2021年から始まった新大会WTTに、日本卓球協会、選手ともに振り回されている。世界ランキング上位者が優先的に出場できる、もしくは指名された選手のみが出場できるルールとなっているため、全ての選手に公平に出場が認められていない。
そのため、日本卓球協会は6日の理事会で「2024年のパリ五輪代表選考においてWTTを対象外とする」という考え方を承認した。
第2回の今回はその詳しい背景を、日本卓球協会強化本部長の宮﨑義仁氏に聞いた。
【宮﨑義仁(みやざきよしひと)】1959年4月8日生まれ、長崎県出身。鎮西学院高校~近畿大学~和歌山銀行。現役時代に卓球日本代表として世界選手権や1988年ソウル五輪などで活躍後、ナショナルチームの男女監督、JOCエリートアカデミー総監督を歴任。ジュニア世代からの一貫指導・育成に力を注いでいる。公益財団法人日本卓球協会常務理事、強化本部長。
>>宮﨑氏インタビュー第1回はこちら WTTに振り回される卓球界 宮﨑強化本部長「世界ランキングを人質とした進め方」
日本独自のポイントでパリ五輪代表は選考へ
――日本卓球協会としてはパリ五輪代表選考にWTTを適応しないという基準が6日に発表されました。
宮﨑:今後、国際大会は世界選手権、アジア選手権を中心とした大会だけを対象にする。これらの大会は世界ランク関係なしに日本側で選手を選ぶ権利があり、その5人は国内予選で選ぶため、全選手に公平公正であるから。
今度は国内予選に出られるか出られないかという問題が起きますけど、なるべく広い範囲で全ての選手が出られるようにしようとは思っています。5人の選手を絞って国際大会に出て、そこのポイントは私たちが設定します。
写真:宮﨑義仁氏/撮影:ラリーズ編集部
――世界ランキングポイントではなく、日本側で独自のポイントを設けるということでしょうか?
宮﨑:日本卓球協会独自で設定します。
例えばグランドスマッシュの優勝は2000点ですけど、アジア選手権の優勝は500点。これは卓球界では釣り合わない。五輪の優勝も2000点ですが、中国選手は2人しか出ないので、日本選手が優勝する可能性はある程度ある。一方、500点しかもらえないアジア選手権は中国選手5人出てくる。その中で優勝はかなり難しい。
写真:WTT側が発表している各大会優勝時の世界ランキングポイント/作成:ラリーズ編集部
また、選考期間は基本的に2022年の全日本選手権終了後からスタートして、2024年の全日本選手権が終わった時点の2年間として、こちらが設定した大会でポイントをつけていきます。
写真:2017年アジア選手権で中国選手を連破し優勝した平野美宇(日本生命)/撮影:Imaginechina/アフロ
――期間を2年間としたのはなぜなのでしょうか?
宮﨑:なぜかというと、五輪は4年に1回です。選考基準にしようとしているアジア競技大会も4年に1回、アジア選手権は2年に1回、世界選手権個人戦も2年に1回。つまり、1年間に絞ったら、対象大会がない場合もあるので、最低でも2年に広げることにした。広げる代わりにポイントの配分は1年目を低くします。
1年目のポイントは50%で2年目のポイントは100%換算。すなわち1年目よりも、直近の2年目の成績が良い選手の方がポイントは高くなる。ゴルフやバドミントン、テニスのランキングは、一概に全てを同じポイントにしていない。それを採用しました。
写真:宮﨑義仁氏/撮影:ラリーズ編集部
Road to Paris国内選考会も実施へ
――6日の発表では国内選考会や全日本選手権も対象にするとありました。
宮﨑:全日本は日本の選手全員が出ますから、ポイントの対象にします。2024年の全日本が終わったときにパリ五輪代表を発表します。2024年の全日本で優勝した人は大きいポイントを取って、代表になる可能性があるということになる。
写真:2021年全日本選手権で優勝した及川瑞基(木下グループ)/撮影:ラリーズ編集部
世界選手権、アジア競技、アジア選手権の予選会も全員が出ますから、本大会よりは低くなりますけど、予選会にもポイントをつけます。
――予選会にもポイントをつけて、より広くチャンスを与えるわけですね。
宮﨑:あとは日本卓球協会独自のパリ五輪に対しての『Road to Paris国内予選会』を数回行います。選考会を多く開けば開くほど、実力の高い選手が炙り出される。一発勝負だとそのとき強い選手が行くので、4年間の結晶という意味では、あんまり良くない。
つまり、2年間、対象の国際大会が少ない中で、予選会もポイントに入れ、さらには日本卓球協会で選考会を入れることによって、実力によるポイントを標準化する。標準化するためには回数を多くする。1年目にもし怪我をしてもポイントは半分だから2年目で挽回もある。
写真:石川佳純(全農) 東京五輪代表選考では世界ランキングで決まるため平野美宇と代表争いを演じた/撮影:ラリーズ編集部
――今回のお話は、宮崎さんがこれまでやってこられた「世界で勝てる選手を代表に」という方針から、国内成績重視に変わったようにも見える。そのあたりはどうですか?
宮﨑:その方が選手にとって公平公正だから、そっちを選ばざるを得ない。
でも国内の予選で勝った選手が、結局は世界選手権、アジア選手権などの選考ポイントの対象となる国際大会に出ていくので、結局一緒になると思っています。
写真:日本男子世界ランキングトップの張本智和はTリーグでも最多勝を獲得し実力を示した/撮影:ラリーズ編集部
いろんなことを考慮して、他競技も見て研究したときにこれが良いだろうと。日本卓球協会としてWTTはお付き合いできる国際大会ではないと踏ん切りがついた。それと同時に、自分たちが主導して選手を選んでいくという道筋を作ってあげないといけなかった。
――すでに選手には案内されているのでしょうか?
宮﨑:先日選手には、トップから中学生のナショナルチーム、アンダー15全員、そこの監督コーチ、マネジメント入れたら約100名とzoom会議を実施した。
「WTTのランキングは、パリ五輪の競争に対しては導入しない。WTTに出場できない選手がほとんどですけど、皆さん安心してください。自分の将来がなくなったと思うのではなく、日本卓球協会はパリの選考においてWTTを外した基準を作ります」という発表はさせてもらいました。
混沌としているWTTへの落胆
写真:宮﨑義仁氏/撮影:ラリーズ編集部
――前回WTTのお話を宮崎さんからお聞きしたときに懸念していたことが起きていますね。
宮﨑:それが露出してきたということですね。日本は卓球をこよなく愛して、メディアも注目している。このWTTへの落胆というのは、僕らとしては残念ですよね。
WTT側の考えとしては、五輪も世界選手権も価値を下げたいのでしょう。自分たちの大会であるグランドスマッシュを最高位に持っていきたいという考えなので、すべての卓球界がそれについていけるかというとちょっと難しい。だからWTTの組織そのものを、やっぱり変えないと、世界は落ち着かないなという感じですね。日本は絶対に従いません。
写真:WTTマカオの様子/提供:ittfworld
――今後、WTTとはどのように向き合うのでしょうか?
宮﨑:バタバタしている中で、まだ発表されていないけれど、2月末に国際卓球連盟(ITTF)からメールが来て、「WTTに派遣しているITTFの役員、カタールの会長カリル・アル・モハナディ氏が解任されました」と連絡があった。
写真:カタール卓球協会会長のカリル・アル・モハナディ氏/提供:ittfworld
ITTFの副会長は6名いて、そのうちの1名がWTTを指導する立場に執行されていた。そのカリルが解任されました。ということは、ITTFの人間ではない劉国梁(リュウグォリャン・中国卓球協会会長)とITTF副会長のカリル2人でやってたのが、片腕が取られた。
写真:中国卓球協会会長・劉国梁(リュウグォリャン)氏/提供:ittfworld
こういうのを見ててもWTTが順風満帆にいくとは思えない。だからいろんな変更が起きている。日本選手にとって公平公正な大会に戻れば、私が今作っているルールも柔軟に変えていこうとは思ってます。
(Tリーグ男女優勝チームを宮﨑氏が分析 「日本生命の育成はTリーグのモデルになる」 に続く)
宮﨑義仁氏の連載コラム
取材:槌谷昭人(ラリーズ編集長)