卓球界に根深く残るスピードグルーや補助剤(ブースター)問題 その全容を詳しく解説 | 卓球メディア|Rallys(ラリーズ)

卓球用具紹介 卓球界に根深く残るスピードグルーや補助剤(ブースター)問題 その全容を詳しく解説

2020.05.20

文:ラリーズ編集部

たびたび物議を醸しており、今なお根深く卓球界に残っている「補助剤(ブースター)」問題。1卓球プレイヤーとして理解しておく必要のある問題だろう。今回は補助剤とはどんなものか、なぜ問題視されているのかを解説する。これをきっかけに補助剤をめぐるルールや選手のあり方について、今一度考えてみて欲しい。

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補助剤(ブースター)とは

かつてはラバーの性能を向上させる道具として、有機溶剤入りのラバー接着剤、いわゆる「スピードグルー」が使用されていたが、人体への有害性などを理由に2008年に使用が禁止された。その代替品として登場したのが補助剤であり、スピードグルーと違って人体には無害であったが、現在は使用が禁止されている。

補助剤はラバーの接着前にスポンジ面に塗り込むことで、スポンジが膨張して柔らかくなり、弾みや回転、コントロールといった性能が向上する。補助剤を塗ったラバーは反り返り、端側が浮いてくるのが特徴だ。現在主流となっているスピン系テンションラバーや粘着ラバーといったスポンジが硬いラバーとの相性が良く、段違いの性能を引き出すことができる。

補助剤問題とは

では、補助剤をめぐる問題とはどのようなものなのか。それは、ルール上で禁止されているにもかかわらず、使用者を取り締まる有効な方法が確立されていないために、補助剤を使い続けている選手がいまだに存在するということだ。

有機溶剤入りのスピードグルーは揮発性が高く、機械を用いた検出が容易であったため、ルールで禁止された直後にほとんどの選手が使用をやめた。しかし、揮発性の低い補助剤は検出が難しく、使用者の特定が困難であるために、半ば黙認状態のようになっている。ルールを守り、補助剤を使用していない選手が不利になってしまっている状況だ。トップ選手だけでなく、現在では日本国内でも容易に補助剤を入手できてしまう環境だ。

また、ルールで禁止されているのは“ラバーの後加工”(出荷された後のラバーに加工を加えて性能を変化させること)だけである。つまり、出荷前のラバーであれば補助剤と同様の加工を行うことができるということだ。この辺りのルールのチグハグさも問題に拍車をかけている。

補助剤の歴史

2008年、北京五輪の後にスピードグルーの使用が禁止され、それに続いて補助剤を含むラバーの後加工が全面的に禁止された。しかし、その後も国際大会などで補助剤を使い続ける選手がいるという。この状況を問題視し続けてきた水谷隼がロンドン五輪後に、状況が改善しないのであれば国際大会をボイコットするという声明を発表し、世界に訴えかけたことは大きな反響を呼んだ。ティモ・ボル(ドイツ)などの海外のトップ選手も過去に補助剤問題に言及している。

しかし、水谷をはじめとする選手や協会が訴えかけているにもかかわらず、今なお世界中で補助剤の使用が横行する事態が続いている。また、ITTFによる統一的なルールの制定による対策も進んでいない。2016年には日本卓球協会が反発係数を測定するラケット検査の導入を提案したが、ITTFはコスト面などを理由にこれを否決した。2018年には人体に有害である物質による後加工のみを禁止するという、事実上補助剤を公に認めるルールが議題にのぼるはずであったが、提案はITTF総会の前に撤回されてしまった。

ルールに則ったプレーを

現時点で世界的に禁止されている行為である以上、補助剤を含めたラバーの後加工は絶対に行うべきではない。お互いルールに則り、正々堂々勝負をするのがスポーツマンシップである。選手一人ひとりがフェアプレーを重んじ、補助剤問題が解決される時が来ることを願ってやまない。

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