宮﨑義仁氏に今年度の卓球界を振り返ってもらう今回の特集。第3回は、Tリーグ理事長補佐の立場としてTリーグサードシーズンを振り返ってもらった。
【宮﨑義仁(みやざきよしひと)】1959年4月8日生まれ、長崎県出身。鎮西学院高校~近畿大学~和歌山銀行。現役時代に卓球日本代表として世界選手権や1988年ソウル五輪などで活躍後、ナショナルチームの男女監督、JOCエリートアカデミー総監督を歴任。ジュニア世代からの一貫指導・育成に力を注いでいる。公益財団法人日本卓球協会常務理事、強化本部長。
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琉球の躍進の要因は吉村真晴
写真:吉村真晴(琉球アスティーダ)が優勝シャーレを掲げた/撮影:ラリーズ編集部
――まずはTリーグサードシーズンでファイナルを制した琉球アスティーダをどう見たか教えてください。
宮﨑義仁(以下、宮崎):宇田(幸矢)と戸上(隼輔)を獲れたことで琉球の優勝は当初からほぼ見えてたとこはありますね。よくあの二人が獲得できたなと。
写真:ファイナルで大島祐哉を下し、倒れこみ喜びを表した戸上隼輔(琉球アスティーダ)/撮影:ラリーズ編集部
あとは吉村真晴。真晴の爆発力はナショナルチーム関係の人は良く知っているし、彼はお祭り男だから、Tリーグのような環境に強い。琉球が真晴の活躍の場を提供できた。
――やはり琉球をキャプテンとして率いた吉村真晴選手の存在は大きいでしょうか?
宮崎:真晴がいて若い二人(宇田、戸上)がいた。爆発力あるプレーで縦横無尽に大暴れして、負けてもチームの雰囲気は真晴が「いくぞ!」という感じで持っていく最高のチームだった。
チームの拠点は沖縄だけど、みんな本来の所属はバラバラ。そこを真晴がいたからまとめきれたんだろう。本当に良いチームができたなという感じですね。
写真:吉村真晴(琉球アスティーダ)/撮影:ラリーズ編集部
Tリーグのモデルケースとなる日本生命の3連覇
写真:3連覇の日本生命レッドエルフメンバー/撮影:ラリーズ編集部
――女子の3連覇した日本生命レッドエルフについてはどう見られましたか?
宮崎:日本生命は、貝塚で中高校生含めてジュニアの育成をして、ジュニアを少人数ずつベンチにいれて試合で使っている。5年後を見据えてしっかり育成していくという、Tリーグのモデルになるような育成のやり方。頭が下がる思いですね。
写真:16歳の赤江夏星(写真右)は前半戦ダブルスのレギュラーとして活躍した/撮影:ラリーズ編集部
レギュラーシーズン全勝という考えでなく、5年後を見据えていかに選手を育成していくか、そしてファイナルに残るだけの勝ち数だけは確保しながら育成をしていくかという、リーグ戦の本当の意味をよくわかってらっしゃる。そして最後にフルメンバーを集めてしっかり勝ち切った。モデルケースだなと深く感銘を受けました。
写真:後半戦欠場が続いたが、ファイナルでは優勝を決めた早田ひな(日本生命レッドエルフ)/撮影:ラリーズ編集部
――貝塚の拠点でともに生活し、ともに練習している。トップ選手からジュニアまで選手層が厚いチームですね。
宮崎:私も貝塚に行って練習を見たことがありますけど、ナショナルトレーニングセンターと遜色ない緊張感、メンバー、環境が揃っている。西の貝塚、東のトレセンと二大拠点ができあがっている。
写真:充実の練習環境/撮影:ハヤシマコ
実は日本卓球協会は、ナショナルトレーニングセンターと日本生命の体育館の2か所をトレセン指定しています。だから、ナショナルチームが西日本に行ったときは、貝塚の日本生命の体育館はトレセンとして、自由に使える風になっている。
日本生命さんもナショナルチームに体育館を提供するという意気込みでやっているので、トレセンの雰囲気で練習しているし。西と東の二大拠点で日本全国が強くなっていく。
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――チームを率いた村上恭和総監督の手腕についてはどうご覧になっていますか?
宮崎:2001年、私がナショナルチームの監督になって、ホープスナショナルチームを作って、小学校からの育成を初めた。あの案は村上さんと一緒に考えたんです。村上さんが「宮﨑、小学校から育成やろうよ」と。協会としてまず小学校年代から強化に取り組んだ。
写真:村上恭和監督(日本生命レッドエルフ)/撮影:ラリーズ編集部
ただ、本当は幼稚園からやらないとダメだよねとは話していて、村上さんは独自に幼稚園に卓球台を寄付する一般社団法人卓球ジュニアサポートジャパンを作っているし、私もTリーグで6歳以下のチームを作るように8チームに言っている。
村上さんは、ホームの貝塚を中心に幼稚園への支援もしているし、中高校生クラブも作った。あのモデルが日本全国に5、6か所できれば日本は相当強くなる。
Tリーグ初の単年度黒字に
写真:Tリーグサードシーズン開幕戦/撮影:ラリーズ編集部
――大変な時期に就任したTリーグ理事長補佐一年目でしたが、いかがでしたか?
宮崎:Tリーグは7月から6月までの決算期で、第3期目の理事会で執行役員に選ばれ、7月6日に理事長補佐に就任しました。
過去2年の大きな負債が課題となっていた。ここは誰かが大なたを振るわないと、赤字は脱却できないし、改革は難しい。思いきり改革をやらせていただいて、やっとこの3期目の6月末に、初めての単年度黒字になると思います。
コロナ禍で無観客試合も多く、チケット収入がほとんどない中での単年度黒字なので、来年度以降の、ワクチンが回り、有観客になったとき試算は相当明るい将来が見えてきました。
写真:Tリーグファイナルで使用された卓球台/撮影:ラリーズ編集部
――具体的にはどのような取り組みで改革したのでしょうか?
宮崎:かかる費用の見直しですね。項目は何百とありましたけど、1つずつ見て、担当者と話した。申し訳ないけど、4分の1は断り、半分は削減、残りは継続という風にした。でもゼロにできるのがいくつもありました。
――かかる費用の精査を徹底したと。
宮崎:意識を変えないといけない。経費削減する気持ちを職員に徹底しないとダメだなと。最初職員からは相当嫌われて恨まれていたと思いますが、半年も過ぎると、宮崎さんの言うことは正しかったよねとなった。黒字化になることをこの前発表して、良い方向にきたとみんなが思っている。
最初は喧々諤々だったのが、少しずつ信頼関係が生まれてきたのがわかった。少しずつ自発的に動くようになってきたし、あとは赤字だけをなくせば良い組織になる。Tリーグは一流選手の最後の就職の場所。そこをつぶすわけにはいかないから。
写真:Tリーグファイナルの男子優勝シャーレ/撮影:ラリーズ編集部
――コロナ禍での黒字化は来年度に向けて大きいですね。
宮崎:来年度以降は観客が入れるだろうし、黒字が膨らむ。ただ今までの赤字をお返ししないといけない。
ただし、赤字を全部返すというよりも、黒字の50%は赤字返済に充てて、50%は8チームに還元していかないと発展しない。黒字幅を増やせば増やすほどチームが潤うという形に持っていきたい。リーグからの還元金が膨らめばチーム運営がやりやすくなり、そうなれば数年後にはチーム数も増えていくだろうと。
赤字が消えたとき、次世代の方に引き継げれば良いのかな。そこまでは私が責任を持って赤字をなくす。屋台骨をしっかりして、誰がやっても大丈夫なシステムを構築しておけば、誰がやっても失敗することはない。そういう先が見えてくる1年でしたね。
(日本卓球界で20代はベテランなのか?早咲き遅咲きはあるのか?宮﨑本部長に聞いてみた に続く)
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宮﨑義仁氏の連載コラム
取材:槌谷昭人(ラリーズ編集長)