チェアマン」など数えればキリが無い実績を挙げてきた卓球界のパイオニアはこれから何を仕掛けるのか?

松下浩二氏にVICTASブランドの軌跡と将来展望を聞いた。

VICTASブランド誕生の経緯

ーー2010年に当時㈱ヤマト卓球(現:㈱VICTAS)の社長になられ、翌年の2011年にはVICTASブランドを立ち上げられました。ブランド創設の経緯を教えて下さい。
㈱VICTAS代表取締役社長、松下浩二氏(以下、松下):
私が社長を引き受けたときのヤマト卓球は、社歴が80年以上経っていて、卓球に携わる方からの認知度は高かった。ボールや粒高、表ソフトなどの異質ラバーが有名でした。価格もリーズナブルで一般の方に好まれる製品が多かったのですが、一方で異質ラバー以外はトップ層に使われる製品がなかった。

事業を伸ばすにあたって、トップ志向の製品、ブランドを作っていかないといけないと考えた時に、TSPをリブランディングするよりも、新しいブランドを立ち上げた方が早いと考えました。当時トヨタ自動車がレクサスブランドを立ち上げたことで、トヨタと高級志向のレクサスをうまく分けてブランディングしてるのを見て、ヒントを得ました。このようにトップ志向の高品質なブランドを立ち上げようということでVICTASを2011年に発表しました。

ーー裾野が広い卓球マーケットにおいて、トップ選手に使って貰うことが売り上げにもつながるということなんでしょうか?
松下:
そういうことだと思います。やはりプレーヤーはトップの選手に影響されることが多い。トップの選手が使ってる用具は初級者、中級者のユーザーさんも安心して使っていただける。ですからトップ選手が使えるものをVICTASで作っていこうと。

ーーVICTASというネーミングは誰が考えたのですか?
松下:
これは私が考えました。「VICTORY」と「明日(あす)」を組み合わせて「明日の勝者になろう」という意味を込めてVICTASという名前をつけました。当時は国内でも売上ベースで3位の卓球メーカーでした。そんな中、一番を目指していこうということで、「今は一番じゃないけど、でも明日は一番になれるように頑張ろう」という意味をこめました。

転機となった丹羽孝希選手とのアドバイザリー契約

ーー実際にトップアスリートに使って貰えるようになるまで、どのような苦労があったのでしょうか?
松下:
製品作りに関しては、とにかく妥協したくないと思っていました。あくまでもトップ志向の強くなりたい人が使うブランドとして、そのイメージが崩れないようにやっていましたね。最初は強みである表ソフトを出し、次にトップ選手の主流である裏ソフト、そしてラケットを開発していきました。約5年の歳月をかけて、トップ選手が世界で戦える裏ソフトラバーV15が2015年にできました。

>>VICTAS公式サイト V15商品ページはコチラ

ーー直後の丹羽孝希選手とのアドバイザリー契約も印象的でした。ラバーは特に成績に直結しますので、開発が難しいと思うのですが、どのようなステップを踏んでいらっしゃるのでしょうか?
松下:
ドイツにあるラバー工場と頻繁にコミュニケーションを取り、何回も足を運んで試打やミーティングをしましたね。丹羽選手にも工場で何回もテストしてもらいました。開発までにはかなり手間と時間がかかっています。我々の強い想い、とにかくトップ選手が世界で勝てるギアを作るんだという気持ちが大きかった。


VICTASアドバイザリースタッフの丹羽孝希

ーー丹羽選手はその後、リオ五輪でのメダル獲得や東京五輪代表内定など結果を残されています。
松下:
丹羽選手とは特別な縁があります。親父さんと昔からの知り合いで、丹羽選手を小学生の頃教えてた西村さんが、私が所属していた実業団(グランプリ)時代の後輩だったんで。西村さんから「凄い選手がいますよ。少し面倒見てるんですけど」って。それが丹羽選手でした。

それから当時置かれていた丹羽選手の状況とVICTASの置かれた状況が似ていた。

今は一番じゃないけど、一番を目指して本気で頑張るという選手像に最もマッチしていたんです。彼に使えるラバーを作ろうということで開発を進めた経緯があります。

>>「もっともっと強く」静かな男の熱い決意【Rallys×VICTAS#1 丹羽孝希】

ーー丹羽選手、直後のリオ五輪でも活躍されましたね。
松下:
リオで男子でオリンピック初のメダル取ってくれましたし、その後もコンスタントに世界ランキングを落とさずに10位前後をキープしている。東京五輪の代表にも内定しています。更に高みを目指す選手なので今後もメーカーとして一緒に戦いたいと思っています。

世界で戦うVICTASのウェア

ーーリオ五輪後の2016年10月に男子日本代表ウェアの公式サプライヤーとなられましたね。
松下:
タイミング的にもVICTASのブランド価値を高めるために絶対に必要な契約だと思い、入札を勝ち取りました。ナショナルチームのオフィシャルサプライヤーは日本代表選手と一緒に戦うブランドです。何を着ても一緒だと言われないように、選手たちの満足のいくデザインとか着心地であることが大切です。私が現役の時もそうでしたが、ウェアが心地よければプレーをするときの気持ちも変わりますから。

ーーその後、フランス代表チームのサプライヤーにもなられました。フランスは芸術の都パリに代表されるようにデザインにこだわるお国柄。ウェアの契約獲得はスゴいことだと思います。
松下:
ヨーロッパは日本に次いで大切なマーケットだと思っています。イングランドのピッチフォード選手との契約もVICTASにとっては大きかったですし、そしてブランドをPRするために代表ウェアのインパクトは非常に大きいのでフランスチームとの契約がヨーロッパでの認知度を高めてくれると思います。これらは私が復帰する前に、兒玉前社長がそういう判断をして獲得してくれました。

ーー国内でも男子は松平賢二選手や吉村和弘選手とパワフルな選手たち。女子も木原美悠選手や小塩遙菜選手ほか日本卓球の未来を担うアスリートがVICTASの契約選手となっています。その理由はどのように考えますか?
松下:
やっぱり製品のクオリティが大きいと思うんですよね。選手が納得して使えるラケットやラバーでないとやっぱりなかなか契約できないですから。条件が良くて契約をしたいけど、用具が合わないというトップ選手の事例も良く聞きます。そこがクリア出来てきてるのが近年のVICTASだと思ってます。


VICTASアドバイザリースタッフの木原美悠

今後のブランド展開

ーー今後の事業戦略についてはどのようにお考えでしょうか?
松下:
私の中ではまず国内が一番重要。もちろん日本も世界も両方取りに行きたい気持ちもありますが、力を分散させては勝てない。今は国内にパワーを集中させて日本のマーケットで一番を取る。日本で一番になれるということはお客様に支持される理由があるということ。製品力、ブランド力などなど。それらを持って海外展開していければ良いと思っています。

ーーそういう意味では国内で一定のシェアを誇っていたTSPブランドをVICTASに統合する意思決定は大きな決断だったと思います。
松下:
そうですね。まず申し上げたいのは長年TSPを愛用頂いたことへの感謝と、ブランド統合で次に出す商品を楽しみにして頂きたいということです。

TSPでは幅広い選手層に好まれる製品を作っていこうと思ってやってきた。今後更に良い商品を提供しようと思った時に、2つのブランドで力を分散するよりも、一本化することでのメリットが大きいと判断しました。またVICTASの中に「VICTAS PLAY」という新しいラインを設け、走り始めています。

ーーその狙いは?
松下:
「VICTAS PLAY」では従来のTSP商品を一部引き継いで幅広い方々に好まれる商品も展開しますし、従来の卓球の殻を破って勝負出来るような商品にもチャレンジしていきます。

強くなりたい人、トップ志向の「VICTAS」本ブランドとは違うイメージを持って頂けると思います。逆に従来のTSPを残していたら出来なかったようなチャレンジをしたいですね。

ーーニット帽やパーカーなど卓球以外で使えるものを発売した経緯が理解できました。勝負を仕掛けるマーケットである日本の卓球シーンは今後どうなっていくと予想されていますか?
松下:
Tリーグの開幕に携わって見えたことですが、この5年、10年で日本の卓球シーンは大きく変わりました。選手は強くなったし、広告換算の価値も高まった。卓球をやっていない普通のサラリーマンの人たちが卓球の話題で盛り上がるシーンも増えました。

一方で少子化により人口が減っていくリスクもある。会社としてはマーケットが仮に縮小しても競争で勝っていくつもりですが、やっぱり卓球人口は増やしていきたいし、もっと卓球に興味の無い方にも興味を持っていただけるようにしたい。なかなか1社だけでは難しい部分もあるので、卓球の普及のためには、他の卓球メーカーとも一枚岩になってやっていかなければと思っています。

ーー最後に卓球を愛する読者に向けたメッセージをお願いします。
松下:
この前まではTリーグのチェアマンでしたが、今度はVICTASの社長として卓球を通じて皆さんに喜んでいただけるように頑張ります。当社のことで言えば先程も言いましたが、TSPを無くすというのが大きな決断でした。でもこれはお客様に迷惑をかけるためではなく、お客様に喜んでもらうためになくすことになった。今使っていただいている商品よりももっと「それぞれのユーザーさんに満足のいくものを!」と思っています。それはクオリティや性質かもしれないし、価格かもしれない。今後のVICTASを楽しみにしていて欲しいです。

ーーありがとうございました。

松下浩二氏のYoutubeチャンネル「まつしたこうじの今夜もカットマン」はコチラ